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サイレント・レスキューと、小さな感謝
「……あ」
デスクに戻って、パソコンのキーボードを叩き始めた瞬間、私の指先がピタリと止まった。
血の気が、一気に引いていくのが分かる。
さっき、職場のトイレに入ったとき。考えごとをしていて、完全に、流し忘れた。
「どうしよう……!」
心臓が嫌な音を立てて跳ね上がる。もし誰かに見られたら、私の社会的な信用は一瞬で崩壊する。
私は慌てて席を立ち、平静を装いながら、早足でさっきのトイレへと引き返した。
恐る恐る、個室のドアを開ける。
そこにあったのは、何事もなかったかのように綺麗に澄んだ、いつもの水面だった。
「……よかった」
胸をなでおろした直後、さらに激しい羞恥心が込み上げてきた。
私の前に、誰かがここに入ったのだ。
そして、私の信じられないやらかしを黙って目撃し、無言でレバーを引いてくれたのだ。
名もなき救世主への、申し訳なさと、ありがたさ。
「本当に、ごめんなさい。そして、ありがとう……」
私は心の中で、姿の見えない誰かに深く頭を下げた。
私のライフは、恥ずかしさと感謝で、温かいゼロになった。




