怒りの矛先
どうしてなんだろう、と考えようとしたが頭の中に蘇ってくるのは、母親である人が自分たちにそっくりな双子っぽいものを可愛がっていたこと。
「ねぇ、どういうことだと思う?」
「マスター、俺に言ってる?」
「うん、ウルツに聞いてる」
「うーん」
どういうことなのか、と問われてもきっと良き草木の答えは同じかもしれない。
「あの両親だった人たち、で良いのかな? マスターとブランシュ様のことが鬱陶しい、ってことは理解できるよ」
無邪気に言われた内容に、理解はしていたもののノワールはずん、と表情を暗くする。
「あああああああごめんね!マスター、ごめんねええええ!!」
「いや……うん、大丈夫。ウルツに悪気があるってわけじゃないことは理解できてるから……うん……」
離れに到着し、ノワールが自分の部屋にしている部屋にて、ウルツの膝に抱っこされたままでずぅん、と落ち込んでしまったノワールを必死に宥めようとしているが、彼の放った言葉は結構な勢いでぶっ刺さっている。
「本当のことだし……理解もしてるけど……やっぱりそういういうこと、なんだよねぇ」
「ええっとぉ……」
その通りです、と事実を言っても凹むだろうし、言わなくてもそれはそれで凹むだろうし、どうしようかなぁ、と悩んでいると、ノワールの部屋の扉が遠慮がちにノックされた。
「はぁーい」
「ノワール、良い?帰って来てるのは知ってたけど……大丈夫……って、わぁ」
帰ってくるなりここに向かってしまった二人を見て驚いたブランシュだったが、ウルツの膝に抱っこされてぶっすー、としているノワールと慌てまくりなウルツを見て、ぎょっとしてしまう。
「どういう状況……」
「ウルツ、あなた姫様と一緒になって食糧取ってくる、って……」
「……うーんとね、最悪なもん見ちゃって」
「最悪なもの?」
はて、と首を傾げているブランシュとエカードを見て、ウルツは言葉を続ける。
「何かね、本邸?行ったら……」
「私とブランシュのそっくりさんがいた」
その一言だけで想像が出来てしまったらしいエカードは、『うわ』と苦い顔をしている。
「つまりそれは」
「理解が早くて助かるよ、エカード」
こればっかりは死神でもどうしようもないこと。
親の気持ちも分かるけれど、だとしても拝借する神の力が己の意に沿わなかったからといって、実の子供を殺そうとするだなんて。
気持ちとしては分かるものの、それをやるとは誰も予想していない。
「子殺し……」
「おい」
「あ」
「俺、言わなかったのに!マスターにめっちゃ配慮してたのに!!」
ぎゃんぎゃんと騒いでいるウルツだったが、腕の中でのそり、とノワールが動いた。
落とさないようにとバランスを取ったウルツは、腕の中のノワールを見つめる。
「……だいじょぶ、何となく私たちも理解はしてたの。現実を見たくなかっただけ」
「マスター……」
「死神だったとしても、私とブランシュにとっては……救いの神様だよ」
「え?」
「そのままだったら、私は……私とブランシュは、死んでた。お腹が空いて、苦しいまま、嫌だ、って泣きながらもう、この世にはいないと思うんだ」
どこか諦めたように呟いたノワールに、ブランシュは駆け足で近付き、ウルツの膝に乗ったままの片割れにぎゅうっと抱き着いた。
「……大丈夫だよ、大丈夫」
「……私ねぇ……思うんだ。そっちがその気なら、こっちも抵抗するくらいは許してくれるでしょ、って」
「?」
抱き着いたまま、至近距離でじっとノワールの顔を見ていると、何を考えているのか、分かってしまった。
「ああ、そっか」
「うん」
二人で理解し合っている様子を見て、エカードとウルツは揃って首を傾げる。
別に双子ではない二人なのに、とても息ぴったりな二人の様子に、ブランシュとノワールは微笑み合う。
「食料は奪っちゃえばいい」
「私たちを追い出した『家族』なんかいらない」
ふにゃ、と微笑み合う双子を見て、エカードもウルツも、満足そうに微笑んだ。
「あそこの食糧、料理長が受け取ってるみたいだからちょっとした『暗示』をかけようか」
「暗示?」
エカードの提案に、ブランシュは目を丸くした。
「ええそうですよ、姫様。こちらの分の食糧提供がなければ、僕たちはどうとでもなるにしても、姫様たちは良くない」
「それは、そうかも」
「なら、ちょっと姫様たちの食糧をいただくことにしましょう」
「どうやって?」
「こちらの使い魔を送り込みましょう」
使い魔、という単語に双子は揃ってまた首を傾げる。
「俺たちの使い魔なんだけど、マスターも使えるよ?そう躾ておくから」
「躾……」
「うん!……いらない?」
「ウルツがやってくれるもんだとばっかり……」
「俺やるね!!」
「……ノワールが……」
「ウルツの使い方を完全把握しましたね……お見事でございます」
一旦ノワールから離れたブランシュは、ぱちぱち、と拍手をしている。
つられるようにエカードもぱちぱちと拍手をしつつ、手の中にぱっと光の球を出現させた。
「エカード、それは?」
「使い魔です」
簡潔な問いかけに、簡潔な答え。
にこー、と微笑み合ったブランシュとエカードは本邸の方に視線をやる。
なお、この間ぐりっぐりとノワールに遠慮なく頬擦りをしていたウルツだったが、使い魔を出したエカードを見て、慌てて自分の使い魔も出した。
「あ、かわいい」
「俺の方が可愛いよマスター!!」
「うんうん、一番はウルツだよ」
「好き!!」
きゃっきゃとはしゃいでいるウルツだったが、不意にノワールの雰囲気が変わったのを察した。
「料理長には申し訳ないけど……そっちの双子もどきは、私たちじゃないの」
声のトーンが変化したのを聞いて、ブランシュも同じように微笑んで口を開いた。
「そっちの二人への食糧は、こっちに貰うね」
「『生きるための権利』だから、遠慮なく行使しちゃおう」
あはは、と無邪気に笑った双子は、途方もなく怒り狂っていた。
向けられる先は本邸でぬくぬくと過ごしている、家族だった人たちと、使用人たちと、そして、自分たちの代わりをしているであろう双子モドキ。
「「――許さないから」」
双子が揃って呟くと同時に、ウルツとエカードから使い魔がひゅっと放たれた。
向かった先は、料理長と、副料理長のところ。
小さく声が上がったものの、それに気付くことはない屋敷の使用人たちは、通常業務を行っている。
彼らが双子の分の食糧を取り分けずにそのまま置いておけば、双子を溺愛する死神がそれを持ち去る。
あっという間にブランシュとノワールの健康状態は回復していくのだが、料理長たちの心を乗っ取っている以上、いくらでも本邸の人間に対しては誤魔化すことが出来る。
そうして、双子は次第に捻じ曲がっていく。
追い出され、殺されかけた怒りをエネルギーとして、着々と時間は経過していくのだった。




