世界の広さと、ニッポンのキジツ
「期日!期日って、うるさ過ぎるのよ……!」
私はパソコンの画面に向かって、声に出して毒づいた。
メールボックスを開けば、「【重要】○日までのご回答をお願いします」「【至急】期日のご確認」といった文字が、おどろおどろしい赤文字で並んでいる。
カレンダーを見れば、締め切りの文字が、毎日私を包囲するように待ち構えている。
これではまるで、日々に追われているのではなく、期日に命を狙われているようなものだ。
「海外だったらさぁ……」
私は椅子の背もたれに深く体重を預け、天井を見上げた。
聞いたことがある。海外の国々では、約束の日なんてあくまでも「目安」や「予定」に過ぎないのだと。
荷物の配達が数日遅れるのも、仕事の納期がズレるのも、「まぁ、そんなこともあるよね」と笑って済まされる文化があると。
なのに、どうしてこの日本という国は、一分一秒の遅れすら許さないのだろう。
「予定は未定にして、決定にあらず!」
まさにその通りだ。未来のことなんて、誰にも分かりはしない。
途中で体調を崩すかもしれないし、やる気が家出してしまうかもしれない。それなのに、「絶対この日までに!」と縛り付けるのは、人間の本能に反している。
そんな壮大な現実逃避の言い訳を、脳内で熱弁しているうちに、目の前のタスクは一ミリも進まないまま、私のライフは綺麗にゼロになった。
「あー、もう無理!」
私はパソコンをパタンと閉じ、お気に入りのハーブティーを淹れることにした。
湯気と一緒に広がるカモミールの香りを、深く胸に吸い込む。
「まぁ、私は私のアパルトマンの時間軸で生きよう」
温かいお茶を一口飲むと、焦っていた心が、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
そうは言っても、明日の朝には結局、「大変申し訳ございません!」と平謝りしながら、必死でキーボードを叩く自分が目に見えている。
それでも、今この瞬間だけは、期日のない優しい世界に浸らせてほしかった。




