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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第87話『囚われのリリシア』【陰謀と真実の序曲編⑦】

 学園に戻ってからも、リリシアの胸のざわめきは収まらなかった。

 夜の寮の窓辺に腰掛け、魔伝書鳩に送る手紙を何度も書き直しては丸め、机の隅に積み上げる。


「パパ。私は大丈夫……でも――」

 そこから先がどうしても書けない。

 ペン先が震えて、インクのしずくが紙に黒い星を作った。


(敵ははっきりと“魔王を終わらせる”と言った。

 私を囮に、パパを人の国へ呼び寄せようとしている。

 でも、それをクロス先生やルーティアたちに話すことはできない……。言えば私の正体が……!)


 窓の外、風がカーテンを揺らす。

 リリシアは深く息を吸って、結局、当たり障りのない報告だけを書いた。

 魔伝書鳩に託し、夜空に放った瞬間――心臓が強く鳴った。


(……視線。)


◆◇◆


 翌日の午後。

 学園の裏庭に咲く白い花を摘もうと、リリシアは一人で足を運んでいた。

 護衛団には「大丈夫。すぐ戻るから」と笑って見せたが、胸のざわめきは消えていない。


 花を摘もうとした指先に、影が触れた。

「――っ!」


 瞬きの間に、黒い布が視界を覆う。

 背中に冷たい感触。口元に湿った布。

 魔法で縫い付けられた糸が四肢を絡め取り、声も出せなくなる。


「お静かに、姫。」

 耳元で囁く声は、昨日の幹部格のものだった。

「人の庭は、囚われの鳥に似合う。」


 リリシアは必死に風を呼び、糸を切ろうとした。

 だが――。

 昨日の戦いで学んでいた。敵は彼女の力を封じる“縫い”を巧妙に仕込んでいる。

 風は起きず、ただ髪を揺らしただけで消えた。


(だめ……動けない……!)


◆◇◆


 一方、教室では。

 カイが板書をしている最中に、ふと顔を上げた。


「ん……?」

 頭の中の式が、ひとつだけ不自然に歪んだ気がした。

 まるで分数の分母がゼロになったような、いやな感覚。


「先生?」

 ルーティアが不思議そうに覗き込む。


「……リリシアは?」

「そういえば、昼から姿を見ませんわね。」


 その瞬間、護衛団の一人が駆け込んできた。

「先生! 姫が……姫が裏庭で消えました!」


 教室の空気が凍り付く。


「……やっぱりか。」

 カイはチョークを置き、腰の剣に手をかけた。

「授業は終了や。次の課題は“姫の救出”やで。」


「はい、先生!」

 ルーティアが紅剣を抜き放ち、護衛団が一斉に立ち上がった。


◆◇◆


 リリシアは闇の中で揺られていた。

 どうやら袋に包まれ、魔法で浮かせられている。

 体は動かせないが、耳だけは自由だった。


「よくやった。」

「はい、幹部様。」

 複数の声が交わる。


「これで魔王は必ず動く。人の国に現れ、人々は恐慌に陥る。

 王と人が戦い、疲れたところを……」


「……あなたたちは……」

 リリシアはかすかに声を漏らした。

 喉に糸が絡んでいるのに、それでも絞り出す。

「本気で……パパを……」


「そうだ。時代は変わる。甘き王は不要だ。」

 男の声が冷たく笑う。


 リリシアの胸に、怒りと恐怖が同時に広がった。

(クロス先生……ルーティア……誰か……!)


 闇の中で、必死に祈るように目を閉じた。


◆◇◆


 学園の塔を飛び出すカイたちの姿は、夕陽を背に大きく伸びていた。

 ルーティアが叫ぶ。

「旦那様! 必ずリリシアを取り戻しますわ!」


「当然や。宿題の提出期限は今日中やからな。」

 カイは飄々としながらも、瞳の奥は鋭かった。


 護衛団十九人がそれぞれの武器を手にし、一斉に駆け出す。

 ツェイルが影を追い、カサが幻膜で痕跡を探り、双子が声を揃えて叫ぶ。

「兄者!」「弟よ!」

「せやな!」


 ゴルムは低く呟いた。

「……アカン。通行止めや。」


 その声は決意に満ちていた。

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