5章 1話 うぇるかむ とぅ まい ほーむ
放課後になり帰ろうとすると、クラスメートと喋っていた不知火が駆け寄ってきた。
「クレープ!」
「いや、それだけ言われても分からんのだが」
そもそもここの生徒じゃないのに、入り浸るんじゃないよ。
「さっき聞いたんだけど、若い子に人気のクレープのお店があるの。今から行こう」
「なんで俺がお前とクレープを食べに行かなきゃいけないんだ?」
「まだそんなこと言ってるの? 最近の私はおとなしくしてるし、そろそろ信用してもいいんじゃない?」
確かに近頃は、騒がしいのに変わりはないが、以前のように突然連れ去られるみたいなことはなくなった。
「その店って、女の子がこぞって行く感じだろ? 行きづらいわ」
「カップルも多いから、男の子が行っても不自然じゃないらしいよ」
「そうか。じゃあ気をつけて帰れよ」
「あれっ? 一緒に行く流れじゃなかった?」
「恋人同士で行く場所なんだろ。そんなところに付き合ってない女の子と行けるか」
不知火と駄弁っていると、藤堂が近寄ってきた。
大きな眼鏡が光っている。
「下校時の買い食いは禁止されてるから、そのクレープ屋さんに行くなら、一度帰宅してから外出しなさいよ。ただし、あまり遅くならないようにね」
すっかり調子の戻った藤堂に、俺は思わず笑ってしまった。
「なんで笑うのよ」
「ごめん、なんでもない」
「もう! そうやって馬鹿にして」
藤堂は拗ねたような声を出した。
不知火がいきなり大きな声で叫ぶ。
「ちょっと待って!」
「なんだよ、急に大声出して。びっくりするだろ」
「相変わらず騒々しい子ね。お腹でも空いたの?」
藤堂が肩を竦めると、不知火は地団駄を踏んだ。
「そうじゃなくて! いつからそんな良い雰囲気になったの!?」
藤堂の家に居候してから、厳密にはあの一騎打ちから、以前のような刺々しさはなくなった気がする。
だけどそれは、俺と藤堂が良い雰囲気になったというよりも、藤堂自身に心の変化があって、藤堂の雰囲気が変わっただけなのではないだろうか。
藤堂が不愉快そうに眉を歪めた。
「別に良い雰囲気なんかじゃないわ。こんな悪人相、趣味じゃないのよ」
だから、顔のことは放っとけ。
ふと藤堂と目が合うと、ぱっと視線を逸らされた。
その様子を見た不知火が、また声を荒げる。
「嘘よ! 意識しまくりじゃん! 風紀委員とか言って偉そうにしてるくせに、自分は恭平に色目使って。この泥棒猫!」
「誰が泥棒猫よ! 失敬な」
不知火と藤堂が言い合っていると、そこに鞄を持ったリズがやって来た。
「楽しそうですね」
どう見たらこれが楽しそうなんだ?
「恭平くん、帰りましょう」
「そうだな」
不知火が俺に詰め寄り、
「私とクレープは?」
リズが俺に尋ねる。
「姫ちゃんと約束があるんですか?」
「ないよ。不知火が騒いでるだけだ」
「ちょっと!」
まだ騒いでいる不知火を尻目に、俺たちはドアの近くで待つオリヴィアと帰宅した。
翌日の早朝。
休日ということで、安眠に浸っていたのだが、体が締め付けられる痛みで目が覚めた。
まだ外は薄暗い。
身動きを取ろうとするが、体を動かせない。
両手両足を縄で縛られているようだ。
「起きたのね」
視界に不知火の顔が飛び込んできた。
「これはどういうことだ?」
「今日は私の家に招待しようと思って」
「何が招待だ。拉致の間違いだろ」
「こうでもしないと一緒に来てくれないでしょ。家に着いたら解いてあげるから」
「ふざけるんじゃないよ。今すぐ、解いてくれ」
「わがまま言わないで!」
なんで俺怒られたの?
後ろに出雲さんの姿が見えた。
「あまり長居するのも危険なので、そろそろ行きましょう」
「出雲さん、助けてくださいよ」
懇願すると、
「申し訳ありません。全ては姫の望むままなのです」
まぁ、この人はこのスタンスだよな。
いきなり口にガムテープを貼られた。
「んー! んー!」
出雲さんに担がれる。
窓から出るのを阻止しようと、体をよじらせて抵抗する。
出雲さんの肩から滑り落ち、床を転がる。
不知火が俺を見下ろし、怒った。
「じっとしてよ。連れ去りにくいでしょ!」
なんて恐ろしい発言だ。
ドアがノックされ、リズの声がする。
いつもはまだ寝ている時間のはずだ。
トイレか、喉が渇いて目を覚ましたところに、俺が床に落ちた音を聞いたのだろう。
「大きな音がしましたけど、大丈夫ですか?」
「んんんんー!」
まったく声が出ない。
だが、思いが伝わったのか、ドアが少し開く。
寝ぼけ眼のリズが顔を覗かせた。
いつの間にか不知火と出雲さんは隠れている。
リズは目を擦りながら、ぐるぐる巻にされた俺を見下ろす。
「みのむしごっこですか?」
何じゃい、それは。
「すみません、お邪魔してしまって」
リズは去っていってしまった。
隠れていた不知火たちが出てくる。
「うぇるかむ とぅ まい ほーむ」
俺の頭の中が、絶望に塗り潰されていく。
姫が一番動かしやすい。
振り回し系は、書いていて楽しい。




