『信用の代償』
突然の脱力感に襲われ、担任への連絡が遅くなってしまい、歩きながらメールを打っていた。本来であれば、小学校を出る前には予定を連絡しなければいけなかったのだが、多少の誤差は諦めるしかない。できれば、信頼の形もあるからその辺はしっかりしておきたかった。
ところが、
「ん、お前は?」
今日という日は、それを許してはくれない日なのだろう。高校を出る前に現れた黒い筒を持った変人が曲がり角から現れた。
「っ!?」
俺は瞬間的に警戒を露わにした。だが、目の前の変人は気にした様子もないように俺の横を通り過ぎようとする。一瞬、俺に興味を失ってくれたのだと思ったが、その変人が向かう方向が問題だった。
「ちょっとまて、どこに行く?」
変人が立ち止まると、振り向きざまに言い放つ。
「死の匂いの根源を探しに行く」
また何を言っているのか意味不明な回答だった。
「言っている意味が分からない」
変人は少し考える素振りを交え、
「君には関係のないはずだが」
素っ気なく言った。
「関係ない? 不吉なことだけを告げて、いきなり殴られそうになった挙句に追い掛け回されたんだけどな」
まだ怒りは隠しておかなければいけない。間違ってはいけない。間違えれば、変人が関わらしたくない弟の方へと向かってしまう。
「それはすまなかった。知人に言われたとおり、私は勧誘の方法を知らなかった。だが、君には何も話していないから、もう関わらないことを誓おう」
そう言うと行かせてはいけない方へと向き直る。
「まてっ!」
「なんだ?」
俺が隠そうとしている場所を変人に気付かれてはいけない。
「いきなり殴られそうになったんだ。それだけですまされると思ってんのかよ」
怒りのフリで隠すならここしかなかった。
なかったのだが、微笑がそれを見破る。
「そんなに私を向こうへ行かせたくないか?」
――フリがフリじゃなくなった。
「関わるな」
奥底から出たドス暗い負を含んだ言葉。
「これは脅しというやつか……初めてされたな」
長い髪を肩から払う。まるで、初めての経験に喜びさえ感じる仕草だった。
「まだ、何があるか知らないのだが……、まぁ、しかし、これもまた勧誘の一つのはずだ」
変人は考え込むように口元に手をやる。そして何かを思いついたように提案をしてきた。
「向こうへ行かない代わりに、勧誘される気はないか?」
この日、俺は信用を一つ失った。




