『霜山奈津』
「はぁ」
聖也が男の子でよかったと思い変な疲れから息を吐いたところを、職員室にいた教員に見られ笑われた。
俺は居た堪れない気持ちになり、聖也の担任であるナツ先生こと霜山奈津先生を見つけるとそそくさとナツ先生の机まで移動した。ナツ先生は小さ目な先生だけど、短い髪を小さく二つに結んでいるのが特徴で、身長分見つけ辛いが分かりやすい髪形なので助かっている。
「すいません、甲斐です」
「はひぃっ」
声を掛けた瞬間、小さな肩が跳ね上がった。
間違いなく職員室前の廊下の騒ぎを目にしているはずなのに、俺が入室した瞬間から顔を隠し、声を掛けるまでそっぽを向いていたあたり、どれだけ苦手なんだろうと思ってしまう。それでも、無視するわけでも冷たくされるよりはマシだ。
「い、いいらっしゃいませっ」
あまりの緊張ぶりに、近くにいた先生が「お店じゃないんだから」と優しいツッコミというかフォローというか、俺の気まずさを緩和してくれるように、声を掛けてくれた。
「そ、そそうですね。し、失礼しました。それで今日は、あの、えとえと」
先生が言おうとしている事、聖也が隠そうとした学校行事。
「あ、はい。『授業参観』をやると急遽聞いたので、事前連絡もせずに申し訳ないんですが、参加させていただけると」
親がいない俺たちには負担にしかならない行事をあいつは隠そうとした。確かに、負担ではある、ただ、その負担はあまりにも小さい。
なくなるものは俺の授業の単位、たったそれだけ。
逆に得る物は大きい。あいつの学校での日常、これまでの成長、それを俺は自らの目で見ることができる。
だから、家族で起こる小さな負担は隠す必要はない。
「そう、そうです今週は授業参観日ですた!」
「ん、今週?」
もちろん、ナツ先生が噛んだ部分は流したつもりだ。だが、気になる単語が出てきている。授業参観が一週間もある?
「は、はい! 授業参観は親御さんの都合も考え今週であればいつでもどの授業でもご覧になれるように改善されましたよって今週であれば短時間でも全授業でもご覧いただけるようになっておられますっ!」
「え、」
「はいっ先週生徒さん方に渡したプリントがありましてその内容が掛かれていますっもちろん聖也君の家庭環境を考え、いいいいいいいい一輝くんさんから事前連絡が来るようにもお待ちしておりましたが連絡が来ないようなので、いいいいいい一輝くんさんも学生さんですし、もしかしたら来れない可能性も考え、なにより私から連絡がいくのは迷惑かと思いつつ、連絡するのは控えさせていただいた所存であるからにして、急な連絡をリオちゃんから伝えられたときは驚きを隠せなかったといいますか心の準備ができなかったといいますか、はぁはぁ、そういう結果になりました!」
「ナツ先生、少し落ち着いて。それだけ早口じゃ何を言っているのか分かりませんよ。聖也君からプリントもらっていませんか?」
さっき、フォローをしてくれた年配の男性教諭がナツ先生と代わってくれた。
「……え、あ、はい。たぶん……、気を遣って見せなかったんだと思います」
「そうですか…………。それでは、どうでしょう。何か特別なイベントがある時は、ナツ先生から直接連絡するように決めてみては?」
この提案はありがたいのだが、最初の頃にこの話し合いは済んでいる。だが、ナツ先生からは一度もその連絡は入ったことがない。
おそらく、嫌がらせとか忘れていたということが原因なのではない。原因は、携帯越しでも俺にメールすることは極度の緊張へと繋がってしまうのだろう。だからこその、密告者がいるのだ。
「はい、がんばります」
年配の教諭は予想外の人物から返事が来たことに俺の顔を見ると、早々に理解すると、苦笑いで俺に聞こえるくらいの声で「ごめんね」と謝罪をしてきた。
俺もナツ先生には聞こえないように返事を返し、次の授業が『国語』ということだけ聞いて手続き完了と職員室を後にした。
しかし、なんとなく心にしこりが残る。
「一週間もあれば、都合あわせられたんじゃ……」
よくよく考えてみれば、小学校と高校では昼の休み時間が一時間のずれがある。要するに失うもののない負担で済んだ。
「やっちまった……かな」
これまたなんとなく嫌な予感を抱きながら、聖也の教室へ赴くのだった。




