番外編⑤:『三人の挙式計画』
静かな午後。
学園の中庭に、クロス組の面々がこそこそと集まっていた。
ツェイルが影から顔を出し、双子は巻物を小脇に抱え、メリルは式用のお菓子案を山のように書いたメモを手にしている。
そして中心にいるのは、言うまでもなく――リリシアとルーティア。
二人の間に置かれたのは、一冊の分厚い「挙式計画書」。
なんと、ゴルムが手彫りで表紙を作った特注品である。
「さて……まず決めないといけないのは、式の場所ですわね」
ルーティアが指を立てながら話す。
「人間界か、魔界か。あるいは、その中間……」
「湖の小聖堂、どうですか?」
リリシアが控えめに口を開く。
「境の門があった場所ですし……特別な場所、って感じがして」
ルーティアはしばし考えてから、ふっと微笑んだ。
「ええ、あそこなら先生も文句は言えませんわね。
“一番死にかけた場所”ですもの」
それを聞いて、周囲の護衛たちが真顔でメモを取る。
「式場:境の湖 意味:死の記憶」などと真剣に書き込まれていた。
◆◇◆
「じゃあ、次は衣装の案ね!」
と、勢いよく巻物を広げたのは双子の姉。
「わたしたちはね、テーマカラーを決めて対称構造にするのがいいと思うの!」
「そう! 例えば、リリシア様は白銀に紫の差し色、ルーティア様は紅と金の織り模様! 左右で寄り添うようにデザインして、中央にカイ先生を!」
「はい、カイ先生は無地でいいよね」
「無地!?」
ルーティアが思わず立ち上がった。
「そこはちゃんと王の象徴の刺繍くらい入れなさいよ!」
「じゃあ、胸に“夫”って書いとけばいいんじゃない?」
「嫌ですわああああ!」
「じゃあ背中に“逃げられません”で」
「もっと嫌ですわあああ!!」
リリシアはそっと微笑みながら巻物を巻き戻していった。
(これは……先生にはまだ内緒にしておくべきですね)
◆◇◆
「式の進行はどうするの?」
メリルがぽりぽりクッキーをかじりながら言った。
「一般的な人間界の誓いの儀式でやるのか、魔界式でやるのか、あるいは……新しい式次第を作るのか」
「私は魔界の歌式も良いと思います」
リリシアがそっと提案する。
「母がよく歌っていた……魂を結ぶ旋律。あれは、深くて、温かいから」
「……歌式と誓いのキス、両方やるのもありですわね」
ルーティアが真顔で頷いた。
「三人で……誓う。
どんな未来があっても、同じ歩幅で、隣にいると」
その言葉に、周囲の護衛たちが静かに感動していた。
双子の弟が目をうるませ、カサが咳払いしながら後ろを向いた。
「誓いの言葉は、三人で書きます?」
リリシアが言うと、ルーティアがしばし考え――頷く。
「ええ。
私たち三人だけの、誓いを」
その瞬間。
「……ちょっと待ってぇええええ!!」
遠くから声がした。
花壇の向こうから、カイが全力で走ってくる。
「まだ決めとらんて! ほんまにやるつもりか!? いや、嬉しいけど!? でも三人同時って!?」
ルーティアとリリシアは、ぴたりと呼吸を合わせて振り返る。
「ええ、もう準備進んでますので」
「逃げ場はありませんよ、先生」
「うわあああああ!!」
再び中庭に響く追走劇。
だが、今は誰も真剣には止めない。
追われる男と、追いかける二人。
笑いと愛が交差する、魔界と人間の境の庭。
◆◇◆
その日、挙式計画書の表紙には、金の文字で新しい題が加筆された。
『合同挙式式次第 第一稿』
下には、筆跡の違う三つの名前が並んでいた。
ルーティア・フォン・ヴァレンシュタイン
リリシア=ノワール=ディ=ルフェルザード
カイ=クロス
――未来はまだ、ページの途中。




