第25話『数学剣術特訓! パターンと角度の極意』【学園行事編:戦陵祭②】
戦陵祭まで残り一週間。
校庭の一角に集められたカイのクラスは、剣を持って固まっていた。
「先生……本当に、私たちが剣で勝てるんですか?」
「せやせや、ワイら魔法は得意やけど、剣なんて持ったことないんですよ……」
不安げな声に、カイはにやりと笑った。
「心配せんでええ。剣技いうても、パターンと角度の話や。要は三角関数と力学や」
「……三角関数?」
「力学?」
カイは木の棒を手に取り、地面に三角形を描いた。
「たとえば“突き”。角度30度で振り下ろしたら、相手の防御を一番効率よくすり抜けるんや」
「え、30度!? なんでそんな数字出てくるんですか!?」
「sin30°は1/2。つまり“半分の力で最大の効果”や」
「……ど、どういうことですか?」
「百回やったら分かる」
言うが早いか、カイは生徒の一人に木刀を持たせ、標的に突きを打たせた。
最初は力任せに振り下ろす。標的は揺れるだけ。
カイが手を添えて角度を修正。
「ほら、30度や。重心を腰に、ベクトルを前に」
ズバァンッ!
木製の標的が見事に割れた。
「う、嘘……!」
「ほんまや、さっきより軽く振っただけやのに!」
「次は斬撃や。腕の振りを弧として考えるんや。円周角の定理、覚えとるか?」
「円周角……!」
「角度が一定やと、どこからでも同じ結果になるんや」
実演するカイ。
木刀を軽く横に振っただけで、藁束が綺麗にスパッと裂けた。
「力やない。“軌道”を支配するんや」
ルーティアが前に出る。
「ふん、私は最初から強いんだから、こんなの必要ないわ」
カイは苦笑して彼女の構えを直す。
「手首返しすぎや。90度じゃなく75度。重心を半歩後ろに」
「そんな細かい差で――」
スパァン!
彼女の一撃で標的が二つまとめて裂けた。
教室中が拍手。
「……っ! い、今のは、私が強いからよ!」
「はいはい、ツンデレ角度45°で承りました」
「誰がツンデレよ!」
◆◇◆
さらに翌日。
カイは砂場に円を描き、生徒たちを立たせた。
「これはベクトル演習や。剣を振ったあとの反作用をどう逃がすか」
「反作用……って、物理?」
「せや。剣は力のやりとりやからな。F=ma。質量と加速度の積や」
「先生! 戦ってるのに数式が飛び交う!」
「数式こそ最強の武器や!」
生徒たちは最初は戸惑いながらも、繰り返すうちにみるみる上達していった。
「先生! 昨日より速く斬れます!」
「突きが相手の防御をすり抜けました!」
「剣の反動が怖くない!」
成功体験に瞳が輝き、笑い声が広がる。
そこへ見物に現れたのは、ルーティアの兄ヴィルヘルムとユリウス。
「妹よ、お前が剣の稽古を?」
「しかもクロス殿が教えていると聞いて」
二人は腕を組み、じっと見つめる。
「……信じられん。魔法主体のクラスがここまで動けるとは」
「パターンが整っている。無駄がない。理に適っている……」
「ふふん、どう? 私は最初から強いけど、先生がさらに磨きをかけてくださったの」
「いやアンタ最初ぐちゃぐちゃやったやろ」
「だまらっしゃい!」
◆◇◆
訓練が終わるころ、生徒たちは汗だくで砂まみれだったが、顔には笑顔が浮かんでいた。
「先生、戦陵祭……私たち、勝てますか?」
「勝てるかどうかは知らん。でもな、“勝てる形”は作った。あとはみんなの手で答え出してや」
沈んでいた気持ちが、一気に晴れるような空気。
ルーティアは腕を組み、力強く頷いた。
「剣でも証明してみせるわ。クロス組は最強だって!」
こうして、数式に裏付けられた剣技特訓は順調に進んでいった。
クロス組の「異常な強さ」は、いよいよ本番の舞台で明らかになることになる。




