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過労死店長の異世界DIY〜女神の顔面キックで赤ちゃん転生!チートなホームセンターと土方親方で目指せ究極のホワイトライフ〜  作者: 月神世一


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EP 8

 初めての召喚。現れたのはニッカポッカ〜出稼ぎ親方とのシビアな雇用契約〜

教会での「スキル検査」から数日後。

バレンタイン家の広大な庭には、異様な緊張感が漂っていた。

「さあリアス、準備はいいか! お前の【召喚(極)】がどんな伝説の幻獣を呼び出すのか、父ちゃんは楽しみで夜も眠れなかったぞ!」

「魔力制御は私がサポートするわ。もし暴走しそうになったら、すぐに私が【氷結封印】で鎮圧するから安心してね」

父・ゴルディは興奮で鼻息を荒くし、母・マリアは元A級冒険者としての鋭い眼差しで庭の中央を見つめている。

その中央にポツンと立っているのは、三歳児のリアスだ。

(……胃が痛い)

前世のクレーム対応や、無茶な売上目標を押し付けられた店長会議の時よりも、はるかに重いストレスが俺の小さな胃を苛んでいた。

なにせ、これから呼び出すのはあの芋ジャージ女神ルチアナが手配した「イフリート」である。電話口で『久方ぶりの、血湧き肉躍る戦だ! 跡形も残さず灰にしてくれるわァ!!』と豪語していた、正真正銘の戦闘狂だ。

そんなレイドボス級のバケモノをこんな閑静な住宅街で召喚してしまえば、バレンタイン家はおろか、ルナハンという街そのものが「血湧き肉躍る」炎の海に沈むかもしれない。

(くそっ……俺はただ、安全なバックヤード(ホームセンター)に引きこもって、ぬくぬくと定時退社ライフを満喫したかっただけなのに……!)

しかし、一度公の場で【召喚(極)】というステータスが刻まれてしまった以上、「やっぱり何も召喚できませんでした」では済まされない。商人の息子として、ここは『期待される最低限の成果プレゼン』を提示し、両親の親バカゲージを適度に満たして納得させる必要がある。

「……ふぅ。やるしかないか」

俺は『マネジメント』の教えを胸に刻み、深呼吸をした。恐れるな。相手がどんな戦闘狂だろうと、召喚主と召喚獣の関係は「雇用主」と「従業員(あるいは外注業者)」だ。俺がしっかりとイニシアチブを握れば、コントロールは可能なはずだ。

俺は小さな両手を前に突き出し、自身の内に渦巻くバグレベルの魔力を、女神からねじ込まれた『契約の術式』へと流し込んだ。

「来い……! 【召喚】!」

ゴォォォォォォッ!!

その瞬間、庭の空間がぐにゃりと歪み、凄まじい熱波と共に真紅の魔法陣が展開された。

周囲の空気が一瞬にして乾燥し、芝生がチリチリと焦げ始める。

「おおお! なんだこの圧倒的なプレッシャーは!」

「気をつけてリアス! とてつもない高位の存在よ!」

炎の柱が天を衝き、その中から巨大な影がゆっくりと姿を現す。

(やばい、来る……! 街を焼き尽くす炎の化身が……!)

俺は最悪の事態(街の全焼と損害賠償請求)を覚悟し、目を固く閉じた。

「……オウ。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、ってな。ここが今日の『現場』かい?」

野太く、ドスの効いた、それでいて妙に軽快な声が響いた。

炎がスッと収まる。

俺は恐る恐る目を開けた。

そこには、巨大な炎の魔獣も、恐ろしい悪魔もいなかった。

代わりに立っていたのは、身長二メートルを超える、ガタイの良い「オッサン」だった。

燃えるような赤い短髪。筋骨隆々の浅黒い肌。そこまではいい。

問題は、その服装だ。

オッサンは、頭に『白いタオル』をねじり鉢巻のように巻き、上半身には汗を吸いやすそうな綿の『ダボシャツ』。そして下半身には、足首がキュッと絞られた紫色の『ニッカポッカ』を穿き、足元は『地下足袋』という、完全に前世の地球(しかも昭和の建設現場)でしか見られない完璧な「土方親方」のフル装備をキメていたのである。

「え……?」

俺は絶句した。

ゴルディとマリアも、予想外すぎる召喚獣の風貌に口をポカンと開けて固まっている。

「オウ、俺を喚んだ『社長』はどこのどいつでぃ? おっと、俺ぁ炎の精霊王イフリートだ。よろしくな」

イフリートと名乗ったその親方は、首をゴキゴキと鳴らしながら周囲を見渡し、足元の俺に視線を落とした。

「あァ? なんだ、こんなチビが社長か? 女神のババアからは『超絶有能な召喚主』って聞いてたんだがなぁ。まぁいい、仕事を発注してくれるんなら誰でもいいぜ」

(待て待て待て。ツッコミどころが多すぎる)

俺は混乱する頭を必死に整理した。

「イ、イフリート……なんだよな? その服は一体……」

「あ? これか?」

イフリートはニッカポッカの裾をパンッと叩いた。

「俺ぁ炎の世界の王なんだがな、最近ちょっと『子作り』に励みすぎちまってよ。子供が百匹くらい増えたせいで、国庫(家計)が火の車なんだわ。だからこうして、異世界からの召喚(出稼ぎ現場)に出向いて、日銭を稼いでるってワケよ。この服は動きやすくて最高だぜ」

(出稼ぎ土方親方じゃねえか!!)

