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4章 1話 嵐の前の静けさ

 学校の昼休み。

 俺は全力で廊下を走っていた。

 追いかけてくる不知火から逃れるために。


 背後で不知火が叫んでいる。


「なんで逃げるの? 一緒にお弁当食べるだけじゃない!」

「だから、嫌だって言ってるだろ。何食わされるか分かったもんじゃねぇからな!」


 自教室が見えた。

 とりあえず知り合いの多い場所に逃げ込もうと思い、転がり込む。


 クラスメートたちが何事かと一斉に視線を向けてくる。

 少し遅れて不知火が入ってきて、


「もう逃さないよ」


 そこにオリヴィアと出雲さんが加わった。

 オリヴィアが食傷気味に口を動かす。


「お前たち、いい加減しつこいぞ。さすがに諦めたらどうだ」


 それを受けて、出雲さんが日本刀を出現させ、


「私は、姫の理想に追従するだけです」


 二人はそのまま剣戟を始めてしまった。

 教室にいたリズが大きな声で、


「二人とも、やめてください!」


 不知火は騒動の発端であるにも関わらず、相変わらずマイペースだ。


「一口だけ! 一口だけでいいから!」

「怖いんだよ、マジで! 絶対何か入ってるだろ」


 再び逃げようとすると、ドアの近くにいた藤堂とぶつかってしまった。


「悪い、大丈夫か?」

「……して」


 藤堂が小声で何か言ったが、よく聞き取れなかった。

 耳を傾けると、藤堂は耳を劈くような大音声を上げた。


「――いい加減にして!」


 驚いた顔をするクラスメートをよそに、藤堂は声を荒げる。


「あなたたち毎日毎日毎日毎日――飽きもせず、よくこんなに騒げるわね」


 不知火が頭をかきながら、


「えへへ、照れるな~。よせやい」

「褒めてない! だいたいあなたと出雲さんは、ここの生徒じゃないでしょ!」


 藤堂の怒りは収まるどころか激しさを増していき、


「こんな滅茶苦茶なクラスどこを探してもないわよ。うちはね、他のクラスからも先生方からも腫れ物扱いされてるんだから」


 藤堂が怒鳴り散らしていると、南条が俺の隣に来て、耳打ちしてくる。


「藤堂のやつ、なんか最近輪をかけて厳しくね?」

「確かに」


 騒いでるのが悪いんだが、南条の言う通り、前より沸点が低くなっている気がする。


「ありゃあ、将来スパルタママになるぜ」


 南条が揶揄するように笑うと、藤堂がギロッとこっちを睨んだ。


「全部聞こえてるわよ。私、目は悪いけど、耳は凄く良いの」


 顔の半分を覆う丸眼鏡の位置を調節しながら言った。

 藤堂の説教は昼休みの終了と共に終わったが、機嫌はずっと直らなかった。


 そして、終業後のホームルームで、ある事件の火種になることが起きた。

 御影先生がプリントを配りながら、


「家庭訪問をします。親御さんの都合の良い日と時間を、今配っている用紙に書いてもらって来てください」


 俺のところにプリントが回ってきたとき、先生が何気なく、


「木場くんのところは、リューネブルクさんたちと一緒にするから、三人で予定を合わせて、提出しなさい」

「ちょっ――」


 俺たちが同居してることは、クラスの連中には言ってない。

 俺の反応を見て、先生も口を滑らせたことに気づいたようで、慌てて唇を結んだ。


 しかし、時すでに遅し。

 クラスメートたちの声が飛び交う。


「え、リズちゃんたちって木場の家で暮らしてるの?」

「木場くんの家って、確かお父さんが海外にいるんだよね」

「ってことは、今あの三人だけで生活してるってわけかよ」


 一気に教室中が色めき立つ。

 もう収拾がつかないかと思われたが、この騒乱を一時停止する者が現れた。


 バンッ――。

 藤堂が机を強く叩き、勢い良く立ち上がった。


「木場くん。これは一体どういうことなのかしら」

「いやー、あの、これには非常に深い理由がございまして、なんというか、とても一言で説明できるものではなくてですね……」


 藤堂は、歯切れ悪い政治家のような弁明をする俺を睨みつけていたが、やがておとなしく席に座った。

 てっきり詰問されるものだとばかり思ったから、拍子抜けしてしまう。


 だが、俺は同時に嫌な予感もしていた。

 藤堂のこの状態のことを表す、最も適切な言葉を知っている。


 嵐の前の静けさ。

4章は生真面目な風紀委員、藤堂 透子が主役。

唯一の人間のヒロイン(御影除く)。

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