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沈黙のディナーと、大人の一人酒

やってしまった。

居酒屋を出てすぐの、街灯の下。私は冷たい夜風に吹かれながら、ただ立ち尽くしていた。

さっきまで隣を歩いていた友人は、怒りで早足になり、あっという間に人混みの向こうへと消えていった。

原因は、本当に些細なことだった。次にどのお店に入るかで意見が食い違い、お互いに一歩も引かなかったのだ。

気まずい空気のまま、とりあえず目に入ったお店に入ってはみたものの、お互いに無言。メニューを開く手すら、どこかトゲトゲしている。

「……やっぱり、出る?」

私が気まずさに耐えかねて呟くと、友人は無言で立ち上がり、伝票も持たずに店を出ていってしまった。

私も慌ててその後を追ったけれど、結局、まともな会話もできないまま解散になってしまった。

「もうちょっと、大人になろうよ……」

去っていった友人の背中に向かって、私は心の中で小さく毒づいた。

せっかくの金曜日の夜なのに、どうしてあんなに意地を張るのだろう。もっと冷静に、お互い譲り合えばよかったじゃないか。

そんな風に、相手の子供っぽさに呆れそうになった、その瞬間。

グゥ、と私のお腹が情けない音を立てた。

その音を聞いた途端、頭に上っていた血が、スーッと引いていくのを感じた。

「……あ」

思い返せば、私もさっきから、かなりトゲのある言い方をしていた気がする。言葉の端々に、イライラを隠そうともしていなかった。

それはなぜか。答えは簡単、ただ猛烈にお腹が空いていたからだ。

空腹は、人間から理性を奪い去る。お腹が空くと不機嫌になるのは、子供も大人も、そして私も全く同じだった。

「人のこと、全然言えないじゃん……」

自分だって、お腹が空いたらすぐに態度に出るくせに。相手にだけ「大人になろうよ」なんて、どの口が言っているのだろう。

急に恥ずかしさが込み上げてきて、私のライフは綺麗にゼロになった。

けれど、このまま重い気分のまま、家に帰るなんて絶対に嫌だ。お腹だって、まだペコペコのままだ。

私は小さく首を振ると、駅前の一角にある、赤提灯が灯る小さな居酒屋へと足を踏み入れた。

「いらっしゃい、お一人さん?」

威勢のいい店主の声に頷き、カウンターの端の席に滑り込む。

まずは、冷えた生ビールを一杯。それから、タレの焼鳥を数本と、冷奴を注文した。

すぐに運ばれてきたビールを、ぐっと喉に流し込む。キンと冷えた苦味が、さっきまでの自己嫌悪と気まずさを、綺麗に洗い流していくようだ。

続いて、運ばれてきた焼鳥を一口かじる。甘辛いタレと香ばしいお肉の旨味が、空っぽの胃袋にじわじわと染み渡っていく。

美味しいものを食べて、お腹が満たされていくにつれて、冷え切っていた心がだんだんと温かくなっていく。

「やっぱり、一人が気楽でいいや(笑)」

グラスに残ったビールを見つめながら、私は心の中でそっと呟いた。

誰かといる時間は楽しいけれど、たまにはこうして、自分の機嫌だけを取ればいい夜があってもいい。

明日にでも、「さっきはごめんね、お腹空いててさ」って、軽いメッセージでも送ってみよう。

お腹がいっぱいになった私は、さっきよりも少しだけ、大人になれたような気がした。

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