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悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


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第35話『浜辺でバカンス①』【カイとルーティアの夏休み編④】

 公爵家の馬車が石畳の街道を抜け、やがて視界いっぱいに碧い海が広がった。

 夏の日差しを照り返す波間はきらめき、砂浜は白銀のように光を放っている。


 「……おぉぉ。異世界にも海水浴場ってあるんかいな」

 カイは目を細めて感嘆の声を漏らした。


 ヴィルヘルムが馬車から降り、胸を張る。

 「ここは我ら公爵家の保養地。領民にも解放しているが、今日は特別に貸し切りだ」

 「貸し切り!? 規模が観光リゾートやん……」


 ユリウスもにやりと笑う。

 「せっかく妹を連れてきたのだ。教師殿も羽を伸ばすといい」


 「……嫌な予感しかしないんやけど」


◆◇◆


 砂浜に着くと、ルーティアが大きなパラソルの陰から姿を現した。

 真紅と白を基調にしたワンピースタイプの水着。

 腰には薄手の布を巻き、金色の髪を潮風になびかせている。

 後で知ったが、この世界にはビキニタイプの水着は無いそうだ。


 普段のドレス姿とは違う、健康的でありながらも女性らしい魅力が全開だった。


 「カイ……どうかしまして?」

 ルーティアが頬を染め、少しうつむく。


 「い、いや……その……」

 カイは顔を真っ赤にし、目を逸らした。


 「おいおい、クロス殿」

 ヴィルヘルムが肩を叩き、からかうように言う。

 「目を逸らすとは失礼ではないか?」

 「せやかて! 直視したらワイの理性が崩壊すんねん!」


 ユリウスは吹き出す。

 「やはりクロス殿でも動揺するか。妹もようやく女らしく――」

 「ユリウス兄様っ! 余計なこと言わないで!」


 砂浜にシートを敷き、籠いっぱいの果物やパンが並ぶ。

 その傍らでは使用人たちが火を起こし、海鮮を焼く準備をしていた。


 「いや、これ完全にバーベキューやん。しかも海産物が豪華すぎる……」

 「カイ、さっそく泳ぎましょう!」

 ルーティアがカイの手をぐいっと引く。


 「ちょ、ワイは海パンすら着慣れてへんのに!」

 「心配いりませんわ。私がしっかり見守って差し上げますから」

 「子ども扱いすな~!」


 結局、引きずられるように海へ。

 足元に波が寄せては返し、白い飛沫が跳ねる。


 「ひゃっ……つめた!」

 ルーティアが声をあげ、すぐさま水をすくってカイに浴びせる。

 「うわっ、やりよったな!」


 カイも負けじと水をかけ返し、やがて本気の水かけ合戦に発展。

 ヴィルヘルムとユリウスも参戦し、三兄妹と教師の大乱戦となった。


 「兄様方、味方してください!」

 「残念だが妹よ、我らはクロス殿側だ!」

 「裏切り者ーー!」


 砂浜には笑い声が響き渡った。


 ひとしきり遊んだあと、ルーティアが浮き輪を抱えてぷかぷかと海に浮かんでいる。

 「カイ、見てください! 私、波に乗ってますわ!」

 「いや、それ浮き輪に乗ってるだけや」

 「そういう細かい突っ込みいりませんわ!」


 波に揺られる彼女の笑顔は、普段の気丈な悪役令嬢の仮面を脱ぎ捨て、年相応の少女そのものだった。

 カイはその姿を見て、少しだけ胸が温かくなる。


 (……まぁ、こうして笑っとる顔見られるんなら、連れて来られたんも悪くないか)


◆◇◆


 昼食になると、砂浜に香ばしい匂いが漂い始めた。

 焼き上がった魚や貝を囲み、全員で豪華な浜辺バーベキューが始まる。


 「おぉ……これ日本の海鮮より贅沢やな」

 「カイぃ、はい、アーンですわ」

 「だからなんで全部食べさせようとすんねん!」

 「奥様の務めですもの」

 「その言葉、1日何回聞けばええねん!」


 兄たちも「クロス殿、頑張れ」「もう観念しろ」と酒を片手に笑っている。


 空は真っ白い雲が広がり、波の音が静かに響いていた。

 焚き火を見つめながら、ルーティアがぽつりと呟く。


 「カイ。……こうしていると、本当に家族みたいですわね」


 カイは思わず手を止め、彼女を見た。

 その横顔は赤く染まっていて、潮風に揺れる髪の先が小さく震えていた。


 「……そうやな。悪くない時間や」


 (ただ……問題は、この家族の全員がワイを“婿殿”扱いしてることやけどな)


 苦笑を胸に隠しつつ、カイは焼けた貝をひっくり返した。

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