画面が動かない絶望と、一ギガの誘惑
「うーん……、遅い。重い」
スマホの画面を見つめたまま、私は何度目か分からないため息をついた。
動画を見ようとしても、画面の中央で丸い矢印がぐるぐると回り続けるだけ。SNSの画像は上半分しか表示されず、まるでモザイクがかかっているかのようだ。
何が原因かは、調べるまでもない。
画面の上部をスワイプすると、携帯会社からの非情な通知が、しっかりと届いていた。
『データ容量が残り少なくなっています』
また、通信制限がやってきたのだ。
今月の私は、ちょっと動画を見すぎたかもしれない。ベッドの中で夜更かししながら、おすすめのショート動画を次から次へとスワイプしていたツケが、月末になって一気に回ってきたのだ。
「もう一ギガ、追加しちゃうかぁ……」
指先が、データチャージの購入画面へと吸い寄せられる。
千円ちょっと払えば、このイライラからは一瞬で解放される。サクサク動く、快適なネットの世界が戻ってくる。
「……それとも、我慢するかぁ」
私は画面に触れる直前で、指をピタリと止めた。
千円があれば、ちょっといいランチが食べられる。さっきの喫茶店で、美味しいケーキセットを頼むことだってできるのだ。
たった一ギガのために、その千円を差し出すのは、どこか負けたような気がして悔しい。
我慢か、課金か。
画面の前で激しい葛藤を繰り広げているうちに、私のライフは綺麗にゼロになった。
「あー、もう考えるのやめた!」
私はスマホをベッドに放り投げ、あえてデジタルから距離を置くことにした。
ずっと読まないまま机に積まれていた、小説の単行本を開く。
ページをめくるパサリという音が、静かな部屋に心地よく響いた。
ネットに繋がっていない世界は、驚くほど静かで、そして穏やかだった。




