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霧と鍋

第9章 霧と鍋


炎は、いつものように燃えていた。


けれど今回は、これまでとは何かが違っていた。悲鳴が、やけに遠くから、まるで分厚い霧の層を通り抜けてくるかのように、歪んで、緩慢に響いてくる。


ゼファーは瓦礫の中に立っていた。足は地面に触れていない。かつて見慣れていたはずの、あるいはかつては見慣れていた屋根の数々が、橙と赤の炎に照らされて歪み、一つ、また一つと崩れ落ちていく。その速度は奇妙なほど遅く、まるで夢の中の時間が現実とは違う速さで流れているかのようだった。煙の中に、また顔が浮かび上がる。今回は、これまでよりもずっとはっきりと。顎の輪郭。頬らしきもの。目があるはずの場所には、それよりも暗い染みのようなもの。その人物は地面に倒れ、焼け焦げていく体を引きずりながら、ゼファーの方へと這い寄ろうとしているようだった。


そして、咆哮が響いた。


低く、長く、目覚めている時には決して耳にしたことのない音だった。それは耳よりも先に、胸を、肋骨を、背骨の一つ一つを震わせ、それからようやく音として耳に届いた。


足が触れていないはずの地面までもが、かすかに揺れているように感じられた。誰かが彼の名を呼んだ。その声は発せられた瞬間に何かに飲み込まれ、誰の声なのか判別する間もなかった。


すべてが砕け散った。


「ゼファー」


目を開けると、心臓が激しく鼓動していた。短く浅い呼吸を繰り返しながら、毛布の端を強く握りしめた指の関節が白くなっている。一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。暗い天井。カーテンの隙間から差し込む青灰色の光。そして肩に置かれた、重く確かな手。漂う小舟を繋ぎ止める錨のように、彼を引き留めていた。


「ゼファー」ルシウスがもう一度呼んだ。先ほどより小さく、少しゆっくりとした声で。


「ここにいる。お前はここにいる」


それを本当に信じられるようになるまで、さらに何度か呼吸を重ねる必要があった。


「先生?」


「ふむ」


ルシウスは手を離すと体を起こし、窓の方へと視線をそらした。まるで、一番弱っている姿を見られずに済むよう、あえて間を与えているかのようだった。


ゼファーはしばらくそのまま横になり、心臓が落ち着くのを、呼吸が元に戻るのを待った。額と首筋に、冷たい汗が張りついていた。


咆哮のこと、あの顔のこと、焼けただれた体を引きずってこちらへ這い寄ってきたことを、そして足が地面に触れていなかったはずなのに、確かに震えを感じたことを、口を開いて先生に話そうとした。近頃ずっと付きまとって離れない、あの不快な夢のことも。


けれど、結局やめた。


先生は背を向けたまま、急かすことなく立っていた。まるで、彼が自分で決断するのに必要な時間を、正確に見計らって与えているかのように。


ゼファーは息を吸い込んだ。


そして、やめた。


「何かあったんですか」体を起こし、毛布を脇へとよけながら尋ねた。


「今朝は霧がとても深い。お前に、霧をお前自身の触覚のように使う方法を教えるには、うってつけの日だ」ルシウスはそう言うと、また背を向けた。


ゼファーはしばらく考えた。


「でも、それならもうできますよ。おじさんに、前にやり方を教わりましたし」


「それはお前自身が作り出した霧の話だ。今回は、自然に発生した霧を、まるで自分で作り出したものであるかのように扱えるようになってほしい」



廊下はまだ暗く、階段のところにある小さなランプが、弱々しい黄色い光を放っているだけだった。ゼファーはフックにかかっていた一番厚い上着を急いで羽織り、靴紐もろくに結ばないまま、すでに階下へ下りていたルシウスの足音を追いかけた。


台所には誰もいなかった。いつもの料理の匂いも、鍋に調理器具が触れる音も、イリスの姿もない。ユリウスが、どこか定まらない一点をぼんやりと見つめて座っている姿もなかった。


