表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/136

第90話『三者の力』【陰謀と真実の序曲編⑩】

 砦の最奥。

 冷たい石の床に広がる黒い魔法陣は、まるで地の底へと続く穴のように脈動していた。

 その中心に、リリシアは光を吸い込む糸に縛られ、動けずにいる。

 紫紺の瞳は必死に仲間を追っていた。


「クロス先生……ルーティア……」

 声は糸に封じられて漏れない。

 けれど心の奥で必死に叫んでいた。


◆◇◆


 仮面の幹部はゆっくりと歩み出る。

 赤く光る瞳孔が、カイとルーティアを交互に見やる。


「教師。紅の令嬢。そして愚かな護衛団。

 姫を守るためにここまで来たか。

 だが無駄だ。王は必ず呼び寄せられる。お前たちの奮闘など、計画の小石にすぎん。」


「無駄かどうかは計算してみな分からんやろ。」

 カイがチョークをくるりと回した。

「少なくとも、ワイの黒板じゃ“お前らの勝利”は0や。」


「なっ……!」

 仮面が小さく揺れる。

 挑発されたのか、それとも理屈が妙に胸に刺さったのか。


「旦那様、私が先陣を切りますわ!」

 ルーティアが紅剣を突き出し、床を蹴る。

 炎が走り、仮面の男に斬りかかる。


 だが――。

 幹部の周囲に黒い糸が渦を巻き、炎を絡め取って消した。


「……っ!」

 ルーティアが歯を食いしばる。

「私の剣が……!」


「面白い。」

 仮面が低く笑う。

「お前の力も姫と同じく、縫い付けてやろう。」


◆◇◆


 その時、護衛団が一斉に動いた。


「俺が隙を作る!」

 ツェイルが影のように駆け、仮面の背後に斬り込む。


「幻膜、三重!」

 カサが光を歪め、幹部の視界を揺らす。


「兄者!」「弟よ!」

 双子が左右から同時に飛び込み、黒い糸を切断する。


「補給物資、眠り煙!」

 メリルの瓶が砕け、白い煙が舞い上がる。


 そして、ゴルムが大扉のように立ち塞がり、低く一言。

「通行止めや。」

 幹部の突き出した糸の槍を、面ごと押し返した。


 その連携を見て、リリシアの胸が熱くなる。

(みんなが……私を守るために……!)


 紫紺の瞳に涙が滲む。

 だが、その涙は悲しみではなく――誇りの涙だった。


(私も……仲間を信じなきゃ。)


◆◇◆


「まだ足りん!」

 仮面の男が低く唸り、床の魔法陣がさらに輝いた。

 黒い糸が無数に広がり、天井や壁を這い回る。

 それはまるで砦全体を蜘蛛の巣に変えるかのようだった。


「……面倒くさい式やな。」

 カイが片眉を上げ、床にしゃがみ込む。

 チョークを走らせ、複雑な数式を描く。


「角を丸める、面を立てる……。ほな、分母ゼロは消去や。」

 書き上げた瞬間、光がはじけ、糸の一部がぶつりと断たれた。


「なにっ……!」

 幹部の声が怒りに歪む。


「旦那様! 今ですわ!」

 ルーティアが紅剣を振り抜き、切り裂かれた隙間に炎の刃を叩き込む。

 炎は黒い糸を焼き払い、リリシアを縛る縁を削った。


 リリシアは身体を強く震わせる。

 糸の拘束が緩む。

 その瞬間、胸の奥から風が迸った。


「……私も、戦う!」


 風の刃が奔り、残っていた糸を切り裂く。

 解き放たれた彼女の瞳は強く光り、仮面の男を真っ直ぐに見据えた。


◆◇◆


 三者――カイ、ルーティア、リリシア。

 そこに護衛団十九人の力が重なる。


 炎と風と数式の光が絡み合い、黒い糸を押し返す。

 砦の最奥はまるで昼のように輝き、闇が裂けていく。


「バカな……!」

 仮面の男が後退する。

「姫が……力を……!」


「せや。」

 カイが剣を肩に担ぎ、にやりと笑った。

「計算外はお前のほうや。ワイらの答えは――一つや。」


「――リリシアは渡さない!」

 ルーティアとリリシアが同時に叫び、炎と風が合わさって大きな竜巻となった。


 その光に呑まれ、仮面の男は影となって砦の奥へ吹き飛ばされる。


 静寂が訪れた。

 リリシアは息を切らしながらも、まっすぐ立っていた。

 その姿を見て、ルーティアはわずかに笑みを浮かべた。

「少しは……見直しましたわ。」


「ありがとう。」

 リリシアも笑った。

 その笑顔に、カイはほんの少しだけ安堵の息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