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第一のオークション



【TREASURE RADAR 公式アナウンス】


第2回・遺物調査情報の公開について


第1回の無料公開地点において、貴重な歴史的遺物が発見されたことを確認いたしました。

現在、専門機関による調査が順調に進められております。


次回は、さらに歴史的価値の高い資料が存在する『第2の地点』について、調査情報の提供を予定しております。


情報公開予定:72時間後

※本情報の提供方法および参加条件については、追って発表いたします。


当初、ルナは単純に最高額を提示した者に情報を競売(オークション)で売るつもりだった。


しかし、現代社会のシステムは複雑だ。土地の所有権、各国の文化財保護法、そして不法な盗掘の防止など、法的なクリアすべき課題は多い。


法を犯して追われる身になるのは、利巧な海賊のすることではない。


だからこそ、一流の弁護士や専門家の知恵を巧みに利用し、現代の法律の枠組みの中で最も自分に利益が転がり込む「公式ライセンス制オークション」の構築を進めていた。


「……ふふ、現代というのも、なかなか頭を使う甲斐があって面白い時代ね」


###


月曜日の朝。

私立高校の教室は、週末のニュースの話題で蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


「なあ、マジで見た!? あの山奥で本物の国宝が出てきた動画!」


「見た見た! 配信者が叫んでたやつでしょ? 『トレジャー・レーダー』だっけ?」


「私、昨日速攻でアプリダウンロードしたよ! うちの庭も探してみようかな!」


教室のあちこちでスマートフォンが掲げられ、ニュース映像やまとめ動画が再生されている。

画面に映し出されているのは、泥の中から引き揚げられた重厚な金属の箱と、興奮で警察や研究者に囲まれる現場の様子だ。


「でもさ、あれって本当に本物なの? 運営が最初から埋めておいたヤラセじゃない?」


「バカ言え! 大学のすごい教授が『間違いなく数百年前の未発見の文化財だ』って会見で泣きそうになってただろ!」


「じゃあ何だよ、あのアプリ……作ってる奴、予知能力者か何かかよ!?」


期待と疑念、そして圧倒的な好奇心が入り混じった熱気が、教室中に充満している。


海野(うみの)ルナは、自分の席に座りながら、その会話を静かに聞き流していた。


(……ふふ。疑うならいくらでも疑えばいいわ。疑う余地があるうちが、一番面白いんだから)


彼女は鞄からすんなりと教科書を取り出した。


表情はどこまでも優等生らしく、姿勢も崩さない。前世で数々の港町を渡り歩き、謀略渦巻く貴族や商人を相手に

してきた彼女にとって、「世間知らずな女子高生」を演じることなど朝飯前だった。


「ルナちゃん、おはよう!」


隣の席の女子生徒が、目を輝かせて椅子を寄せてきた。


「おはよう」


「ねえねえ、週末のニュース見た!? あのアプリ、ヤバくない!? ルナちゃんもやってみようよ!」


ルナは、少し困ったように首をかしげてみせた。


「うーん、面白そうだけど……本当にそんな宝物が簡単に見つかるのかな?」


「そこなんだよね! でもさ、もし自分の家の近くで本物の宝物が見つかったら、超ロマンなくない!?」


「そうね。歴史の教科書が、一瞬で変わっちゃうかもしれないわね」


「でしょー! 私、将来は考古学者になろうかな!」


無邪気に笑う少女に、ルナもふわりと微笑みを返した。


(……考古学者、ね。悪くないわ。いつか私が隠した『お宝』を、その手で掘り出してみせなさい)


机の下で、スマートフォンが静かに振動した。

画面には、アプリ運営用の暗号化アドレスへ届いた通知が山のように表示されている。


『海外法律事務所:次回オークションの権利契約書案について』

『欧州歴史財団:事前調査への技術提携および巨額資金提供の申し出』

『国際セキュリティ企業:サーバー攻撃対策の極秘パートナーシップ打診』


ダウンロード数は爆発し、世界中の富豪や研究機関からアクセスが殺到している。


(……ふん。群がり方が露骨ね。だけど、全部一人で捌くほど私は野蛮な海賊じゃないわ。有能な『船員(専門家)』を雇って、現代のルールで働かせてあげる)


ルナはスマホを伏せ、黒板を見上げた。


「……さて。まずはこの退屈な数学の授業を乗り切らないとね」

現代を揺らす大海賊にとっても、高校の定期試験だけは逃げられない『難敵』なのだった。


放課後。

自室に戻ったルナは、制服のネクタイを緩めると、ノートパソコンの前に向かい合った。


画面に表示されているのは、アプリの特設管理画面。


世界中からのアクセスを示すインジケーターが、真っ赤に点滅している。


「さあ……お楽しみの『お試し期間』は終わりよ」


ルナの指先が、キーボードの上で滑らかに踊る。


彼女が用意した『第2回・プロジェクト』の参加規約は、現代の法律とビジネスを極限まで計算し尽くした、完璧な知略の仕掛けだった。


【TREASURE RADAR PROJECT - PHASE 2】


第2回・歴史資料調査優先ライセンス・オークション


提供するもの:

・第2の未発見遺物(古代王族の金工品・印章)のピンポイント座標データ

・当時の地殻変動を補正した精密解析地図


注意事項:

・競売にかけるのは『優先調査権』であり、土地の所有権や発掘許可ではない。

・現地の発掘手続き、関係法令の遵守は、落札者が責任を持って行うこと。

・発見された文化財の商業利用権の5%を、アプリ運営(ルナ)へ還元すること。


ルナは不敵に唇を吊り上げた。


「ただの宝の地図だと思ったら大間違い。場所を知っていることと、それを掘り出せるかどうかは別の話。……現代の面倒な手続きや法交渉は、全部あんたたちでやりなさい」


彼女が売る情報は、ただの「データ」だ。


現地で何が起ころうと、彼女自身が捕まることもなければ、リスクを負うこともない。リスクはすべて落札者に背負わせ、自分は高みの見物で巨額の金と権利だけを掠め取る。


「法を力で破る時代は終わったの。現代では、法を使いこなして高笑いする者こそが『勝者』なのよ」


ルナは躊躇なく、オークションのスタートボタンをタップした。





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