テーブルの上には、イリスの丁寧な字で書かれた小さなメモが置かれていた。


『イリスとユリウスはちょっと用事があるみたい。多分、夕方くらいまで帰らないと思う。ご飯は台所に置いてあるから。二人とも、お腹すかせたままにしないでね』


「おじさんと姉さん、どこに行ったんですか?」


「さあな」ルシウスはすでに扉のところまで来ていて、振り返らなかった。「どこかへ出かけただけだろう」


「変ですね、まだ完全に明るくもなってないのに、もう出かけたなんて」


「放っておけ」


その答えに、ゼファーは全く納得できなかった。けれど先生はすでに扉を開けていて、身を切るような冷たい空気が、朝霧特有の湿った匂いを連れて流れ込んできた。


外の空気は、ゼファーが思っていたよりもずっと冷たかった。庭全体を覆う乳白色の霧は濃密で、柵をすっかり飲み込み、遠くの木々の影さえも、濡れた紙の上ににじんだインクの染みのようにしか見えなくなっていた。


鳥の声もない。虫の音もない。あるのはただ、まだ誰にも起こされていない朝特有の静けさと、湿気に押し潰されたような空間の中で、いつもより大きく響く自分自身の足音だけだった。


ルシウスは庭の真ん中に立ち、何かを確かめるように辺りを見回していた。


「うってつけだ。こんな朝は滅多にない」ほとんど独り言のように呟いた。「いいだろう」


「こっちへ来い」ルシウスは、数歩離れた場所に立つようゼファーに合図した。「目を閉じろ」


ゼファーは言われた通りにした。


「目で霧を見透かそうとするな。ここでは目など役に立たない」ルシウスの声が、すぐ目の前から響いた。「これから動く。私がどこにいるか、お前が言い当てろ」


わざとはっきりと分かるような、ゆっくりとした足音が、左へと移動していく。


「左です」


パチン。


ルシウスが指を鳴らした。


「簡単すぎるな」足音が止まった。静寂。


ゼファーはじっと立ち、さらに耳を澄まそうとしたが、何も聞こえなかった。賭けに出るしかなかった。


「……まだ、左ですか?」


返事はなかった。


片方の目をそっと開けてみる。ルシウスはすでに彼の真後ろ、ちょうど腕一本分の距離に立ち、腕を組んで待っていた。


「不正解だ」驚いた様子もなくそう言った。「目を閉じろ。もう一度だ」


今度は、ルシウスは一切物音を立てなかった。ゼファーはその場に立ち尽くし、どこから手をつければいいのか分からず、少し間抜けな気分になっていた。


「聞こうとしているな」ルシウスが言った。咎めるというよりは、講義でもするような平坦な声で。「聞くのはもうやめろ。感じるんだ」


「何を、ですか?」


「霧を」


ほとんど答えになっていないほど短い返事だったが、先生の短い返事はたいてい「自分で考えろ」という意味だと、ゼファーはすでに学んでいた。その場に立ったまま体の力を抜き、何も考えないようにしようとした。それは思っていたよりもずっと難しかった。


そして、ごく曖昧にではあるが、それを感じ取った。霧の層の中にある、均一でない部分、少しだけ密度の濃い場所。まるで、本来なら霧で満たされているはずの空間を、何かが占めているかのように。


「……後ろ、ですか?」


「どのくらい離れている?」


ゼファーはさらに集中した。「近いです。すごく近い」


パチン。


頭の上に、そっと手が置かれた。


「正解だ」ルシウスは手を離しながら言った。「そういうことだ。音はいらない。霧の中で、どこがもう霧でなくなっているか、それさえ分かればいい」


ゼファーは目を開け、冷たい空気の中に白い息を吐き出した。


「すごいです」


「霧が何か、知っているか?」


「えっと……水蒸気、ですか?」


「正解だ。だが、それだけでは足りない」ルシウスは庭を覆う霧を見渡した。「空気には常に水蒸気が含まれている。ただ、目には見えないだけだ。気温がある一定の点まで下がると、それを露点と呼ぶが、水蒸気は気体のままではいられなくなる。凝結して、無数の微細な水滴になる。すぐに落下せず、空気中を漂っていられるほど小さな粒にな」


「じゃあ、夜の間に気温が下がるから、明け方に霧ができるんですか?」


パチン、とルシウスが指を鳴らす音がした。


「そうだ。夜の間、地面はその上にある空気よりも早く熱を失う。太陽の光による補充がないからな。明け方に近づくほど、地面に接した空気の層が最も冷たくなり、露点に達しやすくなる」ルシウスは一拍置いた。「だから霧は、夜がまだ完全に明けきらないうちが最も濃く、日が昇るとすぐに消えていくんだ」


