王都:氾濫⑤でした!
決着
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たった一発。
たった一発の閃光が眼前を駆け抜けたかと思えば、豪腕に殴られたかの様な衝撃が襲い、続いて身を焦がす熱風が吹き荒れたのだ。
赤い閃光が大地を抉り取り、大地に芽吹いていた命は熱風によって一瞬にして灰へと変し、硬い大地諸とも自分達を吹き飛ばした。
もしもあれが、自分達に直撃していれば・・・間違いなく全員唯ではすまなかったであろう。
ヂリヂリと燃え焦げる大地の奥に、それはゆっくりと姿を現した。
その巨大な身体は優に十メートルを越し、鋼のように鈍色に輝く岩の様な色をした鱗に全身を包まれている。巨体を支える四本の支柱(脚)はゴツゴツとした巨岩を彷彿とさせ、そこから生えた爪は何者をも滑らかに切り裂いてしまうだろう輝きを宿している。
瞳は縦に割れ、ギョロギョロと舐め回すかの様に自分達を見つめ、巨大な顎から外に飛び出している牙は赤黒く変色しており、ここに来る以前に何かを食べたのは間違いない・・・まぁ、歯の隙間から覗くダラリと垂れ下がった人の手を見れば、何を食べていたかなどわかる。
やがて地龍はつまらないとでも言いたげに、冒険者と騎士から眼を背けると、前方にいる地龍は自分とアタライ様・・・いや、『金色』をじっと見つめ続けた。
黄金色に輝く髪に、澄んだ緑の瞳、鎧から覗くしなやかな手足は純白に染め上げられ、今しがた放った魔法の残滓が彼女を神秘的に包み込む。
唯、彼女の頬を一滴の汗が伝ったのを僕は見逃さなかった。
自分の『龍砲(龍砲)』を受けきった張本人を前に、地龍はゆっくりと身を起こす。
「わ、私だってやれる」
のっそりと身を起こした地龍は巨大な顎を開き、大きく息を吸い込んだ。
GOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!
再び巨大な咆哮が大地を揺らし、吹き飛ばされてから体制を建て直した冒険者と騎士達は腰を抜かし、その場へとへたりこむ。
ビリビリと身体を襲う咆哮に、漸く意識が覚醒する。
「全員、武器を構えよ!! これより、地龍討伐戦へと移行する!! 先の龍砲で傷付いた者は直ちに治療院へ運べ、軽傷者の者はそれの援護、後の者は何としてでも地龍を撃滅せよ!!! 武勇の英雄ロータスの加護が有らん事を!!!!!」
龍の咆哮をものともせずに、アタライ様が騎士達に大声で叫ぶ。咆哮の呪縛に囚われていた騎士達は、勇猛果敢に龍に立ちはだかるアタライ様の姿に息を飲む。
当然、隣に立っていた僕も例外じゃない。
アタライ様の瞳に宿っていたのは、今までの様な『騎士』ではない、獰猛で餓えた獣の様な眼光を宿し、その身体からは薄く覇気が滲み出している。
そこにいたのは、紛れもなく『暴れ熊』の異名を持つアタライ様であった。
アタライ様は駆け出した。
未だに咆哮の呪縛がとれず身動きのできない騎士と冒険者を置き去りに、圧倒的な存在、龍を前にして襲い掛かった。
「全員、呪縛が解け次第陣形を建て直し、龍へと突撃! 後衛の魔法使いも畳み掛けてくれ!! 後は・・・僕とアタライ様で活路を見出だす!!!」
アタライ様に続いて、自分も龍へと突貫する。
剣についた赤黒く変色し始めたレッドオーガの血を振り払い、輝く刀身を龍へと構える。
アタライ様は龍の足元へと到達するや否や、助走の勢いそのままにブロードソードを力一杯振り抜いた。
剣から立ち昇る赤色のオーラが、スキルの発動を告げている。
渾身の一撃が龍の足へと直撃する。長年鍛え上げてきたアタライ様の筋力と剣技、単純な破壊力で言えば王国騎士長にさえ引けを取らない狂暴な一撃・・・おおよそ、足と剣が激突したとは思えない轟音が鳴り響き、衝撃によって巻き上げられた砂煙がアタライ様の周囲を包み込む。
そして
