28.エーテル暴発
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!
エーテル城内に、未曾有の轟音が響き渡った。
庭の木々が大きく揺れ、風圧で薙ぎ倒される。
止まり木を失った鳥たちは驚き、森に向かって羽ばたいていく。
流石のアーノルドもあっけに取られ、ほんの数秒思考が固まる。
カフカは、身を乗り出して戦況を見つめていた。
ただ一つ、アーノルドに一矢報いるために。
――数十分前。
全ては、この無茶な作戦から始まった。
「……え?砂埃を爆発させる?」
あの生真面目なベルンハルトが、そんな素っ頓狂なことを言うだなんて。
カフカは目を丸くした。
しかも、至って真剣な眼差しで言ったのだ。
「ああ。
もし、カフカさんが言うことが事実なら。」
「確かに、あの砂埃はエーテルでできてる……と思うんだけどさ。
爆発させるなんて無茶だよ!?しかも、絶対に危ないし。」
カフカが不安そうに投げかける。
大事な仲間二人が、捨て身みたいな作戦をやろうとしている。
止めないわけにはいかない。
「……だから、仕込むんだ。」
ベルンハルトは、アーノルドを見据えたままかすかに口元を上げた。
――――――
パキ、と金属同士が擦れる音が鳴った。
アーノルドが思わず握っていた大剣に目をやる。
「……なんだ?」
砂埃がゆっくりと風に煽られて失せる。
空は相変わらず晴れていて、そのおかげで大剣の表面がいつもより鮮明に見えた。
目の前に立っていたのは、先程までフィールドの端まで追い詰められていたベルンハルト。
……そして、手には雷光をほんの少し帯びた剣が握られていた。
この戦いで、何度も傷つけられ、刃こぼれしている。
ゼェゼェと息をするベルンハルト。
遠くには、魔術を使い続けて疲弊するフォンスが倒れ込んでいた。
アーノルドは、大剣を握る手にビリ、と痺れが走っていることに気づいた。
チラリと大剣の表面を見る。
――そこには、確かに傷があった。
まだ未熟な二人が、全力の果てに刻みつけた、ほんの小さな傷だった。
「お前ら、まさか。
この傷をつけたっていうのか……?」
「……はは、これでも、アーノルドさんに刃は届かないんですね……。」
カラン、と剣が落ちる軽快な音が耳に飛び込んできた。
その直後、ベルンハルトが勢いよく地面に倒れ込む。
「おい、大丈夫か!?」
アーノルドが倒れ込むベルンハルトに近寄った。
国立騎士団支給の軍服には、焼け跡や破れかけた箇所が点在していた。
右手には、必死に握りしめていたであろう剣の柄の跡がついており、かなり痛ましい。
「外部回路を通してここまで無茶するなんて、御法度だぞ……。」
アーノルドが呆れたようにため息をついた。
「砂埃を利用した暴発……。
よく砂埃がエーテルで生成したものだと気づいたな。」
「カ、カフカさんが……。」
ベルンハルトが、ふらつきながらも身体を起こす。
「うわッ!?気を失ってないのか、その魔術の使い方で!?タフだな……。」
「カフカさんが、エーテルで生成されたものだと見抜いたんです……。」
「あの子、回路不全だろ?なんでそんなことがわかるんだ……?」
「あの砂埃は匂いがするとか、なんだとか……。」
アーノルドは心底驚いた。
エーテル回路不全で、魔術も使えないはずの少女に、撹乱の仕組みを見破られていた。
(正直、侮っていた……。
暴発の精度もそうだが、的確な着火に、何より匂いでわかるとはどういうことだ……?)
