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啓悟がバス停へ着く頃には、西日が街を橙色へ染め始めていた。バス停の裏にある駐輪場には、自転車やバイクが駐車してあり、それらの影が長く伸びていた。
一時間に二本しか来ないことを示す時刻表を眺めていると、急にまた暑くなってきた。浜の横を歩いている間は風があったのに、立ち止まると首筋に汗が流れてくる。潮風のせいか、肌がべたつく気がして、シャツの襟もとで首元をぬぐった。
啓悟はスマホで時間を確認した。バスが来るまで結構時間がある。その時、グループLINEの通知が来た。未読三十二件という文字が見えたが、中身を確認すること無くスワイプした。
啓悟は音楽を聴きながら、意味もなくSNSを眺めた。サナと綾のプリクラ画像がアップされていた。盛れているのか、盛れすぎているのか、よく分からないが、少し見て閉じた。そしてスマホをポケットへしまった。
そして、気付けばまた取り出していた。適当にネットを流し見しているとLINEの通知があがった。
『夏休みに、旅行いかん?』
その一言をきっかけに通知が立て続けに増え始めた。一件、また一件と来るたびに手の中でスマホが震える。啓悟は通知設定を開き、そのままミュートを押した。
明日は終業式。
この流れなら、どう考えても旅行の話になる。啓悟は、行くかどうかよりも先に、断る理由を考え始めていた。その時、近所のコンビニの入り口に貼ってあった「急募」の紙を思い出した。
夏休みはバイトでも入れようかな。高校のやつがあまり来なさそうな場所がいいか。でも、行って帰るだけで疲れる程遠い場所は嫌だな。そんなことを考えながら求人サイトを眺めていると、
ガチャン
と、後ろで何かがぶつかる音がした。
思わず啓悟は振り向いた。同じタイミングで駐輪場にいた人が顔を上げた。相手はバイクを押しているのだろうか、啓悟の方を見ていた。啓悟は車体がぶつかったのかなと思い、気にせずまた前に向き直った。その時、急にハッとして振り返った。
見覚えのある顔だった。
そこにいたのは、やはり瀬戸一輝だった。
振り返ったものの、啓悟はその行動をすぐに後悔した。
──くそ気まずい。
耳元では、イヤホンからずっと曲が流れ続けているが、啓悟の耳にはもはや届いていなかった。
二度見したまま固まっている啓悟に向けて、瀬戸は少し迷ったように、小さく手を上げた。
啓悟も反射的に手を上げ返した。
頭の中でどうするか迷いながら、啓悟はイヤホンを片方だけ外した。
すると、瀬戸はバイクのスタンドを立て、より大きく手を掲げて振り始めた。
「啓悟くん! 俺! 瀬戸一輝! 小学校一緒だった!」
大きな声で名前を呼ばれ、とりあえず啓悟は頷いた。すると、瀬戸一輝は満面の笑みで自分を指差しなが近づいてきた。
これは、話す流れなのだろうか。小学校ぶりなら、こちらも「久しぶり」と笑顔で言うのが正解だろうが、啓悟の頭には連絡先のことがすぐによぎった。そのせいか、変によそよそしい感じになった。しかしもう、ほぼ目の前にまで瀬戸一輝は歩いてきていた。
啓悟はもう片方のイヤホンも外した。
「ははは、声でかいから」
啓悟がそう言って笑うと、ごめんごめんと言って、瀬戸一輝は眉を下げた。
近くで見ると、身長がずいぶん伸びていた。声も低くなっている。面影も少し感じるくらいなのに、不思議な程雰囲気は変わっていなかった。
「奏斗たちに聞いたよ。昨日ゲーセンで会ったんだよね?」
「そうそう。いや、まさか知り合いと思わなくてさー……」
そう言って、瀬戸は髪を触りながら、啓悟の向こう側に視線を泳がせた。啓悟もなんとなくその視線を追ったが、何もなかった。
バス停の前の道を、車が一台通り過ぎた。走り去った後、二人の周りは静まり返った。
会話が続かない。気まずさをより際立てた。
「啓悟くん、今帰り?」
「うん」
「どっか行ってたの?」
「あー……、バイトの面接……?」
啓悟は思わず適当な嘘をついてしまった。さっきまで求人を見ていたせいかもしれない。
「まじ? 受かりそう?」
「どうだろ。分かんない」
「そっか。結果すぐに教えてくれたらいいのにな」
「それな」
「啓悟くん、バイト探してんだ」
「うん。夏休みだけやろっかなって」
「そうなんだ……」
テンポだけ良くても、中身の無い会話はやはり続かなかった。二人の間に静けさが戻ってくる。
啓悟はスマホに目を落とした。バスが来るまで、まだ十分以上も時間があった。