「じゃあ霧って……ただの水、なんですか?」


「水だ」ルシウスは頷いた。「だが同時に、無数の小さな表面でもある。あらゆる方向に光を反射し、散乱させる。だからこそ、光そのものは普通に通り抜けているのに、お前は向こうを見透かすことができない。一粒一粒が、ごくわずかとはいえ独自の熱を持っている。体がそこを通れば、水滴はかき乱され、押しのけられ、体温によってわずかに温められる。あるいは単純に、一瞬だけその場所を奪うことになる」


ゼファーは黙り込み、それを思い描こうとした。無数の微細な水滴、一粒一粒が表面を持ち、温度を持ち、目の前に立つ先生の体の周りで、押しのけられていく様子を。


「お前は私の足音を、耳だけで聞いていたわけじゃない」ルシウスは続けた。「水滴がかき乱される場所を感じ取っていたんだ。均一な塊の中を移動する、一つの空白を。お前の霧の魔法は、元々ああいう水滴を操れる。ただ、お前はそれに耳を傾けたことがなかっただけだ。命令することしかしてこなかった」


「つまり……ずっとハンマーを持っていたのに、それで叩いて、どこが空洞でどこが詰まっているか確かめたことは一度もなかった、みたいな感じですか?」


ルシウスはしばらく彼を見つめ、口の端をわずかに上げた。ゼファーがこれまで見た中で、最も満足に近い表情だった。


「悪くない例えだ」


「次のことを試してみろ」ルシウスは、庭の端にある古木の根元でゆっくりと渦を巻いている霧を指し示した。「もう私を探すな。霧そのものを探せ」


「霧の中の霧を探すってことですか?」


「霧は均一なものじゃない。濃い場所もあれば、薄い場所もある。消えかけている場所も、さらに濃くなっていっている場所もある。それを感じ取れれば、霧が直接触れてすらいないものまで分かるようになる。昨日の熱がまだ残っている岩、周囲の地面より冷たい水たまり、通り過ぎたばかりの風が後ろに残していった、薄くなった一筋の跡、そういうものまでな」


ゼファーは試してみたが、最初の何度かは失敗した。頭の中では、すべてがただの均一な白い塊にしか感じられず、何一つ区別がつかない。存在しない文字を探して白紙を見つめているような感覚だった。


「映像として見ようとしているな」ルシウスは腕を組んで観察しながら指摘した。「やめろ。これは視覚じゃない」


「じゃあ、何なんですか?」


「それは自分で見つけるしかない。私自身の感覚を、お前に説明することはできない」


ゼファーはもう一度試した。今度は完全に力を抜き、何かを「見よう」と自分に強いることをやめた。


四回目か五回目になった頃、何かが変わった。ごく曖昧だったが、確かに違っていた。他の部分よりも明らかに薄い霧の筋が、彼の立つ場所から家の裏手へと、ほぼ一直線に伸びていた。


「一箇所だけ……薄いところがあります。小さな道みたいに」


ルシウスは彼の指す方向を見て、しばらく黙り込んだ。表情にはあまり出さなかったが、どこか驚いているようだった。


「井戸へ続く小道だ。地下に水脈が流れているせいで、あそこの土は周りより少し温かい。地下水は乾いた土よりも熱を保ちやすいからな、その温もりが地面へと漏れ出して、他の場所ほど霧が濃くならないんだ」彼は頷いた。ゼファーにというより、ほとんど独り言のように。「できたな。思っていたよりずっと早い」


「じゃあ、いろんな温かい場所に続く道がいくつもあったら、それぞれ見分けられるんですか?」


「いい質問だ」ルシウスが言った。「答えはイエスだ。だが、一朝一夕でできるようになるものじゃない。今日の霧は、これで全部だ」



二人は、霧が最も薄い井戸端で一休みすることにした。ゼファーはいつもの石に腰を下ろした。朝の間、ただ立っていただけなのに、わずかに息が上がっている。長く集中し続けることは、体を動かすのと同じくらい疲れるものらしい。


ルシウスは井戸から柄杓で水を汲み上げたが、すぐには飲まず、柄杓を傾けて、水を細い流れにして井戸の水面へと戻した。その水は、まっすぐに落ちるはずが、水面に触れる直前でわずかに横へと曲がり、ほとんど完璧な小さな渦を作り出した。