「ベルンハルト、大丈夫か?」
先程まで地面に突っ伏していたフォンスが、よろよろとこちらに歩いてきているのが見えた。
後ろには、観客席から降りてきたカフカもいる。
「フォンス……、俺は大丈夫だ。
お前こそ、魔術の使いすぎだろ……。」
「お前よりはマシだっての。」
フォンスが困ったように笑った。
「ベルンハルト、フォンス、そしてカフカちゃん。
今回の模擬戦は俺の負けだ。」
「……へ?負けってどういうことっすか?」
「そのまんまの意味だよ。
ほら、見てくれ。」
アーノルドが自慢げに大剣を差し出した。
綺麗に研磨された刃の表面には、数センチほどの傷がしっかりと走っていた。
「俺のこの魔術道具に傷をつけたのは三人が初めてなんだ。」
「ま、マジっすか!?」
「ああ。
紛れもなく、俺は特撰部隊に入ってから初めて誰かに負けた。
ははは、まさか入ってすぐの直属の後輩たちにつけられるなんてな!!」
アーノルドが快活に笑った。
「わ、私何もしてないですけど……。」
「いや、砂埃を見破ったのはカフカちゃんだと聞いた。
立派に支援しているじゃないか。」
「こ、これが支援……、なんですね。
ありがとうございます。」
「アーノルドさん、その傷は大丈夫なんですか?」
ベルンハルトが大剣の傷を指差す。
「ああ、いつかどこかで傷はつくと思っていたしな。
俺も久しぶりに心踊る戦いができた。
……まぁ終わりよければすべてよし、ってことだ。」
「――な〜にが、終わりよければすべてよし、なのかなぁ〜〜?」
実戦訓練場上空。
怒りに満ちた可愛い声がこだまする。
小雨が降るように、沸々と水滴が降り注いでいる。
「お。エレーシャか??どうした、お前がここに来るなんて珍しいな。
もしかして傷の出張手当か?」
アーノルドが呑気に笑った。
……その瞬間。
滝のような水が頭上から落ちてきた。
「グワァアアアア!?」
ザザザザザ、と激しい水音とともにエレーシャが地上へ降り立つ。
先程までの威厳ある立ち振る舞いからは想像もつかない、間の抜けた悲鳴だった。
「アーノルドぉ〜〜〜〜?あのさぁ、今なんでボクがここにいるかわかってるぅ?」
「え?俺たちの出張医療部じゃないのか?」
「んなわけないでしょーーーッ!?見て、上空!!!!!!!」
エレーシャが勢いよく天に指を差した。
その場にいた四人が、反射的に空を見上げる。
「綺麗な空っすね……。」
フォンスがぽつりと呟いた。
「っち、が、う!!!!!!!!」
エレーシャが、髪を振り乱しながら地団駄する。
「結界!!!!!!!結界が、破れてんだよッ!!!!!!アンタら暴れすぎなの!!」
「え、これ破れてんすか?」
「破れてんの!!エーテル感知してみなよ!?」
フォンスが訝しげな表情で空を見つめ続ける。
「あ、確かになんか欠けてますね。」
「確かにじゃないんだよッ、アンタら想定以上に暴れすぎなの!!!!!!」
エレーシャが、ぎろりとアーノルドを振り返る。
「てか、一番悪いのはアーノルドなんだけど??
何回も言ってるじゃん。
ここの結界を破らない程度に暴れろって。
後輩にもしっかり言ってなかったの!?」
「ああ、えっと……すまん。
俺がしっかり言えばよかったな……。」
「本当にそうなんだけど??ボク今日徹夜で編み直しだからね??????」
「て、徹夜ですか……。」
「そうだよ、て、つ、や!!!アンタたちの治癒もしないといけないのに、本当に野蛮な男どもは……ッ!!」
エレーシャが背負っていた杖を、素早く手に取る。
杖全体を覆う桃色のリボンが、エーテルに照らされて淡く水色に変化する。
ベールの内側に隠れた水晶が、眩い輝きを放つ。
「ま、待ってください、俺癒術苦手なんで!!!!!!もっと優しくしてほしいっす!!!」
癒術を浴びせられると察したフォンスが命乞いをする。
その様子を見て、エレーシャがギロリと睨んだ。
「文句言うなぁ!!回復してもらえるだけありがたいと思いなよ!?」
次の瞬間、フィールド全体が杖から放たれた光に包まれた。
「あーーーッ!!痛い、めちゃくちゃ痛い!!!」
……案の定、フォンスの叫び声だけが実戦訓練場に響き渡っていた。
ここまで読んで頂き本当にありがとうございます!!
ついにアーノルドとの模擬戦が決着…!!
水曜19時/日曜11時更新予定ですので、また読みにきて頂けるととっても嬉しいです!
よろしければブックマークや評価などいただけると大変励みになります!




