第78話『リリシアとルーティアの火花』
その日の放課後。
学園の中庭は夕陽に照らされ、赤く染まっていた。
ベンチに腰かけていたカイの周囲には、クロス組の生徒たちと護衛団がわらわら集まっている。
事件の反省会……のはずだった。
「……で、街の屋台の親父さんらが“クロス組は全員ケチ”ゆうてるそうや。」
カイがため息を吐くと、護衛団は一斉に「アカン!」と叫んで肩を落とした。
「アカン言うてる場合かい!」
カイが机を叩いた瞬間――
「ほんっとうに! 旦那様を困らせるなんて何を考えてますの!」
鋭い声が割り込んだ。
振り向けば、腕を組んで仁王立ちするルーティア。
その表情はぴしっと冷たく、つり目に光が宿っている。
「リリシア!」
ルーティアは真っ直ぐ彼女を指差した。
「あなたが率先して騒いでいたのでしょう!」
「ちょ、ちょっと待って。」
リリシアは目を瞬かせ、眉をひそめる。
「私は止めようとしたのよ! でも護衛たちが勝手に……」
「護衛?彼ら全員、あなたの護衛なの?」
「えっ、い、いえ・・・」
「まぁ、それでいいけど、結局はあなたの一部でしょう!」
「わ、私の一部!? そんな言い方しないで!」
護衛団が小さく「せやな……」と呟く。
完全に蚊帳の外だ。
「旦那様がどれだけ大変か、あなた分かってますの?」
ルーティアはカイにぴたりと寄り添い、腕に絡みついた。
「この方は、学園でも誰より尊敬される先生。その足を引っ張るなんて、絶対に許しませんわ!」
「……っ!」
リリシアの瞳に火が灯る。
「引っ張ってなんかない!」
「そや、姫様は綺麗なだけ!」
ゴルムが何故か誇らし気に言う。
「ふふん。護衛が二十人近くいれば、賑やかでしょうね。」
「賑やかって言わないで!」
二人の間に見えない火花が散る。
「お、おい……落ち着けや二人とも。」
カイは慌てて両手を広げた。
「ワイは困っとるけど、まあ笑い話で済む範囲やし――」
「笑い話じゃありませんわ!」
「笑い話じゃない!」
二人同時に声を張り上げ、またもや火花が散った。
そのやり取りを横で見ていたゴルムが、ぽつりと呟いた。
「……これ、“なんでやねん”の出番?」
「出番ちゃうわ!!!」
カイのツッコミが中庭に響き、周りの生徒たちは爆笑。
こうして、ルーティアとリリシアのライバル関係は、ついに表舞台で火を噴いた。
周囲の生徒たちは息を呑みながら見守り、やがて「クロス組の二大ヒロイン対決」などという妙な噂が流れ出すことになるのだった。