パキィンと小気味の良い音が、か細く鳴り響き、ガランガランと何かが地面に落ちる音が戦場に満ちる。
砂煙が晴れ、見えたのは・・・刀身を失ったブロードソードを振り抜いたアタライ様の姿だった。
龍の足に視線を向ければ、そこにはまるで子供が引っ掻いた様な傷が一本走っているだけ。
龍は全く痛痒を感じておらず、身動ぎ一つせず、アタライ様の渾身の一撃に耐え切ったのだ。
やがて、龍はゆっくりと足元にいるアタライ様へ向き直り・・・そして、長い尻尾が鞭のように撓り、襲い掛かった。
アタライ様も咄嗟に腕を十字に組んでガードするが、地龍の膂力に当然敵う筈もなく、数十メートル吹き飛ばされ、籠手は砕け散り、その腕はあらぬ方向へと曲がった。
アタライ様は地龍の前に成す術なく、敗北を喫した。
スキルを使用した筈の攻撃は、いとも容易く龍の鱗に阻まれる。
龍の鱗・・・龍鱗は鋼鉄でできた鎧よりも固く、それが一片一片敷き詰められた身体は、一級品の鎧さえも凌ぐ強度がある。
そして最悪な事に、この龍は地龍であり、大地の力を多く取り込んだこの龍の鱗は、鋼鉄どころか幻の金属アダマンタイトにも匹敵すると思われる。
如何に鋼鉄と言えど、スキルを使用し、渾身の一撃を放てば割れ砕けてもおかしくはないはずだ。それがたった一本の傷一つとなれば・・・アダマンタイトに匹敵しているとしてもおかしくはない。
「まさかこれ程なのか・・・」
実際に龍を見たのはこれが始めてだ。
この龍は、『龍』の中でも下位(A-)に属している。なぜならばこの龍は空を飛ぶことができず、翼が未発達であるからだ。
もしこれが空を飛ぶことができていたのなら・・・成す術もなく全滅させられていただろう。
しかし、A-と言えど普通に地龍とやりあって、有効打を加えることは現状不可能だ。
とするならば一つしか方法はない。
「全員、防衛体勢に移れ! 地龍の逆鱗を何としてでも発見しろ!
今は逆鱗を突くしか勝機はない!! 冒険者は地龍を撹乱、騎士達は冒険者の護衛を任とし、『金色』の魔力が回復する間、全力で逆鱗を見つけ出せ!!」
逆鱗・・・最強の龍にもたった一つだけ弱点がある。それが逆鱗だ。逆鱗は龍の巨大な身体にたった一枚だけ存在する小さな鱗だ。
その鱗は普通の鱗よりも頑丈であるが、それを破壊することができれば、龍はたちどころに意識を奪われ、戦闘不能に陥る。
しかし、龍の逆鱗は他の鱗より硬い・・・そこを一撃で破壊することは尋常ではない。
それでも、騎士と冒険者では普通に戦うことはできず、現状魔力切れであろう『金色』が一番の切り札だ。
その切り札である金色でさえも、龍砲を防ぎきる事はできず、龍の意識が金色に向いている以上、不意をついての一撃も不可、上級の魔法を連続しての戦闘も行えない。
ならば我々で龍の注意を引き、尚且つ、どうにかして金色に逆鱗を破壊させねばならない。
「ふん。中々にやるではないか」
「アタライ様!? 無事でしたか」
「あのくらいどうということはない」
龍の一撃をまともに受けていたのだ・・・そんな筈はない。咄嗟にポーションを飲んだのだろう。
「さすがは・・・という事か」
アタライ様は何か呟いているが、やはり自分には聞こえない。
そうしていると、騎士達は龍の周りを取り囲み、冒険者達のレンジャーは矢を射掛け、Bランクの冒険者達は龍へと躍り出た。
龍は鬱陶しげに前足で、冒険者達を凪ぎ払おうとするが、Bランクの冒険者達はそれをなんとか避ける。
その後も何度も繰り返される攻撃に対処し、龍の間合いのギリギリ一歩外にて、撹乱を続けている。
危なげではあるが、冒険者達と騎士達は十分に連携が取れ、囮役として注意を引いている。
矢が龍の目元付近へと着弾し、後ろへと一歩後退する。
それを好機と急いた騎士は一斉に龍へと積めてしまった。それにつられて冒険者も龍の間合いへと踏み込んだのだ。
「ッ!? 近付き過ぎだ!!」
