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死神のワルツ  作者: 無限
6/11

『授業参観』

教室の前まで行くと数名の夫母が入室しているのが見えた。俺はぎりぎりまで近づいてから中の確認をする。確かに、一日限定の授業参観ではないからか、以前よりも人数は少ない。


俺は不安を抱きながら静かに教室の扉を開けた。


当然、小さな物音と普段とは違う教室内の雰囲気に反応は早かった。一番後ろの生徒の一人が学生服を着た普通の親とは違う存在に小さな声を出す。それは連鎖的に生徒の過半数が後ろを振り向くのに十分なリアクション。


しだいにその反応は反応しなかった少数にまで伝わる。ついには、直接的に最後の最後まで反応しなかった聖也の肩に触れた。


聖也と目が合う。


俺はそれに手を上げ応えた。


聖也の反応は、嫌な予感が当たってしまったことを現していた。


最初は驚いたような表情を見せ、次には額に手をやり呆れ顔、そして授業参観の情報が漏れた原因を睨む。原因は顔事背けて誤魔化したつもりだろうが、それは肯定しか意味を現さない。


「みみみみ、みんなじゅじゅじゅ授業中ですよっ、シズカニネ」


教室内のざわつきにナツ先生が注意をした。よくよく考えてみれば、どっちにしろ俺が教室に入室した時点で、来たことがバレるのは必然的だった。


すでに顔見しりになっているクラスの親御さんに笑われたり、微笑まれたりともう慣れてしまっている光景に苦笑いしかできない俺だった。


それからはナツ先生の小さな失敗続きで授業は進んでいった。


相変わらずと言うべきか、聖也は後ろを振り向くことなく、淡々と授業を受けている。中には親が来ていることに張り切り、積極的に手を上げ解答したり、緊張して失敗している生徒もいた。


それも含め、微笑ましい光景に俺を含めた親御さんがいい思い出を作っていた。


――のだが。


ここで迷惑なイベントが発生した。


「今日は皆のお父さんお母さんが来てくれています。みんなの先輩になるお父さんお母さんにも一緒に勉強してもらいましょう」


平和的に終わると思っていた親御さん(俺たち)に妙な緊張が走ると同時に、子供たちのテンションが急激に上昇した。


普段勉強しろと言う親に対しての圧力か、それとも正解を導き出し、尊敬の念を抱きたいのかは分からない。が、親御さん(こちら)側からすれば間違いは許されない状況。それが緊張感の正体だ。


ナツ先生が問題を黒板に書きだす。


それを嬉々として生徒たちが待っている間、誰かのゴクリと喉を鳴らした。それが余計に緊張を煽る。


そこからは協力戦だ。


赤の他人と呼べる俺たちは普段持ちえない能力を発揮し、アイコンタクトが発動する。


「(私あまり漢字は得意ではないんですが……)」「(大丈夫です、所詮は小学生の問題です)」「(そうですよ)」「(それに、ナツ先生もわざわざ私達が解けないような問題を出すはずがありません)」「(そうですよね、わざわざ問題を難しくする必要なないですもんね)」「(それにこの中に現役の学生もいますし)」「(……まぁ)」「(遠慮しないで、ぱぱっと答えちゃっていいからね)」「(がんばれよ、少年)」「(……はぁ)」「(ここは親として見栄を張りましょう)」「(ですね。子供たちに普段説教できる立場としては外せないですもんね!)」「(なにはともあれ、問題が何か待ちましょう)」「(おうよ)」


教壇に立っているナツ先生の背中で問題は見えない。その途中、誰かが気付いた。


「(ちょ、ちょっと待ってください、ナツ先生の持っているの教科書じゃないですよ!)」「(えっ)」「(あれは……)」「(漢字検定の問題集だっ!)」「(漢字検定ってなんだ……?)」


親御さんに戦慄が走る。


「(……漢検の問題)」「(で、でも読みですよね)」「(まぁ、わざわざ黒板まで我々を歩かせないでしょう)」「(読みならまだ……)」「(何級かによりますね)」「(た、確かに)」「(誰か確認できますか?)」「(待ってください)」「(ご、五級ですっ!)」「(それってどれくらいの問題ですか)」


