種、木霊
第10章 種、木霊
炎は、いつものように燃えていた。
けれど今回は違った。瓦礫の上を這いずる、あの燃えている手が、すぐそこまで迫っていて、ゼファーにはその熱さえ感じ取れそうなほどだった。
彼は手を伸ばした。なぜかは分からないが、手を伸ばしていた。あと数センチのところまで。
そして咆哮が響いた。これまでのどれよりも大きく、耳をつんざくほどの音に気が狂いそうになる。その直後、何かが砕け散った。それが元は何だったのか想像すらできないほど、粉々に。
誰かが彼の名を呼んだ。今回は、二つの声だった。
一つは、聞き覚えのない、取り乱した声。発せられた瞬間に飲み込まれた。
もう一つは、ずっと近くから、奇妙なほど聞き覚えのある声で、たった一言だけを口にした。
(ゼファー。)
そして、すべてが砕け散った。
目を開けると、心臓は速く打っていたが、これまでのように取り乱してはいなかった。悪夢の途中で叩き起こされることに、体がもう慣れてきたのかもしれない。この家の誰かが起こしてくれたのだろうと思っていたが、辺りを見回しても誰もいなかった。
日はもうかなり高く昇っていた。しばらくそのまま横になり、自分の名を呼んだあの声を思い出そうとしたが、もう消えてしまっていて、その感触だけが残っていた。ゼファーは、昨日何があったのか思い出そうとした。
(まさか先生があんなにひどい物を作るとはな。マジで死ぬかと思った。あんまり食べなくてよかった。)
ゼファーは、昨日ルシウス先生があの地獄の鍋をどれだけ食べたのか、思い出そうとした。
(たしか先生、結構食べてたよな。無事に生きていてくれるといいけど。)
階下に降りると、ルシウスが居間の長椅子に横たわっていた。薄い毛布を体にかけ、顔にはまだ青みが残っている。
「先生、大丈夫なんですか?」水の入ったコップを運んできたイリスに、ゼファーは尋ねた。
「大丈夫でしょう、たぶん」イリスはゼファーの方を見ないまま、コップをルシウスに手渡した。「いい薬になったはずだから」
「それ、聞こえてるぞ」ルシウスが、まだ弱々しい声で言った。
「なら、しっかり覚えておくことね」
ユリウスが横を通り過ぎながら、意味ありげな目でルシウスをちらりと見た。何も言わず、ただ小さく首を振るだけだった。
「おい、朝からずっとそこに突っ立って、私が苦しむのを眺めるつもりか?」ルシウスが、目を開けないまま言った。
「ああ」ユリウスは答えたが、そのまま動かなかった。
突然、ルシウスが腹を抱えて悲痛な声を上げた。顔は、昨日の鍋と同じくらい青ざめている。
ゼファーは笑った。こんな空気になったのは初めてだった。誰もがまったくくだらないことで忙しくしていて、誰も重い話など持ち出さない。こんな時間が、できるだけ長く続いてほしいと思った。
「今日、暇?」イリスが彼の方を向いて尋ねた。「庭仕事、ちょっと手伝ってくれない? ルシウスは」ちらりとルシウスを見る。「休ませないといけないし、台所には二度と近づけたくないの」
「俺、何を手伝えばいいんですか?」
「いろいろあるわ」
裏庭はいつもと変わらず、いくつもの小さな畝に分かれていた。片隅には野菜、別の片隅には花。そしてもっと奥、柵の近くには、イリスが自ら世話をしている果樹が何本か立っていた。
彼女は小さなシャベルを彼に渡し、自分は別のものを手に取ると、しおれかけている野菜の畝のそばにしゃがみ込んだ。
「よく見てごらん」彼女は一本のトマトの木を指した。土はまだ湿っているのに、葉が少しうなだれている。「何が見える?」
「しおれて……ますね?」
「そう、でもなぜ?」
「水が足りないから、ですか?」
「土はまだ湿ってるでしょ」イリスは根元の土に、そっと指を押し当てた。「水はちゃんとそこにある。ただ、木がそれを取り込めていないだけ」
ゼファーは戸惑った。「じゃあ、どういうことですか?」
「水はいつも、薄い方から濃い方へ、細胞膜を通り抜けて移動するの。両方が釣り合うまでね」イリスが言った。「それを浸透って呼ぶのよ。もし根の周りの土が、何かの理由でいつもより塩分濃度が高くなったら、たとえば肥料をやりすぎたりしたら、根の中の水は吸い込まれる代わりに、逆に外へ引っ張り出されてしまう」
