4章 2話 前代未聞の家庭訪問
土曜日の午前中、我が家のインターホンが鳴った。
今日は家庭訪問の日だ。
ドアを開けると、御影先生が立っていた。
何故か困ったような顔をしているのだが、その理由はすぐに分かった。
先生のすぐ後ろで、唇を真一文字にした制服姿の藤堂が仁王立ちしている。
「なんで藤堂がいるんだ?」
「私も家庭訪問をしに来たのよ」
「遊びに来たってことか? 今日は本当の家庭訪問だから、日を改めてくれないか」
藤堂は首を振り、堂々と宣言する。
「違うわ。風紀委員として、この家の風紀の乱れをチェックしに来たの」
茫然とする俺の後ろで、成り行きを見ていたリズが不安そうな表情をした。
「どうしましょう」
まさか制服で来たのは、「あくまで風紀委員として」というのを強調するためか?
いやいや、そんなの詭弁に過ぎない。
「学外で『風紀委員』はないだろ」
俺に続くように、オリヴィアが前へ出てきた。
「いきなり押しかけてきて随分と偉そうだな」
こいつも初めて会ったとき、大剣を振り回してたけどな。
今となっては良い思い出だ。
「やっぱりね」
藤堂が余裕を持って呟いた。
オリヴィアが食って掛かる。
「何がやっぱりなんだ」
「私に見られたら困るような生活をしているんでしょ」
「なんだと」
「私の訪問を拒むその態度が、それを認めてるようなものよ。そもそも一緒に住んでるのを内緒にしてた時点で怪しいし」
「貴様……!」
ヒートアップするオリヴィア。
さすがに玄関で暴れられるのは困る。
先生に助け舟を求めると、
「身も蓋もないけど、私はそこで偶然会っただけだから。藤堂が休日にどこへ行こうが本人の勝手だしね」
これはもしや、三人で暮らしているのを先生が黙っていたことを、藤堂に詰められたんじゃなかろうか。
まずいな。
このままじゃチャンバラが始まってしまう。
「入れよ」
俺の発言に、リズとオリヴィアは驚いたようだった。
だが、もうこうするしかない。
「俺たちにやましいところはない。共同生活のことを秘密にしてたのも、変に勘ぐられて騒ぎになるのを避けただけだ。藤堂の気の済むまで、じっくり見ていけばいい」
「そうさせてもらうわ」
御影先生と藤堂をリビングに通し、ソファに並んで掛けてもらう。
「何飲みます?」
「コーヒーもらおうかな」
先生が言った後、藤堂は冷然と、
「私は結構よ」
頑なな態度を貫くつもりらしい。
キッチンに行くと、オリヴィアが付いてきた。
「私も手伝おう」
先生の分のインスタントコーヒーを淹れる。
加えて、俺とオリヴィアのコーヒーを二杯。
リズにはパックの紅茶。
いつも飲んでいるものだ。
そして、冷蔵庫から大きいペットボトルのお茶を出し、コップに注ぐ。
「一つ多いぞ」
オリヴィアに藤堂の飲み物を用意することへの嫌味を言われた。
「さすがに客人に何も出さないのはな」
「あんなやつ客でもなんでもない」
オリヴィアは刺々しい口調で言った。
「藤堂を家に入れたこと、やっぱり納得いかないのか?」
「そんなことはない。お前の判断は正しいと思う。ただ単純に、あの女がこの家にいることが不愉快なだけだ」
「そうですか。さて、リビングに戻ろう。そろそろリズが限界みたいだ」
さきほどから心細そうに、こちらを何度も見ている。
盆を二つ用意し、飲み物と買っておいた茶菓子を乗せ、キッチンを出る。
リビングのテーブルにコップを置いていく。
藤堂の前にお茶の入ったグラスを置くと、一瞥を寄越し、「どうも」と呟いた。
先生たちの対面に座り、全員が腰を落ち着けた。
二対三の家庭訪問というのは、前代未聞だろう。
異世界ものの次はどんなジャンルになるのかな。
そう言われて随分久しいですが。