俺は心の中で絶叫した。電話口で『血湧き肉躍る戦』とか言っていたのは、単に「解体工事(破壊行動)が好き」という戦闘狂な職人気質(現場主義)の表れだったらしい。

「まぁ、そういうこった。社長、俺ぁ仕事(破壊)には妥協しねえぜ。魔王軍の砦だろうが、死蟲王の巣だろうが、きっちり更地にしてやる。だが……」

イフリートはニヤリと笑い、俺の前にしゃがみ込んで、太い指を突き出した。

「当然、タダじゃねえ。俺のギャラは、1現場(1回召喚)につき金貨10枚(約10万円)だ。危険手当、深夜残業、休日出勤は二割五分増し。支払いは即日、現金のみで頼むぜ。うちも大家族を養わなきゃなんねぇからな。値切りは一切受け付けねぇ」

その瞬間。

三歳児の俺の中で眠っていた、前世の『FPファイナンシャルプランナー1級』と『ホームセンター店長』のビジネス魂に火がついた。

「……なるほど。完全出来高制の外注業者フリーランスというわけだな」

俺の口調から、三歳児のあどけなさが完全に消え失せた。

「あ?」

「1現場金貨10枚の基本給は了承しよう。だが、雇用契約を結ぶ以上、条件は明確にしておくべきだ。まず、業務範囲の定義だ。『更地にする』というが、周辺の民間施設への延焼(二次被害)による損害賠償リスクはどうなっている? 賠償責任の所在は甲(俺)と乙(親方)のどちらにある?」

「は……?」

イフリートの目が点になる。俺は構わず畳み掛けた。

「さらに、労災保険の扱いはどうする。戦闘(現場)で親方が負傷した場合の治療費(ポーション代)は、請負金額に含まれているのか、それとも別途経費精算か? 交通費(召喚時の魔力消費)は俺が全額負担しているのだから、その分のインセンティブは考慮すべきじゃないのか?」

「お、おい待て社長。なんだその難しい言葉は……俺ぁただ暴れて金がもらえりゃ……」

「ダメだ。口約束は後々のトラブルの元だ。『契約書』を交わそう。クーリングオフの規定と、契約解除条件も明記する。俺はブラックな労働環境を何よりも憎んでいるんだ。お互いにクリーンでホワイトなビジネスパートナーでありたい」

俺の、年齢にそぐわない完璧なビジネス用語の連発と、妥協を許さない『エリアマネージャーの目』に、戦闘狂のイフリートがたじろいだ。

「ガハハハハ! おいマリア、見たか!」

後方で、事態を見守っていたゴルディが大爆笑した。

「我が息子ながら末恐ろしいぜ! あの大いなる炎の魔神を相手に、堂々と『商談』を仕掛けているぞ! さすがバレンタイン家の跡取りだ!」

「ええ……! 本当に素晴らしいわ。リアスは魔力だけでなく、知力も規格外なのね!」

(違う、親父、母ちゃん。俺はただ、リスクヘッジ(保身)に必死なだけだ)

両親の勘違いによる称賛を背に受けながら、俺は脳内の【ホームセンター】から、あらかじめ用意しておいた『A4バインダー』と『複写式契約書』、そして『ボールペン』を召喚し、イフリートに突きつけた。

「さあ親方、ここにサインを」

「……へっ。面白いチビだぜ。今まで俺を唤んだ奴らは、どいつもこいつもビビり散らすか、神として崇めるかの二択だったが……俺と対等に『商売』をしようってのか」

イフリートは面白そうに鼻を鳴らすと、ボールペンを受け取り、契約書に力強いサイン(読めない古代文字)を書き込んだ。

これで、俺とイフリートの間に正式な『雇用契約』が成立した。

「よし、契約成立だ。よろしく頼むぞ、親方」

「オウ、任せな社長! で、今日の最初の仕事(解体)はどこでぃ!?」

腕をまくり上げ、やる気満々のイフリート。

しかし、俺の目的は世界平和でも魔王討伐でもない。あくまでホワイトなスローライフだ。

「……今日は顔合わせだけだ。だが、せっかくだから親方に『支給品』を見せておこう」

俺は脳内の【ホームセンター】にアクセスし、あるアイテムを召喚した。

ズンッ。

芝生の上に現れたのは、地球の建築現場に欠かせない、メッキ処理された銀色の『単管パイプ(鉄パイプ)』の束と、『速乾性セメント』の袋だった。

「こ、こりゃあ……」

イフリートの目の色が変わった。

「なんちゅう均一な造りだ。寸分の狂いもねぇ……。これなら、どんな強固な足場(陣地)でも組めるぜ!」

さらに俺は、『魔力駆動式チェーンソー』を取り出して見せた。

「社長……! あんた、こんな極上の資材と道具オモチャをどこで……!」

「俺の固有スキルだ。親方、これらに闘気や炎を纏わせて戦う(解体する)ことはできるか?」

「ガハハハ! 当たり前よ! こいつがあれば、ドラゴンの鱗だろうが城壁だろうが、三秒でバラバラにしてやれるぜ!」

戦闘狂にして現場主義のイフリートは、ホームセンターの資材を見るなり目を輝かせ、子供のようにチェーンソーを撫で回している。

(……よし。これで最強の『現場監督(俺)』と『外注業者(親方)』のコンビが成立した)

俺は心の中でガッツポーズをした。

強力な物理アタッカーを金で雇うことができた。これで俺が最前線に立つリスクは極限まで減ったのだ。

「社長、いいスキル持ってんじゃねぇか! これからが楽しみになってきたぜ!」

「ああ。だが親方、基本は定時退社で頼むぞ」

こうして、伝説の炎の魔神と、過労死した元ホームセンター店長による、異世界史上最もビジネスライクで強力な「DIYコンビ」が結成されたのである。

この数日後、バレンタイン家に本物の泥棒が侵入し、俺たちの『実力行使(トラップと解体)』の最初のターゲットになろうとは、まだ誰も知る由もなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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