ゼファーは目を見開いた。「今、何をしたんですか?」


「何も」ルシウスは残った水の柄杓を彼に手渡した。「重力は普通に働いている。ただ、水面に触れる直前で、進む方向をほんの少しずらしただけだ」


「それが先生の魔法ですか? 重力?」


「ああ」


「もっと見せてもらえますか?」


「今日じゃない」ルシウスは立ち上がり、ズボンについた汚れを払った。「今日は霧の日だ。お前の霧の日であって、私の重力の日じゃない」


ゼファーは水を飲み、それ以上は尋ねなかった。それでも指は無意識のうちに、まだ数滴残った柄杓を回し続けていた。水の流れさえ曲げてしまう見えない力が、もし自分の手のひらの中にあったらどんな感覚がするのか、想像しようとしながら。



休憩を終えると、二人は稽古に戻った。今度はルシウスも、ゼファーが庭の外、柵の向こう、さらに遠くの小道まで、自由に感知の範囲を広げるのを見守った。


ある瞬間、ゼファーが感知を限界まで押し広げたとき、何か明らかに異質なものが現れた。周囲のどれよりも冷たく、ずっと遠く、ずっと深いところに、軽やかな霧の海の中にぽつんと浮かぶ、重たい一点のように。それは、その朝ずっと感じ取ってきたものとは、何一つ似ていなかった。温かい岩でもなければ、冷たい水たまりでもなく、小道でもない。それは遥かに大きく、痛みはまったくないのに、なぜか一瞬、胸が締め付けられるような感覚がした。


(そこだ)


不意に、ゼファーの頭の中に奇妙な思考が浮かんだ。


(そこって、どこだ)とゼファーは胸の内で問いかけた。


(さあな)


(どういうことだ? お前は誰なんだ)


それは、現れた時と同じくらい唐突に消え去った。


目を開けると、わずかに体が強張っていた。


「どうした?」ルシウスが尋ねた。声はいつも通り平静だったが、目つきはいつもより少し鋭かった。


「……何でもないです」ゼファーは首を振り、まだ残っている感覚を振り払おうとした。「多分、想像しただけだと思います」


ルシウスはもう一瞬、いつもより長く彼を見つめた。さらに問い詰めるべきかどうかを考えているようだった。


けれど結局、「そうか」とだけ言って、稽古を続けた。



「最後の試験だ」ルシウスは上着のポケットから布切れを取り出した。あらかじめ用意していたものらしく、それをゼファーの目に巻きつけた。「これから庭の真ん中まで連れていって、何度か回して方向感覚を失わせる。そのあとは、自分で裏口まで歩いていけ。手で何かに触れて道を探ることは許さない」


「もし間違えたらどうなるんですか?」


「何かにぶつかるだけだ」その声にふざけた様子は微塵もなかった。「あそこに置いてあるシャベルに気をつけろ」


ゼファーは唾を飲み込み、先生に体を何度も回されるままにした。完全に方向が分からなくなり、あらゆる方向から等しく吹きつけてくる霧の冷たく湿った感触だけが残った。


「始めろ」


ゼファーは長い間、自分が思っていたよりもずっと長い間、その場に立ち尽くした。感知を、水面にゆっくりと広がる波紋のように周囲へと広げていく。重なり合う輪の一つ一つが、新しい情報の層になっていった。数歩先にある、先生が立っている空白。右手にある、密度の濃い塊、おそらく井戸。もう少し先にある、異様に薄い霧の筋。


ゆっくりと足を踏み出す。止まる。考えるというより本能的に方向を修正し、また歩き出す。一度、シャベルの方へ曲がりかけたが、ぎりぎりのところで踏みとどまった。まだ触れてもいないのに、何か硬くて冷たいものがすぐ目の前にあるのを感じ取ったのだ。


パチン。


指を鳴らす音。


目隠しが外された時、彼は裏口からちょうど半歩の距離に立っていて、片手はすでにドアの取っ手にほとんど触れそうなところまで伸びていた。


ルシウスはしばらく彼を見つめ、すぐには何も言わず、ただ小さく頷いた。ゼファーにはもう馴染みのある頷き方だった。正しくできたと分かるだけの、それ以上でも、それ以下でもない頷き。


「思っていたよりずっとよくできたな」ようやく彼は言った。「私が初めてこれをやった時は、壁に真正面から突っ込んだ」


ゼファーは笑みを浮かべた。驚きと、安堵と、半分ずつ。


「本当ですか?」


「いや」ルシウスは顔をそむけ、ごくかすかな笑みを隠した。「だが、信じておいた方が、お前の自尊心のためにはいいだろう」



太陽が高くなるにつれ、霧は少しずつ薄れていった。一層、また一層と晴れていき、草の本当の緑と、土の本当の茶色が現れる。やがて、一番丈の高い草の先にわずかな筋が残るだけになった。


