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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第88話『救出作戦』【陰謀と真実の序曲編⑧】

 学園の作戦室――普段は研究会の集まりに使われる大広間。

 クロス組と護衛団十九人、そしてルーティアとカイが一堂に会していた。

 机の上には羊皮紙が広げられ、墨で描かれた地図がランプの光に揺れている。


「敵は仮面をかぶった連中。魔法と物理を組み合わせ、縫い付けるように捕縛する手を使う。」

 ルーティアが剣の柄を握りしめながら言った。

「リリシアを攫ったのも、その方法でしょう。」


「せやな。」

 カイは腕を組み、顎を撫でる。

「ただ、“どこへ連れて行かれたか”が問題や。街の外か、森か、あるいは……。」


 そこで、彼は机にチョークを走らせた。

 地図の上に点を打ち、直線を引き、角度を測る。

「襲撃現場、消えた時間、残された痕跡……全部数値に置き換えるとやな。」

 数式が羊皮紙の上に並び、複雑な模様を形作っていく。


「式が収束する場所は――ここや。」

 カイが指差したのは、街外れの古い砦跡だった。

 今は廃墟同然で、旅人すら近づかない危険地帯。


「なるほど……!」

 ツェイルが身を乗り出す。

「時間も距離も計算が合う!」

「さすが先生!」

 双子が声を揃えて叫び、次の瞬間、さらに揃って。

「せやな!」

「せやな!」

 カイのツッコミが飛ぶ。

「“せやな”は一回でええ!」


◆◇◆


 作戦会議は続く。


「突入は三手に分かれるべきですわ。」

 ルーティアが紅剣を机に置き、真剣な目で皆を見渡した。

「正面突破、裏門からの潜入、そして上からの奇襲。」


「なら俺が先行する。」

 ツェイルが手を挙げる。

「影を駆ければ、砦の上から侵入できる。」


「幻術は私が。外から見えぬように膜を張ろう。」

 カサが眼鏡を押し上げる。


「兄者、俺たちは左右から。」

「弟よ、その通りだ。」

「せやな!」

 また揃う双子。


「私は補給。毒霧も眠り煙も用意してあります!」

 メリルは瓶を胸の前にぎゅっと抱きしめる。


 最後にゴルムが、静かに拳を握った。

「俺は正面。大盾となる。……通行止めや。」


 カイはみんなの顔を見回し、にやりと笑った。

「ええやん。完璧な布陣や。これなら十九人全員が活躍できる。」


「旦那様は?」

 ルーティアが問いかける。


「ワイは調整役や。数式で敵の魔法陣を崩す。あと、リリシアを見つけたら即座に守りに入る。」


「……頼りにしてますわ。」

 ルーティアの声は少しだけ柔らかくなった。


◆◇◆


 護衛団の一人が、おずおずと手を挙げる。

「先生……作戦の名前はどうします?」


「名前?」

「はい! こういうのには名前が必要です!」

「……せやな!」

 また双子が食い気味に被せる。


 ゴルムが腕を組み、真剣にうなる。

「“なんでやねん作戦”。」


「やめぇ!!」

 カイのツッコミに、全員が大爆笑した。

 だが笑いの奥には、確かな緊張が残っている。


◆◇◆


 会議が終わり、皆が準備に散った後。

 ルーティアはひとりカイの傍に残った。


「旦那様。」

「なんや。」

「リリシアは必ず助けますわ。……でも、もし彼女が敵の手で“何か”されていたら……。」


 ルーティアの声は低く、真剣だった。


「その時は、私が斬ります。」


 カイはしばし沈黙し、やがてぽつりと。

「……そん時はワイが先に止める。あんたの手を血で汚すんは嫌や。」


「旦那様……。」

 ルーティアは唇を結び、深く頷いた。


「魔王っていうのは、本当なのでしょうか?」

「……おそらくな」

「では、リリシアは…」

「……まぁ、そういうこったろうな」

「そもそも、魔族は人の敵だと…」

「そう教わったんか?」

「…はい。」

「じゃあ、リリシアも敵か?」

「………」


 ルーティアは黙って窓の外を眺めた。


「もう、仲間認定してしまいましたし…」

「ええで。迷ってるうちは動かんでも。」

「いえ、助け出して本音を聞いてから、判断します…」

「そやな。」


 カイは軽く笑った。


 夜風が塔を抜ける。

 明日、彼らは砦へ向かう。

 リリシアを救い出すために――。

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