5章 4話 デートの終わり
すっきりした顔で歩き始める。
あれだけ寝れば気分も良いだろう。
俺たちは、不知火が予め入ると決めていた喫茶店に向かった。
瀟洒な外観で、中に入ると、期待を裏切らず華やかな雰囲気だ。
可愛らしい格好をしたウエイトレスさんが席に案内してくれる。
不知火はメニューを見ずに、
「ブラックコーヒーにしよ」
「ブラックなんて飲めるのか?」
不知火の眉が一瞬、ぴくっと動いた。
「こ、子供扱いしないで。私はいつもブラックだし、お寿司もわさび入りよ」
胸を張って言い張る不知火。
俺もコーヒーにし、さっきのウエイトレスさんを呼んで、注文をする。
頼んだものを待っている間、不知火が話しかけてきた。
「映画面白かったね」
「……そうだな」
よく言うぜ。
ほとんど寝てたくせに。
「まさか犯人があいつだったなんてね」
「犯人?」
さっきの映画にそんな推理要素なんて無かったけど。
「最後は大きな怪獣が出てきて街を破壊していって」
「は?」
そんなシーンあるはずがない。
「でも、シーンが途切れ途切れで脈略なかったね」
「それたぶんお前が見た夢だろ!」
寝言で犯人やら怪獣やら言ってたし。
「あ、そうなの? なんかその夢で、誰かに何度も起こされたんだよね」
「それは現実だよ!」
こいつといるとホント疲れるぜ。
注文したものが運ばれてきた。白い清潔なカップが二つ、テーブルの上に置かれる。
立ち上る湯気を前に、不知火が緊張している。
俺の視線に気づいたのか、急に自信満々の表情を作り、カップを手に取った。
そして、わざと気取った仕草で口に持っていき、
「あちゅっ!」
カップに口を付けた瞬間、そう叫んで舌を出した。
慌てた様子で水を飲んでいる。
「おい、大丈夫か?」
めちゃくちゃ猫舌じゃねーかよ。
コーヒーを冷ました後、不知火は再びカップを口に運ぶ。
「苦っ! なにこれ」
凄い勢いで、二杯目の水を飲み干す。
「もう無理するなよ」
「無理なんかしてないもん!」
虚勢を張る不知火は、嘘を言っていないと主張するように、カップを煽る。
「苦いよー! もう嫌だよ」
嫌って言っちゃったよ。
「誰も強要してねぇよ」
「ごめん、ちょっとお手洗い」
不知火は大きな瞳に涙を浮かべながら、席を立った。
姿が見えなくなると、何故かウエイトレスさんが来た。
不思議に思い、
「えっと、頼んだものはもう来てますけど」
ウエイトレスさんの顔を見ると、さっきまで接客してくれていた人ではなく、出雲さんだった。
この店の制服に身を包んでいる。
可愛らしい制服も、出雲さんが着ると、どこかエロティックになってしまう。
看板娘と言われれば、信じてしまうほどには似合っている。
「またですか」
出雲さんは「ふふふ」と小さく笑い、ポケットからかスティックシュガーとフレッシュを取り出した。
それを不知火のカップの中に入れる。
一個や二個じゃない。
大量に投入していく。
見るからに、体に悪そうだ。
出雲さんがカップに口を付ける。
何かを吟味するように目を瞑った後、また砂糖とフレッシュを入れ始めた。
まだ行くのかよ。
もうそれ、コーヒーじゃねぇだろ。
店の奥のトイレから、不知火が出てくるのが見える。
すると、出雲さんは「それでは」と姿を消した。
不知火が席に座り、
「もう大丈夫」
カップを口に運ぶ。
「あれ、苦くない。おいしい」
驚いた様子でカップの中身を凝視する。
「おまじないが効いたのかな」
「おまじない?」
「トイレの中で、手のひらに『大人』って三回書いて飲んだの」
「いろいろ間違ってるな」
それから俺たちは、不知火のプラン通りに、繁華街を回った。
随分遅い時間になってしまった。
街路灯が点き始めている。
不知火が俺の腕を引っ張る。
「最後はとっておきの場所よ。展望台があって、そこから街が一望できるの」
「悪いんだけど、もう遅いから帰るよ」
「えー、ダメだよ。まだデートの途中じゃない! 最後の展望台で、君は私に告白するんだから」
「しねーよ!」
何を勝手なことを。俺はため息をつきつつ、
「もう充分だろ。それに、あんまり遅くなるとリズが心配するだろうし」
不知火は怒りを顕にした。
「リズばっかりずるいよ。リズなんかサキュバスのくせに男が苦手だなんて、ただの腰抜けじゃない」
「そんな言い方するな。リズはリズなりに頑張ってるんだから」
「今は私といるんだから、私のことを優先してよ。今日一日、私に付き合ってくれるっていう約束でしょ」
「はっきり言うけど、俺が不知火になびくことはないぞ」
「そんなの分からないじゃない。展望台に行けば、気分が変わるはずよ」
「気分とか、そういう問題じゃないんだよ」
不知火は押し黙ったかと思うと、わなわなと震えだし、
「バカ!」
と叫んで走っていってしまった。
もちろん良い気はしないが、全部正直な気持ちだ。
これで良かったんだと思う。
プロットに関して、ラノベはもう、漫画みたいな進行でいいと思う。