ゼファーの腹が音を立てて鳴った。二人揃って聞こえるほど大きな音だった。


ルシウスが横目でちらりと見て、口の端を上げた。「そろそろ朝飯にするか」


二人は台所に入り、イリスが用意しておいてくれた食事を温め直した。いつも通りスープだった。小さな鍋に入れられ、蓋がしてあって、少しでも長く温かさを保てるようになっている。


「イリス姉さん、スープ作るのほんとにうまいよな」ゼファーはスプーンを一口すすりながら言った。


「ああ」


「先生は料理できるんですか?」


ほんの一瞬の間があってから、ルシウスは答えた。


「できるとも」


「じゃあ、どうして今まで作ってるところ見たことないんですか?」


「必要がなかったからだ」ルシウスは顔を上げないまま、スープをもう一口すくった。「もっと上手い人間がいるのに、わざわざ自分でやる理由がどこにある」


ゼファーはその答えについて深く考えることもなく頷き、冷めていくスープに意識を戻した。


二人はほとんど無言で食事をした。聞こえるのはスプーンが器に当たる音と、霧がすっかり晴れるにつれて次第に賑やかになっていく外の鳥の声だけ、まるで世界全体が、太陽と一緒にちょうど目を覚ましたかのようだった。



食事の後、ゼファーはしばらく裏口の段に腰掛け、朝日に服の裾に残った霧の湿り気を乾かしてもらうことにした。夢の中で聞いたあの咆哮のことが、招かれもしないのに、また頭に浮かんできた。それを追い払おうとはしなかった。かといって、留めておこうともしなかった。ただそこに座り、それが一片の雲のように過ぎ去っていくのに任せていた。


やがて、ルシウスが出てくる足音が聞こえ、彼は戸口に寄りかかってしばらく彼を見つめていた。


「どこか出かけるか?」ゼファーは顔を上げた。


「どこにですか?」


「王都だ」


「……今からですか? そんなに遠いのに?」


「私にとっては遠くない」ルシウスが手を差し出した。「掴め」


ゼファーが先生の手を掴むと、それ以上何かを尋ねる間もなく、自分の体の重みがふっと消え去った。心臓が跳ねるような自由落下とは違う、もっと穏やかな感覚、まるで、自分を取り巻く重力そのものが、別の方向へと書き換えられたかのようだった。


地面が下でみるみる遠ざかっていく。家も、畑も、やがて緑と茶色のパッチワークのように縮んでいった。


「空の上で吐きたくないなら、下は見るな」ルシウスが言った。この高さを飛んでいるとは思えないほど、まるで散歩でもしているかのような平然とした声だった。


ゼファーは下を見た。そして、すぐに後悔した。


二人は、中心部から十分に離れた、目立たない程度の、小さな通りの端に降り立った。ゼファーの目の前に広がる王都は、これまで見たどんな場所よりも大きかった。屋根がひしめき合い、遠くには一本の高い塔がそびえていて、ルシウスはそれをただ一言「学院だ」とだけ言った。人の波はあまりに多く、はぐれないよう先生のすぐ後ろにぴったりとついていくしかなかった。


賑やかな市場を通り抜け、田舎では見たこともないような珍しい品を売る屋台をいくつも覗いた。ガラス瓶に詰められた果物。素早くめくると絵が動いて見える紙の束。真夏の日差しの下で、魔法によって凍らせたまま保たれている氷菓の屋台。広場では、光るボールを蹴って遊ぶ子供たちの一団を、何も言わずにただ眺めていたこともあった。遊びが終わるまで、二人はずっとそこに立っていた。


帰る時間が近づいた頃、ルシウスは八百屋の屋台で足を止め、いつになく真剣な様子で一つ一つの品を吟味し始めた。


「食材、買うんですか?」


「ああ」ルシウスは何かの野菜を手に取り、押してみたり、色を確かめたりした。周りの誰とも違う、独自の基準で判断しているようだった。「硬さと色を見れば十分だ。あとはどうでもいい」


