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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第92話『砦跡に残る呪痕』【陰謀と真実の序曲編⑫】

 次の日。

 

 カイ、ルーティア、リリシアの3人は砦の探索に来ていた。

 何かしらの証跡を探して、敵の正体を突き止める為だった。


 だが、昨日あれほど戦いの後が残っていた砦の中は全く蛻の殻どころか、戦いの後もすっかり綺麗になくなっていた。


 それでも砦の奥、黒い魔法陣が脈打つ音はまるで心臓の鼓動のように重く、耳の奥に響いていた。

 おそらく罠として置かれたその魔法陣はただの魔法ではない――魔界に封じられた禁呪だった。


「みんな危ないで。」


 カイが数メートル後に2人を残して魔方陣に近づく。


「なんや、けったいな模様やな。」


 その瞬間だった。

 魔法陣が眩い金色の光を放つとカイに向かって無数のナイフのような尖った形状のものとなり、飛んできた。

 

「これはマズいで、みんな伏せろ。」


 カイはそう言うと得意の絶対魔法防御を展開する。

 だが、カイの「絶対防御」がそれを受け止めた瞬間。

 防御の膜に走ったのは、今まで一度も見たことのないひび割れだった。


「……嘘やろ。」


 ひびは一瞬で広がり、轟音とともに弾ける。

 次の瞬間、カイの左腕が鮮血と共に吹き飛んだ。


◆◇◆


「――カイッ!」

 ルーティアの叫びが砦に響く。


 紅剣で糸を払いながら必死に駆け寄るが、間に合わない。

 血が飛沫となり、床の魔法陣を赤に染めていく。


 どこからともなく男の冷ややかな声が聞こえた。

「絶対防御など、所詮は人の理の産物。禁呪の前では脆い。」


「旦那様ぁぁぁっ!!」

 ルーティアの目に涙がにじむ。

「先生!!」

 リリシアも同じだった。


◆◇◆


 その瞬間、リリシアの胸の奥で何かが弾けた。


 ――守りたかった。

 ――失いたくなかった。


 紫紺の瞳が灼熱の金に染まり、彼女の体が黒い光に包まれる。

 髪は風に逆立ち、背からは薄い紋様のような翼が広がった。

 それは、彼女がずっと隠してきた「魔族の姿」。


「もう……絶対に許さない!」


 声が砦を揺らす。

 彼女の指先から溢れ出したのは、魔界でも限られた者しか扱えない禁呪――「リバイア―」。


◆◇◆


 黄金の光が奔り、吹き飛んだカイの左腕を覆う。

 砕け散った骨がつなぎ直され、裂けた筋肉が編まれていく。

 だが――その再生は完全ではなかった。


 彼女の魔族の力でも、禁呪の破壊には抗えない部分がある。

 治せたのは手首まで。

 それより先、腕の部分はどうしても戻らない。


「くっ……!」

 リリシアは歯を食いしばり、光をさらに強くする。

「お願い……せめて……!」


 光が収束し、血は止まった。

 だが残されたのは――左手首から先を失ったカイの姿。


◆◇◆


「カイ!」

 ルーティアが膝をつき、必死にその体を抱き起こす。

「大丈夫ですか!?」


 カイは青ざめた顔で、それでも口角を上げた。

「まぁ……ええわ。九九の指は片手で足りるしな……。」


「そんな冗談を!」

 ルーティアの涙が頬を伝う。


 リリシアは肩で息をしながら、その場に膝をついた。

 魔族の姿は次第に溶け、元の人間の姿に戻っていく。

 その目からは涙が止めどなく溢れていた。


「私……抑えきれなかった……。でも、カイを……守りたかったの……!」


 ルーティアは一瞬だけ驚きの表情を浮かべた。

 彼女が見たのは――人ではない姿。

 だが、何も言わなかった。

 ただ、剣を握り締め、リリシアの横に立った。


「……旦那様を守れるなら、今は共闘ですわ。」


◆◇◆


 砦の壁が崩れ始め、天井から瓦礫が降り注ぐ。

 幹部の仮面は闇に溶け、姿を消していた。


「退くで!」

 カイが叫ぶ。

 左腕を失った痛みを押し殺し、右手でチョークを走らせ、出口への導線を描く。


 ルーティアが紅剣で瓦礫を斬り払い、リリシアが風で道を開く。

 二人のコンビプレイは恐ろしく噛み合っていた。


 護衛団が周囲を固め、全員が一斉に駆け出す。


◆◇◆


 外の空気を吸い込んだ瞬間、誰もが思わず膝をついた。

 緊張と恐怖と、そして命を繋いだ安堵。


 カイは荒い呼吸をしながら、自分の左腕を見た。

 そこにはもう、手首から先がなかった。

 それでも血は止まり、痛みも次第に鈍くなっている。


「……ほんま、守ってもろたな。」

 彼はリリシアに向かって笑った。

「ありがとな。」


 リリシアは涙を拭い、首を横に振った。

「ごめんなさい……私のせいで……!」


「ちゃう。ワイが勝手に守ろうとした結果や。」

 カイはそう言って、空を見上げた。

 雲の切れ間から、一筋の光が砦跡を照らしていた。

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