「じゃあ、この木は肥料をやりすぎたんですか?」
「かもね」イリスは近くの雑草を一本引き抜いた。「それか、誰かが塩水を間違って撒いたか」
二人は同時に、庭の端でジョウロを手に立っているユリウスの方を見た。その顔は、完全に無実を装っていた。
ゼファーは思わず笑った。
「治せるんですか?」
「治せるわよ」イリスが根元に手のひらを当てると、ごく薄い緑色の光がぼんやりと広がった。よく見なければ気づかないほどのものだった。「水の流れを一時的に逆にして、根の方へ押し戻してるだけ。でも、それは応急処置にすぎない。ちゃんと土の塩分を洗い流さないと、数日後にはまた枯れてくるわよ」
「じゃあ、姉さんの魔法って、奇跡じゃないんですか?」
イリスは彼を見つめた。その質問に、少し驚いているようだった。
「奇跡なんて、どこにもないわ」彼女は視線を戻し、少しずつ立ち直っていくトマトの木を見つめた。「生きているものはみんな、とても単純な法則に逆らい続けているだけ。時間が経つにつれて、あらゆるものはより無秩序に、より均一に、より乱れた方向へ向かっていく。水は細胞の中にとどまるより、あちこちに均等に広がりたがる。熱は体の中にとどまるより、外へ逃げたがる。ぼうやの体の中の一つ一つの細胞だって、今この瞬間も、すべてがぐちゃぐちゃにならないように、エネルギーを使い続けているのよ」
「つまり……ずっと部屋を片付け続けないと、放っておいたら勝手に散らかっていく、みたいな感じですか?」
「なかなかいい例えね」イリスが褒めるのは珍しいことだった。「生きるというのは基本的に、完全に勝つことなど絶対にできない戦いなの。ただ先延ばしにできるだけ。私の魔法は命を作り出したりしない。ただ、その負ける部分を、ほんの少し先延ばしにしてあげているだけ」
ゼファーは黙り込み、トマトの木を、イリスの手を見つめた。目の前の木よりもずっと大きな何かについて考えていたが、それが何なのか、言葉にすることはできなかった。
「目を閉じて」イリスが言い、彼の手を別の葉に、今度は元気な木の葉に導いた。「感じてみて。魔法はいらない。ただ、よく注意を向けるだけでいいから」
ゼファーは言われた通りにした。指先が葉の表面に触れる。ひんやりとして、少しざらついていた。
「葉っぱ……を感じます?」
「もっとよく感じて。張り具合。表面の湿り気。触れたときの反応の仕方」
もう一度、今度はゆっくりと試してみる。すると、葉が指の下でわずかに弾力を持っていることに気づいた。指を離すと、すぐに元の形へと跳ね返る。さっきのしおれた葉とはまるで違う。あちらは、力なく垂れ下がって、生気がまったく感じられなかった。
「これは……張ってる、感じがします」
「それを膨圧って言うの」イリスが言った。「細胞の中の水が膜を外側へ押していて、それが木をまっすぐ立たせて、葉を垂れさせずに張らせている。水が足りなくなると、その圧力が下がって、すべてがだんだん萎れていくのよ」
「姉さんは、魔法を使わなくても、木が元気かどうか分かるんですか?」
「いつも魔法が必要ってわけじゃないの」イリスは立ち上がり、手を払った。「時には、ちゃんと触れて、ちゃんと注意を向けるだけでいい。それか、ただ見るだけでも」
ゼファーは自分の手のひらを見つめた。最近、いろいろな感じ方を学んできたことを思う。霧は魔法で、扉は手と目で、そして今度は植物を、ただ注意を向けるだけで。この三つは、自分が思っていたほど本当に違うものなのだろうか、とふと考えた。
昼近くになり、日差しが真上に来た頃、イリスは彼を庭の一角へと連れていった。そこには、一番日差しの強い場所にわざと置かれた小さな鉢植えがいくつかあり、葉が異様なほど濃い緑をしていた。
「これは強い日差しが好きな種類なの」ゼファーがなぜ真昼の日差しの下に置いているのか理解できずにいるのを見て、彼女は説明した。「光が多ければ多いほど、ある限界までは、早く育つのよ」
「光が木を育てるんですか? 水と土だけだと思ってました」
