6章 6話 観覧車
藤堂と別れ、飲み物を買ってリズのところに戻ろうとすると、今度は南条と遭遇した。
「お前もか」
「こんな面白いこと、見逃せるわけないだろ」
南条は明るく笑い、
「デートはどうだ? 感想を教えてくれよ」
「思ったより、何倍も大変だな。こんなことを好んでやってるお前を尊敬するよ」
「大変に決まってるだろ。相手のことを考え続けなきゃいけないからな」
少し意外だった。
南条はもっと楽しんでいるのだと思っていたからだ。
「大変なのに、何で女の子を誘うんだよ?」
皮肉でも何でもなく、純粋に聞いてみると、南条はいつになく真面目な顔で言った。
「俺たちの人生って一回しかないだろ。だから、絶対後悔したくないんだ。この人だっていう女の子と生きていきたい。そのためにはできるだけ多くの子と知り合って、見極めなきゃいけないんだ。しかも俺たち人間は時間が限られてる。ぐずぐずしてたら、あっという間に歳を取っちまう。お前には理解しにくいかも知れないけど、俺は俺で必死なんだよ」
俺は首を横に振った。
「やっぱりお前は思った通り、大したやつだよ」
「なんだよ、急に。俺を褒めても仕方ねーだろ」
南条は遊園地に備え付けの時計を見て、
「リズちゃんを待たせてるんじゃないのか?」
「おう、そうだな」
今度こそ、リズの元へ戻る。
思わぬところで時間を取られてしまった。
リズはまだ、ぐったりとベンチの背に体を預け、具合が悪そうにしている。
ペットボトルを差し出しつつ、声を掛ける。
「ごめん、時間かかった」
「ありがとうございます」
ゆっくりと体を起こし、弱々しくペットボトルを受け取るリズ。
「これを飲んだら、すぐに次のアトラクションに行きますから」
「いや、完全に良くなるまで待ったほうがいいよ」
「大丈夫です。いつまでも休んでいたら、閉園してしまいますから」
渡したミルクティーを飲むリズに、
「じゃあ、せめておとなしい乗り物にしよう」
「いえ、ここで一番人気のあるアトラクションにしましょう」
「えっと、それは……」
このキューピッドランドの一番人気と言えば、ドラゴン・コースターだ。
確か最高速度だけ見れば、国内トップクラスだったはずだ。
「さすがに、やめといた方がいいんじゃないか?」
「平気です。あの邪悪なドラゴンを見事に退治して見せますから!」
リズはそう宣言して、ミルクティーを一気に飲み干し、
「さぁ、行きましょう」
と勢い良く立ち上がった。
「いや、だから」
退治しちゃダメだって。
数時間後、フードスペースの二人掛けのテーブルに座る俺とリズ。
リズはもうかれこれ三十分ほど、突っ伏したままぴくりとも動かない。
ドラゴン・コースターが上っている間、リズはガタガタ震えていた。
そして、下降を始め、悲鳴を上げていたかと思うと、すぐに声が聞こえなくなった。
どうやら気絶してしまったらしい。
それからずっと放心状態だったのだが、少し休むと、「次行きましょう」とふらふらとした足取りで歩き出すのだった。
それが延々続き、とうとうここで動かなくなってしまった。
リズの様子を見る限り、アトラクションではなく、まるで拷問だ。
話しかけるのも躊躇われ、ずっとリズのつむじを眺めていた。
しかし、あまりに手持ち無沙汰で遠くに視線を移した。
太陽は大きく傾いていて、間もなく日没を迎える。
「もうちょっと休んだら、帰ろうか」
独り言に近いトーンでふと零すと、リズの頭がゆらりと持ち上がった。
「もう一つだけ。最後に乗りませんか」
そう言うリズの顔色は真っ青で、頬はやつれているように見える。
「今日はやめた方がいいよ。そんな状態じゃ楽しめないだろ」
リズが急に大きな声を出す。
「わがままだって分かってるんです。でも、」
その表情は、切実さで引きつっている。
「分かったよ。もう一つだけな」
観念する形で俺は首肯し、
「それで、最後はどのアトラクションに乗るんだ?」
リズは緊張した面持ちで言う。
「観覧車です」
ラノベに男キャラは、もういらないのかも知れない。