ゴォという空気を引き千切る様な音が響くと、次に見えたのは何人もの人影が宙を舞っていた。
龍が勢いよく回転した次の瞬間には、その強靭な尻尾が龍の周りに群がっていた騎士と冒険者へ牙を剥いた。
長い尻尾は多くの人間を弾き飛ばし、それでいて威力が落ちることもなく振り抜いたのだ。
なんとか龍に近付くのを踏み止まった者も、弾き飛ばされた人に巻き込まれて後方へと飛ばされて行く。
それを避けた者であっても、今の攻撃により近付くことができなくなってしまった。
龍にジリジリと距離を詰められ、無言で後退っていると、アタライ様は龍の間合いへと強引に入り込む。それにすかさず、龍は尻尾を振るう・・・が、アタライ様は予想外な行動に出た。
「笑止」
その行動に、その戦場にいた誰もが目を見開き、口をぽっかりと開けた。
「秘技・・・『一本背負い』だったか?」
龍の巨体が冗談の様に空中へと舞い上がり、暫くの間・・・いや、一瞬だったのかもしれないが、呆気に取られていた自分達からすれば暫くの間だろう。龍が滞空し、やがて自重によって地面へと叩きつけられる。
それにはさすがの龍も不意を突かれたのか、叩きつけられた後暫くの間硬直し、ジタバタともがいていた。
それは当然だ。
人の何十倍もある大きさの龍が、たった一人の人間に巨体を投げ飛ばされたのだ。
「それにしても奇妙なスキルだ。受けた力をそのまま倍にして返し、投げ飛ばすとは・・・半ば賭けではあったのだがな。あの小僧には礼を言わねばならん」
スキルを行使したアタライ様が何か他人行儀な事を言った様な気がしたが、呆然としていた自分達にはその言葉は聞こえていない。
ハッと意識を引き戻し、逆鱗を探すが・・・どこにもない。
龍の逆鱗が付いている部分は・・・大体が胴体部分、脚部、尾の付け根の何れかである。
しかし、この龍にはどこにも見当たらず、全てが硬い龍鱗に覆われており、逆鱗は見つかる事なく龍は体勢を立て直してしまった。
「・・・見当たらんとはな。これはまずいな」
周りにいた冒険者達に視線を向けるが、皆首をフルフルと振り、見つける事はできなかった。
すると、龍はこちらをギロリと睨みつけ、ズシンズシンと地響きを後に引きながら此方へと歩み寄る。
こちらがそれに合わせて退いていけば、龍は立ち止まり、ガパッと口を開ける。
巨大な牙が生え揃い、自分達を捕食線とばかりに開かれた口内には一際赤々と光り輝く物が見える・・・それはやがて鳴動し、轟々と燃えさかる火炎の塊へと姿を変える。
「水よ、我らエルフの祝福を受け撮り給え、我らの平穏に、水のせせらぎが絶えずあらん事を」
金色の手元が光り輝き、魔力の奔流が彼女の元へと集い始める。
それはやがて一つの巨大な水球となり、彼女の周りをキラキラと輝く粒子が舞い踊る。
「精霊魔法:ヴォルテクスウォーター」
金色から放たれた水球は先程咄嗟に出したものよりも巨大であり、巨大な水球は真っ直ぐに地龍へと放たれる。
巨大な水球の中では竜巻の様に荒れ狂う水の奔流が見て取れ、それが刃の様な鋭利さを持ち、水刃として水球の中を暴れまわっている。
それが地龍を飲み込もうとした瞬間、地龍の口から一条の閃光が走る。
明らかに先程よりも輝きが強く、それは赤を通り越し白の域まで辿り着いている・・・そして、何より違うのは、それが球体としてではなく、一本の柱として口から放たれたのだ。
龍砲には二つの種類がある。
一つは広範囲を灼熱の業火で焼き尽くし、爆風と熱風を周囲に轟かせ、周囲一帯を焦土と変える巨大な火炎の球体を吐き出す龍砲。
二つ目は・・・一本の柱となった火柱を吐き出し、柱の線上にある全てを狭い範囲で集中的に焼き尽くす、前者の物よりも攻撃力が倍近く高まる龍砲だ。
それが金色の放った水球と衝突した。
「ツッッ!?!?」
そして・・・金色の放った水球が爆発し、龍砲が戦場を一直線に焼き尽くさんと直進する。
