表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/136

第103話『揺れる風』【魔眼の徘徊者編③】

 それは午後の、風がざわついた瞬間だった。


 学園の北実習区。

 かつて使われていた古い訓練場の裏手で、突然の術式発動が検知された。


「敵性術式確認。三体、結界の外縁に出現」


 カサの幻膜が淡く揺れる。


「ツェイル、右塔からの侵入。双子は南側の斜面!」


「挟み込みやな。――来たか、“門”の痕跡を追っとる」


 カイは静かに理手を撫でた。

 その指の関節が、一度だけ、軽く脈打つ。


(試すタイミングとしては、まぁ……悪くない)


「クロス組、全員配置につけ。

 ゴルムは通行止め。メリル、後衛支援。カサ、視界封鎖。リリシア、風上制御。ルーティア、剣で左から回れ」


「はい!」


「先生、左腕……無理は――」


 リリシアの言葉に、カイはふっと笑った。


「大丈夫や。──むしろ“左手”こそが、今回の“主砲”や」


◆◇◆


 敵の一人が、訓練棟の屋根を飛び越えて現れる。

 黒衣を纏い、顔を隠し、両腕に“抑制術”の環を巻いている。

 言葉はない。

 術師――それも、熟達者だ。


「ルーティア、背面回れ!」


「了解!」


 紅の剣が光を引きながら宙を駆ける。

 その間、カイは地面に膝をついて左肘を固定した。


「位置、誤差なし。

 流束、通る。

 角度、面に沿う……よし」


 理手の掌が、外れる。

 それはまるで、鍵がカチリと外れるような静かな音だった。

 手首から先――つまり義手の“手の部分”が、淡く光を放ちながら浮き上がる。


「発射準備……完了や」


 そして。


「──ロケットパンチ、射出!」


 バシュッ!!!


 小型の雷のような破裂音とともに、義手がカイの腕から射出された。

 真っ直ぐに、敵の腹部目がけて、術式を描きながら飛んでいく。

 指が、宙で走る。


 それは数式の“筆”。

 飛翔と同時に、風に文字を刻む。


「なっ──!? これは……!」


 敵の術師が警戒して跳ぼうとしたその瞬間、

 義手の指が空中で最後の“〆”を書き終えた。


 同時に、着弾。


 ズドンッ!!


 敵の胸に命中した瞬間、着弾点に空間式が展開。

 術式の発動タイミングは、カイの指示した遅延トリガーと完全に一致していた。


「“面の反転”──地ごと、呑めや」


 次の瞬間、着弾地点を中心に半径五メートルの“空間歪曲”が発生。

 まるで地面がひっくり返ったように、空間の内側へと“陥没”していく。


 敵の術師は術もろとも、そこに封じ込められた。


◆◇◆


 ――しん……。


 あまりに衝撃的な展開に、周囲が一瞬沈黙した。

 メリルが、ぽかんと口を開けた。


「いまの……え?」


 双子が同時に呟く。


「先生の手が…飛んだ……」


「しかも、字を書きながら……」


 ゴルムが呟く。


「……空中手書き術式、搭載型飛翔式拳。

 名称:ロケットパンチ?」


「今命名すな」


◆◇◆


 義手は、術式に沿ってくるんと旋回し、空中を戻ってくる。

 カイは左肘を前に突き出し、戻ってきた“理手”をカチンッと受け止めた。


「回収完了。誤差無し。──うん、完璧やな」


「…………」


 ルーティアは、何も言わずにじっとカイを見つめていた。

 その頬は、ピクリと動く。


「旦那様……それ、本気だったんですのね」


 カイは肩を竦める。


「せや。冗談言うとる場合やない。これは“教師用兵装や”」


「兵装言うたら終わりですわ!!」


 リリシアも、震えるような声で続けた。


「ちょ、ちょっと待って……今の飛行中、確かに……空間式を“書いてた”!? 指で!? 空で!?」


「せや。“書き飛ばし術式”。名付けて《翔筆しょうひつ》や」


「そっちも名付けるんですか!?」


「紅茶ユニットより優先度高かったからな。しゃあない」


「なんでそっちが通るんですの!?」


 少女たちの叫びが、残響のように広がった。


◆◇◆


 敵の残りは、すぐに制圧された。

 だが、封じ込められた敵術師の身体には、奇妙な“痕跡”が残っていた。

 指の爪に、何かを引っかいていた形跡。


 それは、術式でも毒でもなく──言葉だった。


 《彼女の風を、ねじれさせる》


 見た瞬間、リリシアの顔がわずかに引き締まった。


「私……が狙われてる?」


 カイは理手の掌を握りながら、静かに頷いた。


「“声”は君を見とる。

 けどな。こっちは……ロケットパンチで返すで」


「やめてください! それで全部片付けないで!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