「光こそが一番大事な部分なの」イリスは葉を一枚摘み取り、彼が透かして見られるよう日にかざした。「葉の中には、とても小さな粒がたくさんあって、太陽の光を吸収してるの。そのエネルギーを使って、空気中の気体と水を結びつけて、糖を作り出す。それが、木全体を生かしている栄養になるのよ」
「じゃあ、木は光を食べてるんですか?」
「ある意味ではそうね」イリスは、珍しく微笑んだ。「光は質量を持たないのに、エネルギーを運んでる。この葉は、そのエネルギーを捕まえて、一筋の光よりもずっと長く残るものに変えているの。糖の粒はね、蓄えておける。食べられる。必要なときに燃やして、またエネルギーとして取り出せる」
「ルシウス先生が言ってた、エネルギーと質量の話みたいですね? 形が変わるだけで、なくならないっていう」
イリスは彼を見つめた。少し意外そうな顔をしていた。
「その通りよ」彼女はゆっくりと頷いた。「三人がそれぞれ違うことをぼうやに教えているようで、結局のところ、みんな同じいくつかの法則の周りを回っているだけ。違う名前で、何度も繰り返しているだけなの」
ゼファーは黙り、イリスの手の中の葉を、その濃い緑を通り抜けていく日差しを見つめた。そして初めて、これまでばらばらだった授業の数々が、湖のほとりの石、古い扉、朝の霧、そして今度は一枚の葉が、自分が思っていたよりもずっと大きな一つの絵として、少しずつ組み合わさっていくのを感じた。
◇◇◇
二人はそのまま、野菜の畝の周りの雑草を取り続け、少しずつ庭の奥の果樹の方へと移動していった。
一本の桃の木が、虫食い一つない、熟れた実をたわわに実らせていた。
ゼファーは試しに一つもぎ取り、一口かじった。種がなかった。
かじりかけの桃を見て、それからイリスを見た。彼女は近くの枯れ枝を切るのに忙しく、顔を上げなかった。
「この桃……種がないんですか?」
「そうよ」彼女はそっけなく答えただけで、それ以上は何も言わなかった。
ゼファーはもっと尋ねようとしたが、彼女が作業を続ける様子を見て、やめた。まるでその質問など、初めから存在しなかったかのように落ち着いていたから。
彼は残りの桃を食べ終えた。これまで食べたどの桃よりも甘く、それ以上は何も考えなかった。
棘のある雑草を引き抜いていたとき、ゼファーはうっかり棘の先で人差し指を切ってしまい、小さな血の筋がにじみ出た。
「痛っ」彼は手を引っ込めた。
イリスはちらりと見ただけで、何も言わずに彼の手を取り、親指を傷口に当てて、そのまま指でなぞった。ごくかすかな温かさが広がり、彼女が手を離した時にはもう、傷は跡形もなく完全にふさがっていた。
ゼファーはしばらくの間、自分の手を見つめていた。
「俺のことはこんなに早く治すのに、この前の鳥は、ちゃんと治さなかったんですか?」ゼファーが尋ねた。
イリスはしばらく黙り込み、また雑草を抜き始めた。
「あの鳥に何かしたとして、それが悪い影響を何一つ及ぼさないなんて、保証できないから」ようやく彼女は言った。「実を言うと、私のエネルギー源はあまり安定していないの」
ゼファーはイリスを見た。
「ほら、雑草抜きに戻るわよ」
しばらく経った後。
二人は桃の木の陰に座って休み、イリスが朝から持ってきていたパンを分け合って食べた。
「姉さんの故郷って、ここなんですか? それとも別のどこかですか?」ゼファーは尋ねた瞬間、すぐに後悔した。触れてはいけない何かに触れてしまったのではないかと怖くなった。
イリスは気を悪くした様子はなかった。パンを飲み込み、しばらく遠くを見つめた。
「とても遠いところ」彼女は言った。「ここからは、ずっと遠い場所」
「じゃあ、故郷が恋しいって思ったりしますか?」
「恋しいわよ」イリスは手についたパン屑を払った。視線は、庭の柵よりもさらに向こうの、どこか一点に向けられたままだった。
「じゃあ、いつか機会があったら、故郷に連れて行ってくれますか?」
「たぶん、今はもう何も残っていないと思う」イリスは空を見上げた。その表情には、言葉では言い表しきれない物思いが浮かんでいた。
ゼファーはしばらく、黙り込んだ。
「じゃあ、故郷に戻りたいと思ったことはないんですか? もしかしたら、まだ残ってるかもしれないのに」