それは膨大な熱量を齎らし、金色・・・そして冒険者と騎士達へと襲い掛かった。
大地を抉り取り、前方にあるもの全てを灼熱の業火へと包み込もうと、全てをドロドロとしたマグマへと変えながら、炎熱の閃光はこちらへと向かってくる。
しかし、水球によって弾道をそらされた龍砲は、自分達の直上を過ぎ去り、爆風と旋風が自分達を吹き飛ばした。
咄嗟に僕は金色へと覆い被さり、一緒になって地面をゴロゴロと転がり続ける。
龍砲は空へと消えて行き、吹き飛ばされた者達は皆蹲り、熱風によって身を焼かれた者や肺を焼かれた者が苦痛に悶え、吹き飛ばされ、打ち所が悪い者はピクリとも動かない。
恐怖によって動けなくなる冒険者、絶望に悲壮な顔を浮かべる騎士、皆が皆地龍に恐れをなしていた。
そして、熱風によって身を焼かれ、所々が裂けるように痛む体に鞭を打ち立ち上がる。
金色は意識を失い、横にいたアタライ様はかなり離れたところまで吹き飛ばされ、片膝を付き、足を負傷していた。
自分も満身創痍だ。
鎧は所々破損し、鞘に収まっていた剣を引き抜こうと試みるが、曲がってしまったのかガチガチと音を出すだけで引き抜くことができない。
そして、自分を影が覆う。
太陽に雲でも掛かったのかと上を見上げてみれば、そこには巨大な身体に、見つめた者を射殺さんばかりに鋭い瞳、凶悪な爪は自分などスライムの様に引き裂いてしまうだろう・・・地龍が自分の眼前まで進んできていたのだ。
それでも地龍は自分の方を見ていない。
唯、金色の方に目をやり、巨大な口を開いた。
ガゴン
巨大な瞳が自分を捉えた事に嫌でも気がついた。
当たり前だ。騎士の誇りである剣を地龍の顎に向かって投げつけたのだから。
ボロボロになった身体では満足に投げる事も適わなかったが、最後の力を振り絞り、残った希望(金色)を死なせまいと行動に移る。
一瞬の時間稼ぎ・・・次の瞬間には肉塊に変わるであろう自分の精一杯の時間稼ぎだ。
そしてその瞬間、皮肉にも見えてしまった。
「この・・・瞬間に、それか」
地龍が前足をあげ、自分を今にも踏みつぶそうとする。
後ろを見やれば、既に戦線が崩壊した戦場・・・そして、少しばかり意識を取り戻した金色の姿。
よかったまだやれる・・・。
前足が振り下ろされる。
その瞬間、叫んだ。
「龍の逆鱗は顎の下だ!! 他の鱗に紛れるようにしてそこにある!!!!!」
龍の顔付近には鱗が多く、一枚一枚が覆い被さる様にして鱗が並んでいる。
そして、その中に・・・色が薄く、小さな鱗が一枚だけ顎の下に見えたのだ。
強靭な爪が振り下ろされ、自分に振り下ろされる。
最期に希望だけは・・・繋ぐ事ができた。
金色が叫ぶ。アタライ様が目を瞑る。全員が恐怖に包まれる。
そう。その瞬間だった。
「借りは返します」
ドゴン
と爆音が響き、地面が揺れる。
何事かと目を開けてみれば・・・そこには赤いローブに身を包んだ者が姿を見せた。
その者は赤く輝きを放つ剣を龍の振り下ろした爪に合わせ・・・受け止めたのだ。
その場にいた全員が絶句し、金色も口をパクパクとさせる。
赤いローブを纏った者がローブを脱ぎ去る。
金色はボロボロと涙を流し、堰を切らしたかの様にへたり込んで叫んだ
「遅いよぉ」
赤く燃え盛る様な長い髪を風にたなびかせ、とても龍の一撃を受け止められるとは思えない華奢な身体、手に持った剣は見覚えのある装飾が施され、自分の投げた剣へと視線を移す・・・そして、彼女の剣に描かれた紋章が自分の剣と一致している事に気がついた。
彼女はフッと息を吐くと、龍の一撃を押し返し、龍を二歩後退させる。
威嚇の唸り声をあげる龍を睨みつけるように不動の姿勢をそこに持ち、龍の恐ろしさを知らぬとでも言いたげに彼女は剣城を龍へと向ける。
それにまた龍は一歩後退する。
そして彼女が振り返る。
端正な顔立ちに、切れ長の目・・・鳶色の瞳に、己の意思を突き通す凛々しい顔付き、忘れるはずがない。
