第77話『護衛団の大暴走』
昼休み。
学園の食堂でパンとスープをつついていたリリシアは、ふと護衛団の姿が見えないことに気づいた。
「……あれ? 十九人、どこに行ったのかしら。」
嫌な予感しかしない。
その直感は見事に的中していた。
――街の大通り。
護衛団はそろって屋台を物色していた。
そして、昨日カイから学んだばかりの“値切り交渉”に挑んでいたのだ。
「兄者! この串焼き三本で銀貨一枚は高い!」
「弟よ! “まけてくれへん?”って言うんだ!」
「まけてくれへん!? せやな! 安うせえ!」
屋台の親父がぽかんと口を開ける。
「この飴玉、一袋で銅貨五枚!? アカン! ワイら学生やで! もっと安くせえ!」
「学生割引や! アメちゃんは学業に必要や!」
メリルまで真剣に声を張り上げる。
「俺、石やった時代は金なんて要らなかった! せやから値切りわからん! でも――安くして!」
ゴルムが両手を合わせて拝むように頼み込む。
その迫力に、屋台の親父は「……もうええ、持ってけ!」と半泣きになった。
そこへリリシアが駆けつける。
「ちょっと! あなたたち、何してるのよ!」
「姫様! 俺たち、クロス先生の教えを実践してる!」
「実践するなって言われたはずよ!」
「でも交渉は学びの基本や!」
「交渉じゃなくて強奪寸前よ!」
通りの人々が「またクロス組か」とひそひそ声を立てる。
リリシアは顔を赤くし、護衛団を引きずるようにして通りを抜けた。
◆◇◆
学園に戻ると、カイが腕を組んで待っていた。
「……お前ら、街で何してきたんや。」
「先生!」
護衛団が一斉に声を揃える。
「俺たち、“なんでやねん”と“まけてくれへん”を習得しました!」
「習得せんでええわ!」
カイが額を押さえて叫ぶ。
「ええか。値切りは時と場合や。屋台で暴れるのはアカン。人の信用は金より重いんやぞ。」
「……アカン。」
ゴルムがしょんぼりと呟いた。
護衛団も一斉に肩を落とす。
リリシアはため息をつきつつ、机に突っ伏した。
「ほんと、もう……。でも、なんだか賑やかで退屈はしないわね。」
その小さな笑みを、カイは横目で見て苦笑した。
(こいつら……ほんま、学園生活をどうしてくれるんや。)
こうして護衛団の“関西弁値切り暴走事件”は幕を下ろしたが、街ではすでに「クロス組はケチくさい」という妙な噂が広がりつつあった。




