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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第74話『初めての人の街』

 十九名の護衛団とリリシアを乗せた黒曜の馬車は、魔界の門をくぐり抜けた。

 重い石のアーチが背後で閉じると同時に、世界の空気が変わる。

 乾いた風が頬を撫で、遠くから人々のざわめきが聞こえてきた。


「――着いたわ。」

 リリシアが窓から顔を出す。

 そこには、学園の近隣に広がる人間の街。石畳の大通りには露店が並び、焼きたてのパンや果実の甘い匂いが漂っていた。


「す、すげぇぇ!」

 馬車から飛び降りたツェイル(人間化済み)が、目を輝かせて大通りを見回す。

「人がいっぱいだ! 人混みだ! 雑踏だ!」

「落ち着きなさい!」

 リリシアが後ろから襟をつかんで引き戻す。


「髪飾り……キラキラしてる!」

 メリルは早速、露店の宝飾品に夢中。

「姫様、あれ買っていいですか!? 毒味用に!」

「毒味に髪飾りは必要ないでしょ!」


「兄者! この棒、焼いた肉が刺さってるぞ!」

「弟よ! これは“串焼き”だ! 買うぞ!」

「ちょっと! 財布は持ってないでしょ!」


 そして――ゴルム。


 人型になった彼は、両手を広げ、空を仰いでいた。

「わあああああ! 青い! 空が青い! 雲が白い! 太陽がまぶしい! 目がしょぼしょぼする! でも見たい! もっと見たい! 見すぎて涙出た! 俺、泣いてる!」


「実況やめなさい!」

 リリシアが慌てて口を押さえるが、もう遅い。

 周囲の人間たちが振り返り、「なんだあの青年……?」と囁いている。


「みんな! とにかく人目を引かないで!」

 リリシアが声を張るが――無理な注文だった。


◆◇◆


 護衛団はそれぞれ人間界の珍しさに大はしゃぎ。

 露店の饅頭を一口で三つ頬張る者、道端の犬を見つけて「小さい獣!」と叫ぶ者、劇場の看板に群がって「観たい!」と大合唱する者。

 すでに街はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。


「ほら! これを食べて落ち着いて!」

 リリシアが近くの屋台で焼き菓子を買い与える。

「砂糖! 甘い! 口の中が幸せ!」

「熱い! でもうまい!」

「喉が詰まる! 水! 水!」

 護衛団が一斉に大騒ぎする。


 ゴルムはゆっくり噛みながら、涙ぐんでいた。

「サクッとした! 外がサクッ! 中がふわっ! 甘い! 甘すぎて喉がキュンってした! これが幸せか!」

「だから実況するなってば!」


 その騒ぎの中、リリシアはふと立ち止まる。

 視線の先に広がるのは、遠くにそびえる学園の塔。

 尖塔の上に、光を受けた魔法陣が淡く輝いている。


「……着いたのね。」

 彼女の瞳が細められる。

「パパ。私はここで学ぶわ。そして、この護衛たちと一緒に。」


 背後でゴルムが叫んだ。

「姫様! 俺、今、“姫様”って言えた! すごい!」

「はいはい。よかったわね。」


こうしてリリシアと護衛団の「人間界デビュー」は、初日から街をひっくり返す大騒ぎとなった。

 だが――これこそが彼らの“自然体”であり、リリシアの新たな学園生活の幕開けでもあった。

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