つい最近自分は彼女に会った・・・そして彼女が何者であるかも自分は知っている、いや、この場にいる騎士全てが知っているであろう。
「サテラ〜」
サテリフィト・ラウル・ミシェラ:レェベン
紛れもなく、そこにいたのはレェベン騎士爵であり、僕の妹である者が立っていたのだ。
「カナン冒険者ギルド所属・・・『孤高の魔法剣士』サミエルだ。掛かってきなさい駄龍」
地龍は咆哮を上げる。
軟弱なものであれば、その直撃を貰えば命さえも奪われ、熟練した者であっても恐怖が植え付けられる。
そんな暴力的な咆哮がサテラを襲う・・・それを防ぐ手立ても最早自分にはない。
しかし、サテラはそれを必要とせず、それどころか。
「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
咆哮を物ともせず、龍の顎へと渾身の一撃を放ったのだ。
アタライ様の一撃でも物ともしなかった龍が・・・仰け反った。
「ミリエ・・・ゴホン、金色!!」
「は、はい!!」
彼女の体が青く光り輝き、次いで緑色に光り輝いたかと思えば、彼女の姿が一瞬にしてその場から掻き消える。
どこに行ったと周りを見渡せば・・・彼女は仰け反った地龍の元へと飛び上がり、丁度逆鱗がある場所で静止する。
「魔法:ウィンド スキル:ピアッシング」
サテラの剣が赤く輝き、そして豪風が剣城を包み込み見えない刃と化す。
耳に届く轟々と吹き荒れる風の音、そしてサテラは猛り叫んだ
「魔法剣:ウィンドピアッシング!!!!!」
バキンという何かが割れ砕ける音が響く。また剣が折られたかと切っ先を見やれば・・・それは、龍の鱗を易々と砕き散らし、逆鱗へ後一歩の所で止まっていた。
サテラは突き刺さった剣を引き抜き、龍を足蹴に一回転して着地する。
「・・・急所突き、ハルウの言っていたのをやってみたけれど凄い威力、無茶苦茶ね」
サテラは何かをボソボソと呟くと、剣を振るい鱗の破片を落とす。相変わらず切っ先を龍へと向け、クルクルと剣を回して挑発する・・・これは小さい頃のサテラの常套手段でもあった。
相手を挑発し、攻撃を仕掛けたところで返し技・・・逆に警戒しようものなら、不意な突撃を敢行する二段構えだ。
逆鱗部分の鱗を破壊され、地龍は今までにない咆哮を上げる。
龍の逆鱗に触れるという言葉がある・・・一度でもその付近に攻撃を受ければ、怒り狂い狂暴性が増すのだ。言い伝えで爪の鋭さが増し、龍砲の威力も増したと言われている。
だけど
「サテラの思う壺か」
怒り狂い突進する龍は、サテラへとその巨大な爪を振るう。常人では避けることもできないであろう攻撃を、ヒラリと優雅な動きで避ける。
連続で繰り返される巨爪の連撃を、まるで踊るかの様にヒラリヒラリと避け、地龍に感付かせない様に場所を移動していく。
「安らぎの大風を吹かす風よ、暖かみを齎す豊かな大地よ、心の奥底から穏やかな泉を湧かせし水よ・・・全ての幸福が降り注ぐことを私は望みます」
そう彼女が詠唱を紡ぐと、彼女の周りを巨大な魔方陣が出現する。
目まぐるしく変化する魔方陣は、段々と光を強くしていき、やがて辺り一面を真っ白に染め上げる。
「精霊魔法:癒金の竪琴」
心地の良い大きな音色が耳に響き、体を白い膜の様な物が覆う。龍砲によって骨折し火傷を負った場所の痛みがみるみる内に癒えていく。
それは戦場の至る所に届き、痛みにもがき苦しんでいた者達は、急に痛みが引き、荒い息を付きながらも立ち上がる。
龍砲で負傷を負った・・・特に重傷を負った者達の殆どが回復され、残るは軽傷の者達だけとなった。さすがに全域を完璧に回復することは困難だったらしい。
すると金色はフラフラとよろめく。咄嗟にマナポーションを二本開き、金色の元へと駆け寄る。
尻餅を着いた金色にマナポーションを渡すと、意識が朦朧としていながらもコクコクと飲んでいる。
