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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第49話『夏休みの終わり、帰路にて』【カイとルーティアの夏休み編⑱】

 蝉に似た虫の鳴き声が公爵領の空に響いていた。

 長かった夏休みも、いよいよ終わりの時を迎える。

 公爵邸の前庭には大きな馬車が待機し、荷物が積み込まれていた。


 「いやぁ……あっという間やったなぁ」

 カイは肩を回しながら、庭先を見渡した。

 「農園の土壌改良に、水路工事に……夏休みっちゅうより、土方体験合宿やった気ぃするわ」


 「ふふっ、でも旦那様はいつも楽しそうでしたわよ」

 ルーティアが扇子を口元に当て、上機嫌に微笑む。


 「楽しいて……汗だくになってる横であんたは『旦那様すてき!』って煽ってただけやんか」

 「事実を口にしただけですわ」


 カイが頭を抱える横で、荷物をまとめ終えた公爵家の兄たちが近づいてきた。


 「クロス殿、領地を救ってくれて感謝する。妹を頼んだぞ」

 「いやいや、ワイは頼まれた覚えないんやけどな……」

 「ふっ、観念しろ」


 そのやり取りを最後に、馬車はゆっくりと動き出した。


◆◇◆


 道すがら、村を通り抜けると、領民たちが大勢集まってきた。


 「クロス先生!」

 「婿度先生ー!」

 「婿殿ーー!」


 「婿殿ちゃう言うてるやろー!」


 カイは苦笑しながらも馬車を止め、ひとりひとりに声を返した。

 農園の子どもたちは手作りの花束を差し出し、老人たちは深々と頭を下げる。


 「先生のおかげで畑が生き返りました」

 「水路の水で、今年は安心して冬を迎えられます」

 「本当に……ありがとう」


 カイはぽりぽりと頬をかきながら、いつもの癖で懐からあめちゃんを取り出した。

 「ほな、子どもらにはこれや。ひとり一個やで。喧嘩したらあかんぞ」


 「わーい!」

 子どもたちの笑顔がぱぁっと弾ける。


 その光景に、カイの胸も自然と温かくなっていた。

 (……せやな。教師やっててよかった思える瞬間は、こういうときやなぁ)


 馬車に戻ると、ルーティアがさりげなく水筒を差し出した。

 「旦那様、暑いでしょう? どうぞ」


 「お、気ぃきくやん。サンキューな」

 カイは一息にごくごくと飲み干した。


 「ぷはぁー! 生き返るわ……ん?」


 口の中に広がる妙な苦み。

 そして、じわじわと瞼が重くなっていく。


 「お、お嬢……これ……」

 「ふふっ。いくら旦那様でも、眠り薬は効くようですわね」


 「まさか、帰りまで~~~!!!」


◆◇◆


 気づけば、学園の門前。

 青空の下、馬車の窓からのぞく生徒たちの好奇の視線。

 そして――。


 「……ん、うぅ……」

 カイが目を開けると、そこは見覚えのある光景。


 ルーティアの膝の上。


 「おはようございます、旦那様。心地よいお昼寝でしたでしょう?」

 「いや! 心地ええわけあるかい! なんで毎回こうなるねん!」

 「だって、旦那様が逃げようとなさるからですわ」


 「ワイは帰ってきただけやーー!」


 門前で見ていた生徒たちがざわつき、笑い声が広がる。

 「やっぱり先生とルーティア様は仲良しなんだ」

 「仲良しちゃうわーーー!!!」


 ツッコミが青空に響き渡り、学園の夏休み明けが始まった。

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