第46話『悪役令嬢のいない舞踏会』【カイとルーティアの夏休み編⑮】
舞踏会も佳境に入り、広間の中央にひときわ注目を集める声が響いた。
「諸君!」
壇上に立ったのは、王国の第一王子レオン。
漆黒の礼服に身を包み、隣には淡いブルーのドレスを纏ったフィリアが寄り添っている。
「この場を借りて、改めて皆に告げよう。私はフィリア=アーベント嬢と婚約することを正式に発表する!」
瞬間、会場がどよめいた。
「な……なんと!」
「しかし……ルーティア様とは幼き頃より婚約を交わしていたのでは……」
「これは……どういうことだ?」
貴族たちがざわつき、困惑と驚きが渦を巻く。
そんな中。
真紅のドレスを纏ったルーティアが、パチン、パチンと拍手を鳴らしながら一歩前に出た。
「その件については、私から説明いたしますわ!」
全員の視線が彼女に集まる。
ルーティアは堂々と胸を張り、にこやかに言い放った。
「私と殿下は、ただ親の都合で幼い頃から婚約者にされていただけです。ですが今は互いに、本当に良い相手に巡り合いましたの。だから、この婚約は解消されました!」
その瞬間、彼女は迷いなくカイの腕にがっちりと絡みついた。
「そして――私が巡り合った相手は、この方、カイ=クロス先生ですわ!」
「ちょっ……お、お嬢ぉぉ!」
カイは顔を真っ赤にし、必死で腕を振りほどこうとするが、ルーティアは鉄のような力で離さない。
壇上のレオンは笑みを浮かべ、フィリアの肩を抱き寄せる。
「その通りだ。ルーティアと私は良き幼なじみ、そして今は互いに理解し合える相手を見つけた。それでいい」
フィリアも柔らかく微笑み、レオンに寄り添った。
「私も……殿下と共に歩んでいけることを誇りに思います」
その姿に、広間は大きな拍手と歓声に包まれた。
「素晴らしい……!」
「ルーティア様が自ら身を引かれるとは……!」
「まさに理想的な結末だ!」
ただ一人、カイを除いて。
「やばいやん! これもう逃げられん奴や~~!」
必死でルーティアの腕から抜け出そうとするが、彼女は笑顔のまま、さらに力を込めてしがみつく。
「旦那様。ここで逃げようとするなんて、失礼ですわよ?」
「いや、旦那様ちゃうし! ワイはただの数学教師や!」
「いいえ。領民にとっても、私にとっても、あなたは唯一無二の旦那様です」
「お、お嬢ぉぉぉ!」
周囲の人々はそのやり取りを見て、ますます温かい拍手を送った。
「やはりルーティア様とカイ先生はお似合いだ!」
「これで王国は安泰だな!」
「婿殿万歳!」
「婿殿ちゃう言うてるやろーー!」
しかしその声は、歓声と拍手にかき消されていく。
ルーティアは勝ち誇ったように笑みを浮かべ、さらにカイの腕に頬を寄せた。
「ふふっ、これでもう誰にも否定させませんわ」
「ワイは否定したいーーー!」
舞踏会の広間は祝福と笑いに包まれ、
「悪役令嬢」という存在は――完全に姿を消していた。