急激な上級魔法の連続に、身体は耐えられなかったのだろう。
「あ、有り得ない。重傷者を一瞬で治癒できる回復魔法、それに広範囲だと・・・そんなもの英雄の域ではないか!?」
「そ、それよりよぉ。俺ぁ夢でも見てんのか?地龍に女が一人でタメ張ってるように見えるんだが・・・俺とうとう死んじまって夢でも見てるのか?」
「いや・・・タメ張ってるどころか、あれは地龍を押してるんじゃないかい?」
「サミエルっていやぁ、最近有名になってるあのパーティーが言ってた・・・」
「ミ、ミシェラ様なのか? サテリフィト・ラウル・ミシェラ様なのか?」
「そ、そんなばかな? ミシェラ様といえど流石に龍を相手など」
起き上がった騎士と冒険者・・・宮廷魔法使いの見習い達は金色の放った上級魔法に顔を青褪めさせ、冒険者と騎士達はたった一人で地龍と対峙するサテラに呆然としている。
なおも地龍の攻撃はサテラへと降り注ぐ。
いつまでも避け続けていたサテラは、もういいかと言わんばかりに、龍の攻撃を寸出の所で避け、そして再び一撃を加え、脚の龍鱗を破壊する。
地龍はたった一人で互角以上に戦うサテラに、気圧される様に何歩も後退する。
すると、龍は巨大な口を開け、その口内に魔力を集め始める。
赤々と光り輝くそれは龍砲の輝き・・・人では抗えぬ領域の絶対的な暴力であり、それを止められる者など居る筈もなく、されるがままにするしかない。
それを防げるのは金色しかいない・・・しかし、金色は先に放った回復魔法によって魔力切れを起こし、意識がはっきりとしていない。
「サテラ!!!!!」
地龍から龍砲が放たれる瞬間、サテラの姿が消失する。後に再び龍の顎は跳ね上がり、龍砲は一筋の柱となり空へと放たれる。
サテラが振るった剣は龍の顎を捉え、その一撃で持って龍を仰け反らしたのだ。
再び仰け反った龍へ、サテラは逆鱗の元へと飛び上がると二度目の剣撃を放つ。
しかし、スキルを発動していなかったサテラの攻撃は周りの龍鱗を破壊するだけ終わる・・・それだけでもすごいのだが、サテラは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ着地する。
龍は急いで体勢を立て直し、サテラから焦った様に距離を取り、威嚇の唸り声を上げる。
・・・よく見てみれば、龍の逆鱗に傷がひとつ付いていたのだ。
サテラは油断なく構え、剣をクルクルと回しては龍の眼前に突き付ける。
龍はそれに怯んだ様に、首を竦める。
次はないぞ、と殺気を含んだサテラの剣の鋒に、龍は怒り咆哮を上げる。
無論サテラにはそんな物は効くはずもない。
だが、龍の纏う気配は一変する。
龍の咆哮と同時に、龍の身体から土色の魔力の奔流が溢れ始める。
周りの大地は脈動し、龍の瞳が赤く赤く赤く燃え上がる様に紅く輝き始める。身体に生えた岩の様な突起から雷がバチバチと走る。
大地は悲鳴を上げ無数の亀裂が走り、龍が踏みしめた大地からは抉れ上がり、掌サイズの石や人よりも大きな岩が空中へと浮かび上がり、それはやがてバキバキと龍の両脚を接着するように大地と結び始める。
龍の肺が目いっぱいに膨らみ始め、身体のアチコチに気孔の様な穴がいくつも出来上がり、そこからは膨大な魔力が吹き出している。
龍の口内に膨大な魔力が集い始め、それはやがて龍の口からもはみ出すほどの巨大な球体となる。
「これはスキル・・・なのか?」
「ふん。さすがは龍か・・・」
サテラは、しかし、尚もそこから動こうとはしない。
「ッ!? サテラもういい!! 逃げろ!!!!!」
咄嗟にサテラに叫ぶ・・・が、サテラは動かない。
唯、剣を構え、そこに居座り続けている。
聞こえているはず、だがサテラは・・・
「ッ!? まさか!!」
バッと後ろを振り返れば、そこには回復したばかりで満足に動けない大勢の冒険者と騎士がいる。
