第二章 ポポロ村地域起こし編 〜ヤンデレ村長とポンコツ社員たちの辺境DIY生活〜
100万円の地域起こしと、働かないエース〜緩衝地帯(激ヤバ立地)への出張命令〜
ルナミス帝国の帝都に位置する、巨大な冒険者ギルド本部。
喧騒と熱気に包まれたロビーの片隅で、俺――リアス・バレンタイン(20歳)は、魔導通信石が組み込まれた依頼掲示板を腕組みしながら睨みつけていた。
ルナミス学園を首席で卒業した俺を待っていたのは、栄光のエリート街道……ではなく、「二郎系ラーメンを食わせ、極大回復魔法で強制回復させながら24時間365日無限に軍事教練を行う」という、初代皇帝・佐藤太郎が遺した最悪のブラック軍部コースだった。
前世で過労死した俺が、そんなデスマーチに耐えられるはずがない。
俺は学園卒業と同時に輝かしいキャリアを全力でバックレて、冒険者としてクラン『ホープ・クローバー』を結成した。目指すは、己の裁量で仕事を選び、定時で帰る究極のホワイトライフである。
だが、現実は甘くない。
俺の理想のホワイト職場に集まったメンバーは、能力こそ規格外だが、人事評価の観点から言えば歩くトラブルメーカーの集まりだった。
「さて……今日はどうするんだ? クランの活動資金も少し心許なくなってきたところだが」
俺が振り返って問いかけると、隣に立っていた可憐な少女が、ふわりと微笑んだ。
「私はリアス君に任せるよ。リアス君が右へ行くなら右へ、左へ行くなら左へ。たとえそれが地獄の底でも、私はこの安全靴で障害を全部蹴り飛ばしてあげるから♡」
「……お、おう。頼もしいな」
彼女はキャルル・ムーンハート(20歳)。
元レオンハート獣人王国の第三姫君にして、近衛騎士隊長候補だった月兎族の獣人だ。ラフな現代風のカジュアル服に、俺が【ホームセンター】で出した特注の安全靴を履いている。一見すると優しくて可愛いお姫様だが、時折見せる重すぎる愛情(ヤンデレ気質)と、マッハ1で放たれる飛び蹴りの破壊力は完全にレイドボス級である。
「どんな依頼だって、俺様の手にかかれば……コインの導きで一発だ」
ギルドの柱に寄りかかり、気怠げにポポロ・シガレットを吹かしながら気取ったセリフを吐いたのは、フェイト・ラック(20歳)。
全身に超高価なミスリルアーマーを装備したイケメンの元A級冒険者だが、その実態は重度のギャンブル中毒者だ。
「おい、フェイト。お前は絶対にコインを引くんじゃねぇよ」
俺は即座に釘を刺した。
「お前の【コイントス】は裏が出たら完全に寝込む仕様だろうが! この前なんて『親友の従兄弟の隣のおばさんの友達の犬が死んだ』とかいう、もはや赤の他人の葬式を理由に突発休しやがって! シフトに穴を空ける奴はクランのエース失格だぞ!」
「堅いこと言うなよ、リアン。労働なんてのはなぁ、運で一攫千金するまでの暇潰しに過ぎねぇんだよ」
「てめぇのその腐った労働観を今すぐ叩き直してやろうか……!」
俺が前世の店長時代を思い出して青筋を立てていると、足元からズルズルと服の裾を引っ張られた。
「あぅぅ……リアス様ぁ……お腹空きましたぁ……」
そこにいたのは、ルナミスデパートで買ったピンク色の『芋ジャージ』に健康サンダルという、終わっているファッションセンスの美少女。
海中国家シーランの姫にして、自称・絶対無敵のスパチャアイドル、リーザ・シーラン・リヴァイアサン(16歳)である。
「パンの耳と、公園で摘んだ雑草サラダだけじゃ……もう限界ですの……。このままだと、私の中から強欲な魔物が目覚めて、ギルドの備品を全部『お賽銭箱型掃除機』で吸い尽くしてしまいそうですぅ……」
「やめろ! ギルドから損害賠償を請求されたらウチのクランは一発で倒産だ! わかった、すぐに割のいい依頼を受けるぞ!」
俺は慌ててクエストボードの画面をスクロールさせた。
「えーっと……日帰りで、安全で、そこそこ実入りのいい仕事……おっ?」
一件の依頼書に目が留まる。
他の依頼とは明らかに毛色の違う、少し古びた羊皮紙のデータだった。
【依頼名】ポポロ村 地域起こし応援隊
【内容】農作業の手伝い、および周辺の害獣駆除
【報酬】金貨100枚(100万円相当)
「これなんてどうだ? ポポロ村の地域起こし応援隊。報酬はなんと100万円だぞ」
俺が読み上げると、キャルルのウサギ耳がピクリと反応した。
「100万円!? 農作業のお手伝いだけで、そんな大金がもらえるの!?」
「100万円ですと……!?」
リーザの目が、カッと見開かれた。芋ジャージの隙間から涎が垂れそうになっている。
「100万円あれば、あのルナキン(ファミレス)の極上カツ丼が幾ら食べれますの!?」
「山ほどだ。ドリンクバーをつけても一生分はお釣りが来るぞ」
グギュルルルルルルルッ!!
