第47話『舞踏会の影』【カイとルーティアの夏休み編⑯】
婚約発表とルーティアの大胆な宣言から、舞踏会は一転して祝福ムードに包まれていた。
音楽隊が高らかに曲を奏で、貴族たちは笑顔で杯を掲げ合い、まるで王国の未来が一気に明るく開けたかのように。
「いやぁ……すごいもんやな」
会場の隅でカイは汗を拭い、深いため息をついた。
「ワイ、ただの教師やで? なんでこんな国の一大イベントに巻き込まれとんねん……」
「巻き込まれてるんじゃありませんわ。中心にいるんですの」
隣で腕をがっちり絡めているルーティアが、得意げに言い放つ。
「いや、中心にされた覚えはないんやけどなぁ……」
◆◇◆
その頃、広間の裏手――仮面を付けた数名の貴族が密やかに集まっていた。
「馬鹿な……あれでは王家と公爵家の結びつきが弱まるではないか」
「ルーティア様が異邦人などと結ばれるなど……認められるはずがない」
「いずれ、必ず揺り戻しが来る。今のうちに手を打たねば……」
彼らの声は小さくとも、確実に不穏な火種を撒き散らしていた。
◆◇◆
再び会場。
音楽隊が新たな旋律を奏で始め、舞踏の時間が訪れる。
レオンとフィリアが中央に進み出て、優雅に踊り始めた。
「殿下とフィリア嬢……なんと絵になる」
「堂々とした姿、これぞ未来の王と妃だ」
貴族たちの称賛の声が広がる。
そのすぐ隣では――。
「旦那様、私たちも行きましょう」
「ちょ、待て待て! ワイは踊り苦手や言うたやろ!」
「先ほども見事に踊れていましたわ。私がリードしますから、心配はいりません」
「いや、さっきのは完全に振り回されただけや!」
抵抗むなしく、ルーティアはカイを引っ張り、舞踏の輪へ。
結果。
赤いドレスのルーティアと燕尾服のカイ。
青のドレスのフィリアと黒衣のレオン。
二組のカップルが並んで舞う姿は、まるで舞踏会の象徴そのもの。
会場の人々は感嘆の溜息を漏らした。
「これほど完璧な組み合わせがあろうか……」
「まさに理想的だ」
カイは額に汗をにじませながら、必死でステップを踏む。
(理想とか言うてるけど……ワイは理想ちゃうねん! ただの数学教師や!)
舞踏が終わると、ルーティアは満足げに腕を絡め直し、うっとりとカイを見つめた。
「素敵でしたわ、旦那様」
「ワイは必死やっただけや……」
そのやり取りに会場から笑いが起こり、さらに拍手が重なった。
◆◇◆
一方その裏で――。
仮面の貴族たちは陰に潜みながら、低い声で囁き合っていた。
「このままでは王国の均衡が崩れる……」
「異邦の男に力を与えてはならぬ」
「必ず手を打つぞ。あのカイ・クロスとかいう男、近いうちに排除せねば……」
彼らの目に宿る暗い光を、カイはまだ知らなかった。
祝福と陰謀。
舞踏会の夜は、華やかさと不穏さを同時に孕んで更けていった。




