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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第44話『取り巻き不在の舞踏会』【カイとルーティアの夏休み編⑬】

 王都の夜を彩る舞踏会の会場は、まばゆいほどの光で包まれていた。

 シャンデリアが星のように輝き、磨き込まれた大理石の床には貴族たちが優雅に集い、音楽隊が奏でる旋律が天井を震わせている。


 カイは燕尾服に身を包み、落ち着かない様子で広間の隅に立っていた。

 「……あかん。背筋伸ばしてるだけで疲れるわ」

 ネクタイをきゅうきゅうと締め直しながら、小声でぼやく。


 本来なら、こういう場で一番存在感を示すのは――悪役令嬢ルーティア。

 ゲームの知識が正しければ、彼女は取り巻きの貴族令嬢をずらりと引き連れ、舞踏会の華として登場し、ヒロインを妨害する算段を進める……はずだった。


 だが、今。


 「旦那様、こっちへいらして。人混みは落ち着きませんわ」

 「お、お嬢! 引っ張るなって!」


 ルーティアは真紅のドレスを纏い、堂々とカイの腕を組んで会場を闊歩していた。

 取り巻きたちの姿は影も形もない。


 その異変に気づいた周囲の貴族たちが、ひそひそと囁き合う。

 「おかしい……ルーティア様はいつも取り巻きと一緒に現れるのに」

 「しかも今日は、あの異邦の数学教師にべったりではないか」

 「……本当に旦那様なのか?」


 「旦那様ちゃう!」

 カイが即座にツッコミを入れるが、聞いている者はいなかった。


◆◇◆


 しばらくすると、壁際で気まずそうにしている令嬢たちの一団が目に入った。

 ルーティアのかつての取り巻き――ゲームの中で「悪役令嬢派閥」を形成していた面々だ。

 しかし今は、中心人物を失い、寄り合い所帯のように固まっている。


 「どうしましょう、ルーティア様が私たちに声をかけてくださらないなんて……」

 「カイ先生に夢中すぎるのよ。あの方が来てから様子が変わったわ」

 「まさか、新しい勢力を作らなければならないなんて……」


 「新勢力」などという言葉まで飛び出す始末に、カイは思わず額を押さえた。

 (ほんま、歴史改変もええとこやな……)


◆◇◆


 やがて舞踏会が始まり、貴族たちが次々と輪を作り、華やかなダンスを踊り始めた。

 当然、ルーティアが立ち上がる。


 「旦那様。踊りましょう」

 「無理や! ワイは盆踊りしか経験ない!」

 「大丈夫ですわ、私がリードいたします」

 「普通男女逆やろ!」


 抵抗する暇もなく、ルーティアはカイの手を取り、舞踏の輪へと引きずり込んだ。


 不慣れなカイの足取りに、最初こそ失笑が漏れた。

 だが、ルーティアはそれをものともせず、堂々とした笑顔でカイを導き、見事にステップをまとめていく。

 「……あれは……」

 「悪役令嬢どころか、まるで主役の姫君だ」

 「相手は異国の教師なのに……不思議と釣り合っている……」


 囁きは次第に称賛へと変わっていった。


◆◇◆


 一方そのころ。

 広間の別の場所では、もう一人の少女――フィリアがレオン王子と共に姿を現していた。

 かつては「守られるだけのヒロイン枠」だった彼女。

 だが今は、剣も魔法もこなせる逞しさを備え、堂々と胸を張って歩いている。


 レオンが舞踏に誘えば、フィリアは自信に満ちた笑顔で応じた。

 「もちろん、殿下」

 「おぉ……フィリア嬢、ずいぶん凛々しくなられた……」

 「以前の頼りなさはもうないな」


 周囲の人々が感嘆の声を漏らす。


 カイはその光景をちらりと見て、深いため息をついた。


 (……ルーティアは悪役令嬢どころか、恋する乙女一直線やし……フィリアは逞しすぎてヒロインちゃうやろ。これ、誰が悪役で誰がヒロインなんや?)


 思わず口に出しそうになったが、ルーティアに引っ張られながら回転させられ、慌ててバランスを取る。


 「カイ、集中してくださいまし」

 「盆踊り脳にワルツは無理やーー!」


 そんなドタバタの最中、かつての取り巻き令嬢たちは壁際でじっと二人を見つめていた。

 その表情は、嫉妬ではなく――諦めと、そして一抹の憧れ。


 「……もう、ルーティア様は私たちには振り向かれないのね」

 「ええ。でも、あんなに幸せそうなお顔をされるのを見ると……」

 「私たちも、新しい居場所を探さなくては」


 かつて「悪役令嬢派閥」と呼ばれた集団は、いつの間にか瓦解し、新たな人間模様を作ろうとしていた。


 音楽が一段落し、ルーティアはカイの手を握ったまま微笑んだ。

 「ね、カイ。今日は楽しいでしょう?」

 「……正直、心臓持たんわ」

 「ふふ、それでも最後まで私と一緒にいてくださいますわね?」

 「……まぁ、しゃあないな」


 広間のざわめきの中、カイはしみじみと実感していた。


 (……ほんま、悪役令嬢ルーティアなんて、この世界から消えてもうたんやな)


 舞踏会はまだ始まったばかりだった。

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