もし、そこでサテラが逃げ出し、回避しようとしたのならば、その者達の命はないであろう。
「そこまでして・・・お前は」
サテラの頬に一筋の汗が伝う。
サテラはあれの攻撃を受け止めきるつもりでいるのだ、
当然無理に決まっている。今までの健闘から、サテラの力量は英雄の域にまで上り詰めているのだろう・・・悔しいが、僕では今のサテラの足元にも及ばないであろう。
だが、それでもあの龍のスキルを真正面から受け止めきることなどできるはずがない。普通の龍砲ならまだチャンスがあったかもしれないが、スキルを行使した龍砲を止めるなど絶対に不可能だ。
・・・ここは、少しの犠牲を払ってでも、サテラという希望を生かすべきなのだ。
「私は騎士」
サテラが小さく告げる。
「この剣は守る為にある。全てを守り切ることができなくとも・・・目の前にいる人々を守ることはできる。だから」
サテラが力を込め、剣をゆっくりと上段に構える。
「この命果てようとも、私は騎士の誇りを通す!!!!!」
一瞬の後、視界を覆い尽くす光量の龍砲が放たれる。
「スキル:烈気斬 スキル:衝波斬 魔法:ファイアストリング」
そして、信じられない物を自分の目が受け止める。
サテラが・・・龍の龍砲を受け止めている。
口の端から血を滴らせ、剣を握る手からは蒸気が上がっている・・・。龍砲は剣の前で完全に静止している・・・が、サテラが押し返される。
金色の方へ目を向けてみれば、金色も歯を食いしばってサテラに魔法を唱えているのだ。
「同時詠唱・中位精霊魔法:精霊の祝福 衝突の行方」
金色の顔は青を通り越し土気色へと変わっている。
唯、それでも・・・
「・・・った」
龍の龍砲を押し通すことはできない。
「・・・わかったから」
?
サテラが何かを呟いている。しかし、自分には何を言っているのかは聞こえない。
「だから・・・」
瞬間、サテラに変化が訪れた。
サテラから紫色のオーラが滲み出す。
「加わる・・・」
紫のオーラは尚も止まることなくサテラから溢れ出す。
「彼に従事する」
そして紫のオーラは
「だから」
爆発した。
「私に力を貸しなさい!!!!!」
フオン
そんな音が戦場を支配する。
龍砲によって巻き起こされた破砕音でもなく、空気の振動する音でもなく。
ただ、剣の振り切られた音がこだまする。
サテラは空中へと飛び上がり、龍の上空へと躍り出る。
そして、二つに断ち切られた龍砲だったものが、サテラの剣へと集約した。
「エクストラスキル:紫電の一閃」
サテラが龍の頭部に剣を振り下ろす。
至極当然と言いたげなその顔に、その場にいたものたちは現実を見失いながらも何故?と考える。
しかし、次の瞬間には納得することとなった。
すっと剣が龍へと入る。何の抵抗も感じさせる事なく、それはゆっくりと龍の頭部に吸い込まれていく様に沈んでいく。
ストン
と、どこか間の抜けた音を立て、サテラは剣を振り切った姿勢のまま着地する。
龍は動かない。
いや、動けないのだろう。
地龍は既に・・・二つに割かれ、息絶えているのだから。
ズズゥンと、二つに割かれた龍は大地へと倒れ、大量の血と臓腑を撒き散らしながら事切れる。今までそこに本当に龍がいたのかと疑問に思えるくらい、緊迫の糸がプッツリと切れてしまう。
地龍という人類にとって抗う事は無謀とされる最強の種族は・・・は今や無残な置物と化す。
静寂の大地に、サテラは一人静かに立ち上がり、血の付いた剣をゆっくりと空に向かって突きつける。
クルリ振り返るサテラの瞳は・・・綺麗な鳶色ではなく、闇色に光る紫色に輝いていた。
「私達の勝利よ」
にっと笑顔を称える『戦姫』に、
戦場は地龍の龍砲よりも大地を震撼させる歓声に沸いた。
次回・・・主人公『達』目線開幕
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!




