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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第45話『フィリアの成長』【カイとルーティアの夏休み編⑭】

 舞踏会の広間は熱気に包まれていた。

 煌びやかなドレスや燕尾服が行き交い、ワインの香りと笑い声が絶え間なく響く。


 ルーティアはカイの腕に絡みついたまま離れず、カイは半ば引きずられるように輪へと出たり下がったり。

 「お嬢、ええ加減休憩しよ! ワイの足、もう棒や!」

 「ふふ、旦那様は体力が足りませんわね。もっと鍛えてくださいませ」

 「鍛える場所ちゃうやろ舞踏会は!」


◆◇◆


 その横で、ひときわ注目を浴びる二人の姿があった。


 王子レオンと、フィリア。


 淡い水色のドレスに身を包んだフィリアは、以前のか細い少女の面影を残しながらも、その瞳は堂々と前を見据えていた。

 レオンにエスコートされて舞踏の輪に入ると、そのステップは驚くほど軽やかで自信に満ちていた。


 「フィリア嬢、随分と変わられたな……」

 「以前は誰かの陰に隠れるようだったのに、今は……」

 「まるで本物の姫君のようだ」


 ざわめきが会場を走る。


 実際、フィリアはこの数ヶ月で大きく変わっていた。

 学園ではカイから基礎魔法の論理を学び、レオンからは剣と社交の立ち居振る舞いを仕込まれた。

 その結果――守られるだけの少女から、自分で立ち向かう強さを備えた令嬢へと成長していたのだ。


 カイはその姿を見て、思わず心の中で呟いた。

 (……ほんま、ヒロインやったはずの子が、どんどん逞しなっていくなぁ)


 フィリアがレオンと共に舞踏を終えると、ルーティアがすかさず近づいた。


 「まぁ、フィリア。とても素敵でしたわ」

 「ありがとう、ルーティア様。あなたも……カイ先生と並んで、とてもお似合いです」


 二人は自然に笑い合い、まるで旧友のように言葉を交わした。


 その光景に、周囲の貴族たちは目を丸くする。

 「おかしい……本来ならライバル同士のはずなのに」

 「悪役令嬢とヒロインが仲良く談笑している……?」

 「まるで共犯者のような……いや、連合軍か?」


 そして、その「ずぶとさ」は次の瞬間に証明された。


 一人の貴族令嬢が、恐る恐るフィリアへ声をかけた。

 「フィ、フィリア嬢……その、レオン殿下とあまり近しくなさると、周囲の……」


 言葉の続きを言い切る前に、フィリアはにこやかに答えた。

 「殿下は私に剣も社交も教えてくださいました。私にとって、大切な師でもあります。――それを不満とおっしゃる方は、正々堂々と私に意見をくださればよいのです」


 柔らかな声色だが、その眼差しは鋭く、令嬢は何も言えずに後ずさった。


 すぐさまルーティアが続ける。

 「そうですわね。私の旦那様に陰口を言う方がいれば、私も同じように正面から参りますわ」


 二人の気迫に押され、令嬢はたじたじと退散していった。


 カイはその様子を少し離れた場所から見ていて、深いため息をついた。


 (……おいおい。本来ならルーティアが取り巻き連れてイジメ側、フィリアが泣きそうな顔で庇われる立場やったんちゃうんか)

 (それが今は……悪役令嬢とヒロインが連携して、逆に周囲の貴族をビビらせとる。なんやねんこの図式)


 彼の心の声を知ってか知らずか、二人の令嬢は並んでこちらへ歩いてきた。


 「カイ先生」

 フィリアが微笑んで言う。

 「今の私を見て、どう思われますか?」


 カイは少し戸惑いながら答えた。

 「……強なったなぁ。ほんま、最初会うた時は守らなアカン子やと思てたけど」

 「今は?」

 「今は……守ってもらえる側かもしれん」


 フィリアは嬉しそうに微笑み、ルーティアはすかさず横から言葉を差し込む。

 「ふふっ、でも旦那様を守るのは私ですわ」

 「奥様モードやめぇぇ!」


 会場の空気がどっと和み、周囲から笑い声が広がった。


 夜も更け、舞踏会が佳境を迎える頃。

 カイはワイングラスを片手に、二人の令嬢を見やりながらしみじみと思った。


 (……悪役令嬢もヒロインも、もう本来の役割なんて残っとらん。どっちも逞しすぎて、ワイが一番ヒロインっぽいんちゃうか)


 その内心の嘆きは、もちろん誰にも届かず。

 ただルーティアとフィリアが楽しそうに笑い合う声が、きらびやかな広間に溶けていった。

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