一斉に俺に視線が集まる。


「(確か、小学校卒業レベルだったと思いますけど)」「(そ、そうかなら)」「(焦りました)」


と、ここで問題を書き終えたナツ先生がこちらに振り向いた。まだ問題は隠されている。


「では、この問題をどなたか一名の方にお願いしたいと思います」


公開処刑。そう思ったのは何人いただろうか。どうせなら、『ではこの問題の答えをお願いします』とかならば分かる人が率先して答えればよかった。なのに、限定的な人数を言われてしまえば、その人しか答える事しかできない。そしてその答えが分からない人に当たってしまえば……恥の一択。それに気づいてしまえば、発揮された能力は霧散し、チームワークは一瞬で崩壊した。


アイコンタクトはどこへやら、皆が一瞬でどこを見ているのか分からない方向へ視線を逃がす。


予想外の事態にナツ先生は、おろおろと誰にしていいか迷い始めた。どうやら、このイベントも人数制限にも悪意はなかったようだ。むしろナツ先生の方が後悔しているとさえ思える。


仕方なく、空気が悪くなる前に俺が一つナツ先生に呼びかける。


「あ、ナツ先生問題が見えないので、ずれてもらってもいいですか?」


「え、あ、はいっ、すすすすいません、気付かなくって」


ナツ先生には悪いけど、ミスを犯している事にしてもらい回答者を増やす。つまり、問題さえみれば答えの分かる人が出てくる。それは全員でなくてもいい。数人が分かればその人たちが視線をナツ先生に預ける。そして、その中からナツ先生が指名すれば万事解決する。


「あははは、ナツ先生のドジー」


一人の生徒の冗談で場が元の雰囲気に戻った。


そこで問題が開示された。



『対義語を答えよ。

洋服→       』



アイコンタクトがなくとも通じ合った。


「「「「「「「「「「(なぜっ!?)」」」」」」」」」」


なぜ、そんな面倒な問題を出したのか。この場合、普通の感じの読みの問題を出せばよかった。分かるが『本当に答えが合っているのか』小さな不安が残る中途半端な問題。


親御さん(俺たち)の動揺にナツ先生までもが動揺する。


困ったことに、予想していた視線が戻らない。


ふいに聖也と目があった。


兄弟のアイコンタクトが始まる。


「(答えたら?)」


「(俺が答えた方が良い?)」


「(仕方ないでしょ)」


「(だよな)」


俺は誰にも聞こえないようなため息を吐いて、手を上げようとした時だった。


「お父さん頑張れ―」


今日一日張り切っていた子供から、応援(悪魔の囁き)が一人のお父さん目がけて送られた(放たれた)。


「で、では、元気君のお父さんお願いしてもよろしいですか?」


このご時世には中々古めの子供の名前とは裏腹に、お父さんから元気はすでにない。


俺はすでに気づいている。このお父さんだ、漢字検定の存在すら知らなかったのは。


見た目で判断してはいけないけど、少なからずお父さんはスーツ、お母さんは化粧をしている中で、唯一普段着のジャージ姿で来ている。勉強ができるか否かで言えば否、できない分類だ。


その証拠にすでに燃え尽きたように真っ白な灰になりどこか遠い異国を眺めている。


それでも、考えれば解けない問題ではない。おそらく大半はこの答えを導き出している。だから、大半がその答えの頭文字を応援として元気君のお父さん目がけて投げかけていた。


「――ま」


ところが、良そうだにしない頭文字呟かれた。


「っぱ……」


ガシャンっ!


と誰かの筆箱が落下した。


その瞬間、元気君のお父さんの回答が止まる。


落としたのは、聖也だった。驚いた拍子に落としたわけじゃない。元気君のお父さんの誤答を回避するために、視線を集めたのだ。


それに元気君のお父さんも正気に戻った。


その内に俺は元気君のお父さんに、一人の親御さんを指さした。その人はおめかしと着物を着ていたのだ。


元気君のお父さんに光が戻った。


そして、俺に小さく親指を立てた。


俺は安息の息を吐く。


「あ、改めてどうぞ」


丁度時刻は授業の終わりを指し、チャイムが鳴る直前に答えられた。


「おうよ。答えは『着物』だ!」


キーンコーン、カーンコーン。


大喜利だったら爆笑だっただろう。


その後、どうなったかは話したくない。


俺は聖也と話をすることもなく、高校に戻ってちゃんと勉強をしようと心から思い小学校を後にした。


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