リーザのお腹から、凶悪な魔獣の咆哮のような音がギルド中に響き渡った。
よほど飢えているらしい。
「おい、リアン。それを受けようぜ」
フェイトがタバコを携帯灰皿(俺が支給したものだ)に揉み消し、目をギラつかせて寄ってきた。
「100万ありゃあ、ルナミスパーラーの『CR異世界転生トラックでドン!』を朝から晩まで全ツッパできる。俺のパチンコ代にはちょうどいい額だぜ」
「だからお前のギャンブル資金じゃねえって言ってんだろ! クランの内部留保(経費)にするんだよ!」
俺はフェイトにツッコミを入れつつ、FP1級の知識をフル回転させて依頼の詳細情報を分析した。
(……待てよ。農作業と軽い害獣駆除で100万円? 利益率が高すぎる。ビジネスにおいて、業務内容が曖昧で報酬が異常に高い案件は、十中八九『隠れたリスク(デスマーチ)』が存在する)
俺はギルドの端末で、ポポロ村の所在地をマップに表示させた。
「……おいおい、ちょっと待て。えーっと、ポポロ村の場所は……」
地図上に示された赤いピンの位置を見て、俺は嫌な汗をかいた。
「ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国……この三大国家の国境が交わる『緩衝地帯(非武装地帯)』のド真ん中じゃねえか! 何を考えて、あんな地政学的な火薬庫に村なんか作りやがったんだ!」
三国が睨み合う最前線。
正規軍は条約で立ち入れないが、その分、野盗やはぐれ魔獣、各国の密偵がうごめく無法地帯である可能性が高い。そこに存在する村の『害獣駆除』。嫌な予感しかしない。
「どうするの、リアス君? 危険そうならやめておく?」
キャルルが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。彼女の特注安全靴のつま先が、トントンと床を叩いていた。いざとなれば国境警備隊ごと粉砕する気満々だ。
「……いや」
俺は腕を組み、ニヤリと口角を上げた。
(緩衝地帯……それは見方を変えれば、どの国の法律(労働基準法)も軍の徴用も及ばない『完全なるグレーゾーン(特区)』ということだ。もしあそこに俺の【ホームセンター】で強固な防衛拠点を築けば、帝国軍の追手も干渉できない、究極のホワイト職場を作れるかもしれない)
「よし、決まりだ。この依頼、俺たち『ホープ・クローバー』で受けるぞ!」
俺の宣言に、クランメンバーたちがそれぞれの反応を示す。
「リアス君が決めたなら、私はどこまでもついていくよ♡」
「カツ丼! カツ丼! カツ丼!」
「しゃあねえ、たまには剣を振ってやるか。コインが表を出せばの話だがな」
まとまりがあるのか無いのか分からない、最強で最悪のポンコツパーティー。
俺たちは冒険者ギルドの受付で手続きを済ませ、一路、激ヤバ立地にある辺境の地『ポポロ村』へと向かうのだった。
この時の俺たちはまだ知らなかった。
そのポポロ村で、農業の手伝いどころか、大陸のパワーバランスをも揺るがす規格外の『機械化害獣』たちとの総力戦が待ち受けているということを――。
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