第76話『ゴーレム、大阪弁を学ぶ』
翌日のクロス組。
朝のホームルームが始まる前から、教室はすでにざわざわと落ち着きがなかった。
原因はもちろん――ゴルムである。
「――アカン!」
大きな声が響いた。
灰色の瞳をきらきらさせたゴルムが、机の上に両手を置いて立ち上がる。
「アカンは“駄目”って意味! けど、“駄目だ”より優しい! 姫様! 俺、優しく注意できるようになった!」
「アカン! って大声で叫んでる時点で優しくないわ!」
リリシアが机を叩いて突っ込む。
「せやな!」
ゴルムが即座に頷く。
「“そうだな”より軽くて、同意が柔らかい! 俺、せやな大好き!」
「好きなのは勝手だけど、文脈おかしいでしょ!」
「文脈おかしい、せやな!」
「返事に使うなぁ!」
教室は爆笑の渦。
護衛団の他のメンバーもすっかり感化されていた。
「姫様、今日の髪飾り……めっちゃ似合ってまっせ!」
「誰よ今“まっせ”とか言ったの!」
「俺や!」
双子の片割れカルが胸を張る。
「兄者も言え!」
「おう、似合ってまっせ!」
「二人揃ってやめなさい!」
カイは黒板の前で腕を組み、苦笑していた。
「お前ら……なんかワイの大阪弁、めっちゃ伝染しとるな。」
「先生!」
ゴルムがぴしっと挙手する。
「“なんでやねん”はツッコミ専用。相手のボケに返す時だけ! 間違ってないか確認したい!」
「……正解や。」
カイは思わず笑ってしまった。
「けどな、なんでやねんは乱用すると軽くなるから、ここぞいう時だけやで。」
「ここぞ、なんでやねん!」
「今ここぞちゃうわ!」
護衛団はもう完全に大阪弁講座モード。
幻術師カサがノートに「アカン=駄目」と真面目に書き込み、メリルは「アメちゃん=甘いご褒美」と図解している。
ツェイルは走りながら「アカンアカン!」と練習し、双子は二人で「せやな」「せやな」とハモっている。
リリシアはとうとう机に突っ伏した。
「どうしてこうなったのかしら……。私、普通の学園生活を夢見てたはずなのに。」
「夢見た学園生活に、なんでやねん!」
「だから使い方間違ってるってば!」
授業開始の鐘が鳴る。
カイは黒板に数式を書きながらも、背後のにぎやかさに肩を揺らした。
「ええか、お前ら。勉強も大阪弁も、バランスが大事や。式もリズム、言葉もリズム。――どっちも学べば、もっと面白い世界が見えるで。」
教室が静かになり、皆の視線が黒板に集まる。
ゴルムがぽつりと呟いた。
「せやな……。」
その言葉は不思議と自然で、教室を温かい空気で包んだ。
こうして「クロス組関西弁ブーム」は、正式に幕を開けたのである。
果たして学園は、彼らの大騒ぎに耐えられるのか――。




