5章 3話 映画
俺と不知火の二人で、歩き出した。
バスを利用し、到着したのは繁華街だった。
「最初はどこに行くんだ?」
「映画館だよ」
思ったよりベタな感じだ。
裏を返せば、それだけ真剣に考えたってことか。
大通り沿いに進むと、大きな映画館が見えた。
中に入り、チケット売り場に向かう。
館内は、多くの人でごった返している。
フロアにある上映中の映画のポスターや看板を眺めながら、
「どれ観るか決めてるのか?」
「もちろんだよ」
不知火は恋愛映画のポスターを指さした。
しかし、視線はその隣の魔法少女アニメに釘付けだ。
「……本当にその指差してるのでいいのか?」
「いいの」
本人が良いなら、何も言うまい。
チケットを買い、シアターに向かう途中、売店の前を通りかかった。
不知火はレジの上のメニューを見上げている。
「食べたいのがあるのか?」
「……ううん」
不知火たちが住んでいる安普請が思い浮かんだ。
チケット代も決して小さな出費ではないのだろう。
「何か買うか? 親父からもらってる小遣いで、一応自由に使える分があるから」
「いいの?」
頷くと、不知火は瞳を輝かせて、
「じゃあ、ポップコーン!」
俺はさすがに食事したばかりで、何も食べる気がしない。
不知火が選んだポップコーンとジュースを持って、シアターに入る。
ほとんどの席が埋まっている。
かなり人気の映画のようだ。
不知火は薄暗いシアター内を駆けていく。
「他の人に迷惑だろ。それに危ないぞ」
と注意した直後、不知火は段差に躓いてこけてしまった。
「痛いよ~……」
「だから言っただろうが」
指定されたシートに掛けると、不知火が足をバタバタさせながら、
「スクリーン大きいね」
「始まったら静かにするんだぞ」
やがて、映画が始まった。
内容は少し大人向けで、難しいが見応えがあるといった感じだ。
不知火はポップコーンを頬張り、ジュースで流し込んでいる。
ちゃんと観てるのか?
映画は進み、主人公とヒロインが良い雰囲気になるシーンが流れる。
すると、肩に不知火がしなだれかかってきた。
ストーリーの盛り上がりに乗じてアプローチする作戦だな。
なかなか狡猾じゃないか。
だが、その手には乗らないぜ。
ぱっと不知火を見る。
すやすやと気持ちよさそうに寝ていた。
計算でもなんでもなく、ただ居眠りして、肩に倒れてきただけだった。
寝言で「犯人」とか「怪獣」とか漏らしている。
どんな夢を見てるんだ?
でも、腹が膨れたところに、小難しい映画だからな。
あの料理も、たぶん朝早くから準備していたのだろうし。
そう考えると起こすのも可哀想だが、かと言ってこのままにするのも、せっかく映画館に来たのに、チケットを無駄にするようなものだ。
どうするか迷っていると、足元から誰かが這い出てきた。
「ひっ……!」
俺は小さな悲鳴を上げてしまう。
見ると、出雲さんだった。
「ちょっと、何してるんですか」
他の客の迷惑にならないように、小声で尋ねると、人差し指を唇に当て、
「しーっ」
いろいろ大丈夫なのか?
出雲さんのことだから、チケットは買ってどこかに席を取っているとは思うけど。
出雲さんは不知火の顔を覗き込み、
「いつ見ても可愛らしい寝顔ですね」
と頬をつついた。
本当に何をしてるんだ?
「恭平様もなされますか?」
「俺はいいです」
ひとしきりつついた後、出雲さんは不知火の肩を揺すった。
不知火の目が開くと、出雲さんはシートの下に消えていった。
たぶん、今日のデートの間、俺たちから見えないところから、不知火のフォローをするつもりなのだろう。
その後も不知火はエンドロールが流れ終わるまで、何度も眠りに落ち、そのたびに出雲さんがシートの下から這い出てきた。
「お茶しよう」
映画館から出ると、不知火が体を伸ばしながら言った。
デートってどこに行くものなの?