「たぶんないと思う。恋しいと思うことと、戻りたいと思うことは、また別のことだから。昔の部屋を、そこにあった細かいものまで全部覚えているのに、それでも二度と入りたくないってこと、あるでしょう。私が恋しいのは、あそこの庭だけ。それ以外のことは、あんまり覚えていないの」
「そういえば、姉さんとおじさんとルシウス先生って、同じ故郷なんですよね?」
「そうよ」
この会話は、彼を育ててくれている人たちについて、少しだけ多くのことを教えてくれた。そしてゼファーは、それ以上イリスが何も言わなくても、その一線が引かれた瞬間を、はっきりと感じ取った。
それ以上は何も尋ねなかった。ただそこに座って、残りのパンを食べ終え、庭のどこかで鳥が鳴く声と、家の中からユリウスがルシウスに薬を飲ませようとしている声を聞いていた。
午後、ゼファーとイリス、ユリウスの三人で新しい土の袋を庭の隅まで運んでいるとき、ゼファーはふと体を起こし、汗を拭いながら、雲一つない青空を見上げた。
何かの思考が、彼の頭をふと過ぎった。とても軽く、まるで自分自身の考えに溶け込むように。
(いい天気だな。)
ゼファーは、考えるより先に答えていた。ごく小さく、ほとんど唇を動かすだけのように。
「ああ」
そして、固まった。
誰も尋ねていない言葉に、今、答えてしまった。
イリスの方をさっと見たが、彼女は相変わらず屈み込み、両手を土だらけにしたままで、何かを聞いた様子はなかった。
ゼファーはしばらくの間、じっと立ち尽くしていた。心臓が少し速くなっていたが、怖いからではなく、もっと奇妙な感覚のせいだった。自分でも気づかないうちにしていた、ひどく個人的な何かを見られてしまったような感覚。
(前より、普通になったな。)
その声がまた響いた。満足げな様子で。
今度は答えなかった。ただ屈み込み、土をすくう作業に戻った。手が少し震えていた。
けれど、あの声の調子には何かがあった。まるで……ゼファーは、その考えを最後まで終わらせなかった。
彼は別の土袋を肩に担ぎ上げ、その重さに、一歩一歩の足取りに、頭の中で一瞬光ってすぐに消えたあの問い以外の、何にでも意識を向けようとした。
「大丈夫?」イリスが顔を上げ、いつもより少し長く彼を見つめた。
「はい、大丈夫です」ゼファーは、必要以上に早く答えた。
イリスはそれ以上尋ねず、ただ水の入ったコップを渡すと、自分の作業に戻っていった。ルシウスと同じように、聞かない方がいい問いもあると学んでいるかのようだった。
二人はしばらく、心地よい沈黙の中で作業を続けた。聞こえるのは、シャベルが土に触れる音と、果樹の間を吹き抜ける風の音だけだった。
ゼファーは、いつもより小さなことに気づいている自分に気づいた。葉の上を這う一匹の虫。太陽の動きにあわせてゆっくりと移る木陰。木が元気かどうか判断する前に、イリスが必ず葉の裏側を確かめること。
さっきのことは、もう口にしなかった。イリスも、それ以上は何も尋ねてこなかった。
日差しが黄色みを帯び始めた頃、二人は片付けを終え、シャベルを物置にしまい、井戸のそばで手を洗った。ほんの一日前、ゼファーが目隠しをして立っていた、あの場所だった。
「ありがとう」イリスがスカートの土埃を払いながら言った。「手伝ってもらったおかげで、今日はいつもより早く終わったわ」
「俺、庭仕事、好きです」ゼファーが言った。
「じゃあ、来週も続けましょう」
問いかけではなかった。
ゼファーは頷いた。朝よりもずっと整った庭を見渡す。まっすぐに並んだ野菜の畝。夕方の光の下でもたわわに実り続ける種なしの桃の木。そしてどこか奥深くでは、彼には理解できないあの声が、まだかすかに響いていた。奇妙なほど温かく、まるでもう存在しない場所から届く声のように。
なぜそんなふうに思うのか、自分でも分からなかった。ただそう感じただけで、それ以上は深く考えないことにした。
とても普通のある夜。とても温かいある場所で。すべてが、何らかの形で変わり始める前の。
第10章の更新がこれほど遅くなってしまったこと、本当に申し訳ありません。最近、私生活で色々と問題が重なり、それが今回の執筆に大きく影響してしまいました。更新が遅れる状態は、この先もしばらく続いてしまうかもしれません




