表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
52/53

49.知は罪

49


「――禁忌魔術、草の大魔女の権能である()()。」 


 ヘイルが真剣な眼差しを本に落としたまま、そう呟いた。

 先程彼が悪趣味だと言った()()()の名前が、軽々しく口に出される。

 それほどまでに、今のこの状況は逼迫している、ということだろう。


「生命の循環を越え、失われた命を再びこの世に引き戻す。」


「てことは、やっぱりあの害魔獣は死んでいたってこと?」


「仮にこの魔術式で書かれていることが再現されているのならね。

 ただ、現代のエーテルで、この魔術が実現できるとは思わない。」


 さらに頁を捲る。

 褪せた文字が、頁全てにびっしりと書き連ねられている。

 だが、ところどころが黒く塗りつぶされており、ヘイルは眉を顰めた。


「やっぱりか。」


「やっぱり……ってどういうことですか?」


「大魔女に関する知識は、基本的に外に持ち出すことは禁止されている。

 ……元々、僕が第十九師団に所属する前、この地下図書館はそもそも固く閉ざされた扉に過ぎなかった。」


「僕の魔術研究には静かな環境に、魔術式が豊富な本が必要だった。

 だから、()()()()を飲み込んで、この図書館にいつでも出入りできるようにしてもらった。」


「……ある条件ってなんすか?」


 ヘイルがぱちぱちと瞬きする。

 まさか、そこを突っ込まれるとは思わなかったのだろう。


「その条件は……今は置いておこう。

 話が逸れるからね。」


「あ、上手いこと誤魔化しましたね。」


 フォンスは、なんとなくこの人の揶揄い方を覚えてきたかもしれない、と思った。


「ここの図書館には、大陸中から”大魔法都市エーテル”と言われる所以がたくさんある。」


「魔術式についての本なら、おそらく大陸で一番と言っても過言ではないだろう。

 ……だが、この図書館にはある欠陥があったんだ。」


「欠陥……すか?」


「ああ、大きな欠陥だ。

 それは今僕たちが深層書庫に居る理由だ。」


「禁忌魔術の本のこと、ですか?」


 カフカが首を傾げる。

 3人の目の前には、街の小さな書店くらいの規模の面積に、ずらりと本が並んでいる。


「大正解。

 ここには、大魔女を取り扱ったいわゆる”禁書”が仕舞われている。

 ……特に、禁忌魔術は二百年前に魔女革命を起こさせた最大の原因だからね。」


 カフカは、目の前の本棚を見上げた。

ここにある全てが、外に出してはいけない知識なのだと思うと、指先が少し冷えた。


「あー、なんか学校で聞いたかもしれないっす。」


「最近設立された魔術学校では、大魔女についての歴史はカリキュラムに含まないでほしいと指示があるからね。

 君は古めの学校に通っていたのかい?」


「そうっすね、リーヴァロットの士官学校に在籍していたので……。」


「ああ、あそこなら大魔女の歴史に触れそうだね。

 学長が恐ろしく頑固だから、運営の方も手を焼いているようだし。」


「でも、詳しくは知らないっすよ?

 禁忌魔術の話とか今日初めて聞きましたし。」


「そりゃあそうだ、もし禁忌魔術を再現しようとする愚か者がいたらどうする?」


「……あ。」


「だから、僕たちは大魔女の名前を外で出すこともタブーにしている。

 理由がわかっただろう?」


「……そうだったんですね。」


 カフカが、ようやく意味を理解したように小さく頷いた。


「今回だってそうだ。

 もし仮にこの禁忌魔術の式を再現した者がいるとする。

 そうなれば、現代の魔術結界なんて何の意味も成さない。

 大魔女が全員死んでいたとしても、残した禁忌魔術が強力過ぎたんだ。」


 ヘイルが小さく息をついた。

 細い指が、黒塗りの部分をゆっくりとなぞっていく。


「その証拠に、おそらく過去の騎士団関係者がここの重要な部分を黒塗りしたみたいだね。

 エーテル国に保全されたこの禁忌の魔術式が、外部に漏れることを恐れたのだろう。

 ……それほどまでに、大魔女一人一人が及ぼした影響は凄まじかったということだ。」


  フォンスは、思わず本棚を見回した。

 足元に散らばった紙も、棚に押し込まれた分厚い本も、さっきまではただの乱雑な資料にしか見えなかった。

 けれど今は、その一冊一冊が触れてはいけない刃物のように思える。


「そういえば、さっきは草とか炎の大魔女って言ってましたけど、全部の魔術系統に大魔女がいたんすか?」


「珍しくいい質問だね。

 ああ、そうさ。

 ヘスティアー……炎の大魔女を中心に、6人の大魔女が存在した。」


「……珍しいは余計っすよ!