店の主人が、どこか奇妙なものを見るような目でルシウスを見た。


ゼファーはそれ以上何も言わなかったが、その「基準」は先生が思っているほど完璧ではないかもしれない、という漠然とした予感があった。


ルシウスは雑多な品を買い込んだ。それなりに理にかなっていそうなものもあれば、ゼファーには名前すら分からないものもある。それを全部布袋に詰め込み、自信満々な顔をしていた。


帰りの飛行は、行きよりも短く感じられた。宙に浮く感覚に慣れたからか、それとも今見てきたものについて考えるのに夢中で、怖がる暇がなかっただけなのか。


二人は裏庭に降り立った。今朝あれほど霧に覆われていた場所は、今ではもう夕方の日差しの下、乾いた草地になっているだけだった。


「ありがとうございました」ゼファーはまだ少しふらつきながら言った。「あんなに近くで王都を見たの、初めてです」


「次はもっと長く行くことになるだろうな」ルシウスはそれ以上説明せず、荷物を提げてまっすぐ台所へ向かった。


ゼファーが後をついていくと、先生はすでに買ってきた野菜をテーブルに全部並べ、包丁を片手に、まるで難しい問題を解こうとするかのようにじっと見つめていた。


「何してるんですか?」


「料理だ」


「おじさんは料理したことあるんですか?」


「ある」一拍の間。「たぶんな」


ゼファーは食材の山を見て、それから先生を見た。「先生、ちゃんと作れるんですか?」


「理論上、料理とは温度と時間を制御して、食品を消化に有利な方向へ変化させることに過ぎない」ルシウスは、講義でもするような落ち着いた声で言った。「その理論なら、私はよく理解している」


「あんまり料理っぽく聞こえないですけど」


「それがまさに料理だ」


ルシウスは何かの野菜を手に取った。ゼファーにはそれが何なのか分からず、おそらくルシウス自身も分かっていないようだった。どう扱うべきか思案するように手の中で回してから、皮ごとそのまま鍋に放り込んだ。


「皮、剥かないんですか?」


「皮には食物繊維がある」ルシウスは一切の迷いなく答えた。「食物繊維は消化にいい」


ゼファーはその理屈に反論できなかった。それでも、どこかがおかしいという漠然とした感覚は拭えなかった。


ルシウスはそのまま、テーブルの上にあるものをほとんどすべて鍋に入れていった。香草らしき、けれど普段よりきつい匂いのする枝も、イリスならいつも切り落とす葱の根元さえも。味付けは、瓶から塩を直接注ぎ入れ、目分量で調整するというやり方だった。そのすぐ後に、「味のバランスを取るため」という理由で砂糖まで加えた。


「味見、しないんですか?」ゼファーの声には、次第に本物の不安が滲み始めていた。


「その必要はない。比率はもう計算済みだ」


「何を根拠に計算したんですか?」


「観察による経験だ」ルシウスは鍋をかき混ぜながら、相変わらず自信に満ちた顔をしていた。「イリスが料理するのを何度も見てきた」


「見るのと、実際にやるのは違いますよ、先生」


「原理的には変わらない」


ゼファーは黙り込んだ。先生の料理哲学についてこれ以上議論を続けるべきか、それとも二人の命の心配を始めるべきか、分からなかった。


鍋から立ち上る匂いは、どんどん奇妙になっていった。料理の匂いとも、焦げた匂いともつかない、その中間にある何か、絶えず変化し続け、今朝感じ取った最も複雑な霧よりも名付けがたい匂いだった。ある時は異様に甘く、ある時は台所にあってはならない何かのように刺激臭を放った。


ゼファーは、奇妙な色の泡を立てながら煮えている鍋を見つめた。ところどころ、薄い緑がかった色になっている。


「先生」できるだけ落ち着いた声を保とうとしながら言った。「これ、本当に大丈夫ですか? なんだか、俺、嫌な予感がするんですけど」


「私を信じろ」



空がすっかり暗くなった頃、玄関の扉が勢いよく開いた。


「ただいま戻りまし――」イリスは言葉の途中で固まった。手に提げた荷物を下ろす間もなく。


ゼファーとルシウスは台所の床に倒れていた。顔は真っ青で、口の端には泡。テーブルの上では、すっかり冷めた鍋の中に、この世に存在するどんな料理にも似ていない野菜が浮かんでいる。それは、どんな食べ物にも属さない色の緑に染まっていた。


後から入ってきたユリウスは、しばらくその光景を見つめ、わずかに首を傾げた。


「犠牲者がまた一人、増えたな」


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