紛い物の「家族」
ははは、と笑いが溢れるリビングでは、メイドが一人死んだとは気づかれていないまま、時が過ぎていっていた。
「お父様、お母様、見て!」
「ほら、神様の力!」
嬉しそうに笑っている双子に似た二人の女の子。
あぁ、これでいいんだ。大丈夫、あんな化け物たちは元々いなかったんだ、そうだ、これでいいんだ、と元の家族たちは微笑んでいる。
とてつもなく歪な関係だと理解はしている。
だが、そうしなければ、この名家が自分たちの代で根こそぎ絶やされてしまうかもしれない。そんなリスクを負うくらいなら、あんな化け物たちは殺してしまえ、と判断してしまったのだ。
「素晴らしい!」
「ええ、本当に」
技とメイドに見せつけるようにして力を披露している二人だが、実際は神の力などその身に宿していない。
単なる魔法をそれっぽく見せているだけの、まがい物でしかない。
しかし、本物の力を見たことが無いからメイドたちや他の使用人も本物だと信じ込んでいる。
「お嬢様方はさすがでございますねぇ」
「お嬢様方のおかげで、きっとこの先ずっとマリオン侯爵家も安泰でございます!」
双子もどきを褒め称えるメイドたちは、笑顔が絶えない。
いつからか入れ替わっている偽物を、ノワールとブランシュだと信じて疑っていないし、疑うそぶり何て微塵も見せていない。
「うちのブランシュとノワールの判定結果に、誤りがあったのよ。死神の加護だなんて嘘っぱちだったのよねぇ」
自信満々に言う母ヘンリエッタの顔には、迷いなどない。
もう、あの忌々しい双子はいない。存在そのものを消してしまえば、それで良い。あんな化け物を我が子だなんて認めたくもない事実だから。
(――もっともっと早いうちからこうすれば良かったのよ)
お茶を一口飲んでいると、魔法で遊んでいた双子もどきがヘンリエッタとジルベルトの元へと駆けて来た。
「お父様、お母様!」
「まぁ、どうしたの? わたくしの可愛い双子たち」
「私たちもケーキ食べたい!」
「ええ、良いわよ。さぁ、双子の好物を持ってきてあげて」
「かしこまりました」
メイドに指示すれば、さっと双子もどきの分までお茶の用意がされた。
きっと、こうなることを見越して準備をしていたのかもしれないが、双子もどきはそんなことを気にしていない。気にすることもないだろう、ここから先もずっと。
それに、この双子もどきは未だに彼女たちのことを決して名前で呼ばない。
あくまでこの侯爵家の末娘たちは、ノワールとブランシュなのだ。
未だ死亡報告が無い以上、決してあの子たちの名前で呼ぶことはしてはいけないのだ、とヘンリエッタも決めている。
当主として、捻じ曲げてはいけない。
(化け物が死ねば、この子たちは……)
正式に、社交界でもお披露目が出来る。
残念ながら、神の力を授からなかったということにしてしまい、神殿の判定が誤っていたのだ、誤ることだってあるのだ、と世間に公表したうえで、この双子もどきには将来のために役に立ってもらえれば、それでいい。
この子たちは理解していないかもしれないが、言い含めれば良いだけのこと。
「お母様?」
「どうしたの?」
たまたま孤児院で見つけたこの子たちが、ノワールとブランシュにとても良く似ていたから、迷うことなく引き取った。
死神なんかの力を宿してしまった不吉な存在なんかいらない。
穢れた存在なぞ、この侯爵家には不要なのだと己に言い聞かせ、ルイージャとフリストにも厳しく言いつけた。
あの双子が居なくなってから、まださほど年月は経過していないけれど、理解をしてくれている。
そうだ、これで良いんだとほくそ笑みながら、ヘンリエッタは遠慮なく双子を可愛がることに決めて、現在に至っている。
子供ならば、食糧を立てばすぐに死に絶えるに違いない。
そう思って食糧を絶ってやった。
メイドがくすねているのも知っていたから、あえてメイドが普段口にできないような高級な果物や菓子、その他諸々を詰め込んで運ばせ続けた。
「……おい、ヘンリエッタ」
「何かしら」
「おかしくないか?」
「何が?」
「……あの化け物、まだ死なないだろう?」
そういえば、と思う。
必死に生き延びようとしているノワールとブランシュの気持ちなんか、一切考えていない二人の発言を、引き取られた二人は理解できない。
分かっては面倒だからと、あえて別の言語で会話を繰り広げているのだが、もしそれが無かったとしても、仮に気にしたとしても、何かの情報を与えるわけもない。
「……死神に、寿命を必死に伸ばしてもらってるんじゃないかしら?」
凶悪な笑みを浮かべて告げた内容は、とんでもないものだったがノワールとブランシュが授かった加護のことを考えると理解もできてしまう。
寿命が近付いてきて、死にたくないと己の神に命乞いをして、神もそれを聞き入れているかもしれない。
あはは、と笑い合っている両親を見て、双子もどきは首を傾げる。
「……何か……怖いね」
「うん……でも、逆らっちゃいけない。私たちがここに居られるのは……」
あの方々が幽閉されているおかげなのだから、と、とてもとても小さく呟いた。
ノワールとブランシュがいたから、でも、死神の加護を授かってしまったから、こうして命までもを奪われようとしている。
それだけは、理解している。申し訳ないと思いながらも、こんなにも素晴らしい待遇を手放すこともできないのもまた、事実。
「……どうしたの、可愛い双子」
「何でもないです、お母様」
「はい、ケーキがあまりにも美味しくて」
へら、と笑う二人の真意を知っているのか定かではないが、知っていたとしても関係ないこと。
「きっと……もうすぐ名前を呼んであげられるわ。可愛い双子」
二人とは全く異なる質の笑顔を浮かべ、ヘンリエッタは微笑んだ。
そう、きっともうすぐあの忌々しい存在は、消え失せるだろう。そうすれば、あの離れごと焼き尽くして、遺体も何も残らないようにしてしまえば良いだけのこと。
かなり老朽化が進んでいる建物だから、いつ無くなっても問題などない。使える者は何でも使ってやるだけだ、とヘンリエッタは密かに拳を握った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……だってさ」
「ふぅん……」
ウルツに抱き上げられた状態で、ノワールは興味なさげに呟いた。
「あの人、ろくでもないこと考えてるのは分かった。ありがとう、ウルツ。ここまで連れてきてくれて」
「どういたしまして、俺の大事なマスター」
微笑まった二人は、ふっと消える。
この情報を、きちんとブランシュとエカードにも伝えるために。
そして、このヘンリエッタの発言を聞いたノワールが、ヘンリエッタたちが思っている以上にブチ切れていることは、ウルツだけしか気付いていなかった。