 てことは、それぞれが禁忌魔術を使えたってことなんすか?」


「そうだね。

 僕も禁忌魔術の中身についてはほとんど知らない。

 まさか、草の大魔女の権能について調べることになるなんて思いもしなかった。

 ……いや、こんな事態になるなんて思いたくなかったね。」


 深層書庫には、この世界を滅ぼし得るほどの魔術式が眠っている。

 フォンスは、幼い頃の階段もあながち間違っていなかったのかもしれない、と思った。

 地下の話は、ベルンハルトの父親であり――ほんの少しの間、父親代わりになってくれた人が教えてくれたはずだ。

 ジョン・エチルエーテル。

 恐らく、地下の図書館には近づいてはいけないと、暗に教えてくれていたのだろう。


「黒塗りは、多分この魔術式の部分だね。

 ……もしかしたら、魔女革命の後に研究していた愚か者がいるのかもしれない。」


「……他は、何が書いてあるんですか。」

 

 カフカが恐る恐るヘイルに尋ねる。


「えっと、魔獣の肉体を繋ぎ合わせ、失われた機能を一時的に再起動させる魔術式……。」


「再起動?」


「生き返らせる、とはやはり少し違うみたいだ。

 これは、死んだ肉塊を動く形へと無理やりエーテルで組み直しているのだろう。」


 書庫がしんと静まり返る。

 あまりにも悍ましい事実に、フォンスもカフカも踏み場のない床に視線を落とすことしかできなかった。


「はは、生命の冒涜にも程がある。」


 ヘイルが、乾いた笑いを漏らした。

 その目は、一切笑っていない。

 黙示文字で書かれた事実を受け入れようと、じっと本を見つめているだけだった。


「やっぱり、オレやベルンハルト、エレーシャさんが遭遇した害魔獣って……()()()()()()()()ってことっすね。」


「君たちが寮で証言していた腐乱臭の出所はこれだろうね。

 そもそもあれは生き物じゃなかった……。

 エーテルを介して造られた、化け物だ。」


「じゃ、じゃあこの先もこの化け物が現れるようになったら……。」


「……エーテル国どころか、大陸中の都市や村は壊滅状態に陥るだろうね。」


「そんな……。」


「加えて、エーテルが回路に流れなくなるんだろう?」


「そうっすね……。」


 ヘイルは、少しだけ黙った。

 言葉を選んでいるというより、言いたくない結論を飲み込んでいるようだった。


「もしかしたら、魔女革命の時の方がまだマシかもしれない。」

 

 「大魔女は恐ろしいが、少なくとも意思を持つ存在だった。

 交渉の余地があったかは別として、行動には目的があった。

 今回は恐ろしい出力を持った死体が無差別に暴れる可能性がある……。」


 パタン。

 ヘイルが、持っていた本を勢いよく閉じた。

 この空間では、そのような些細な音も大きく響いて聞こえた。


「確か、今は緊急会議中だったね。

 ……この本を資料として持っていこう。」


 「乗り込んでも大丈夫なんすか?」


「今回はこちらも緊急事態だ。

 こんなことで怒られていたら、僕は特撰部隊を辞めるさ。」


 ヘイルは器用に床に散らばった本を避けながら、深層書庫の出口に向かう。

 焦っているのか、革靴はいつもよりも大きな音を立てている。


 「この情報を図書館の中で収めていては――」

 

 「この先ずっと何も解決しないまま、破滅に向かうだけだからね。」


 ヘイルの声は、いつにも増して冷ややかだった。

ここまで読んで頂き本当にありがとうございます!!

ついに次の話で記念すべき50話です!

ここまで連載を続けられたのは皆様のおかげです…!

水曜19時/日曜11時更新予定ですので、また読みにきて頂けるととっても嬉しいです!

よろしければブックマークや評価などいただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