王都:氾濫④でした!
戦闘開始
次話投稿は一週間以内です!
ダンジョン前に形成された幾重もの防柵、そして、ダンジョンの半分を囲うようにして配置された何百人もの冒険者は、張り詰めた空気の中でじっとダンジョンに異変がないかを睨んでいる。
それは騎士達も同様であり、瞬きするのも惜しいと唯じっとダンジョンを睨み付けている。
そして、最前線に位置する騎士達の中に、その二人の姿はあった。
騎士には似つかわない『暴れ熊』の異名を有し、一度戦場をかければ獅子奮迅の活躍を見せ、数々の戦いから王国を守ったとされている現役の頃のキレはなくなったと本人は嘆いているが、今でも無類の強さを誇る現役の初老の騎士、テオドラ・フォルティ・アタライ:ヴォルドス。
そして、若くして騎士隊長を担い、ダンジョン探索における数々の功績、他の騎士の中でもずば抜けた剣技の才能を持ち合わせている。用いる剣技の多さは天井知らずで、並みの騎士では近づくことさえ許さない。現在は王都守衛隊長を任された若き騎士、クリフ・ラウル・ルアネィド:レェベン。
二人の騎士は、ぽっかりと大口を開けたダンジョンを前に、油断なくその大穴へと視線を注いでいる。
「まさか、冒険者にも被害が及んでいるとは・・・」
「帰ってこない冒険者が五十六名、その中にはBランクの冒険者も含まれていたらしいな」
ギルドに入った情報では、『豊穣のダンジョン』での騎士二小隊の壊滅、及び十六もの冒険者パーティーの消失。
それもBランクという上級者のパーティーでさえ、抗えなかったのだ。
恐らくは地龍にやられたのだろうが、他にも脅威が潜んでいる可能性もあり得る。
しかし、ギルドからは地龍以上の脅威はない・・・らしい。というのも、ギルド事態がそれを確認したわけではなく、『信頼できる情報筋』から仕入れたものだそうだ。
まぁ、それに関してはもう二人に問い詰めている。
「スラムンジャー・・・一体何者なんでしょうね?」
「まぁ・・・言えぬ事もあるというわけだ」
僕はアタライ様の目をジッと覗き込むが、アタライ様は明後日の方角へと視線を泳がせる。
あの後、ギルド長とアタライ様、二人を問い詰めたのだが、ある程度の情報までは引き出せたのだが、「どうしても言えない事がある」との事で肝心な情報を引き出す事はできなかった。
魔物の詳細な情報を齎したのは、『スラムンジャー』と名乗る、スラムの住人らしい。
・・・デマだと思っていたのだが、それぞれ違う色のローブを着た三人がスラムで暴れまわっているという情報は本当であったらしい。その三人こそがスラムンジャー?であり、この件に関与しているそうだ。
しかし、この氾濫の原因ではなく、どちらかと言えば、この騒動をどうにかしようとしているのだとか。
それに言葉を濁してはいたが、現在は三人ではなくなっているらしく、人数が増えたらしい。
ギルドに情報を与えたのもスラムンジャーであり、この氾濫に関する情報を密かに伝えているらしい。
しかし、まぁ・・・スラムの住民の言う事をギルド長が聞くとは考えもつかなかった。
何やら後ろ楯があるらしいのだが、ギルド長・アタライ様は頑なに喋ろうとはしなかった。
そしてスラムンジャーが齎した情報曰く、『氾濫は人為的なもの』であるらしい。
どのようにして氾濫を引き起こしているか、という点に関しては情報は得られなかった。
・・・まぁ、そんなことを今更考えても仕方がない。
今は目の前のダンジョンについて考えるのが先決だろう。
ダンジョンを取り囲む数百の騎士と冒険者。
チラッと右側を見やれば、剣、槍、斧、弓等を携えた者達が、規則性なくバラバラに並んでいる。
騎士達の中でも幾人かが、冒険者達は不安要素だと進言してきていた。
こんな陣形で連携がとれる筈がないと思うのも無理はないだろう。
しかし、一見バラバラに見える彼等の並びは、計算され、パーティー毎に分けられており、対応する魔物によって陣形を変えやすくするなどかなり緻密に計算されている。
そして何より、彼等の心の支え、自信となっているのは後方で静かに佇んでいる者であろう。
人の美貌をこれでもかと詰め込んだ女戦士・・・その者の噂は、万里を越えて今では帝都でも密かに囁かれるようになっている。
『金色』・・・彼等の後ろに座する存在が、彼等の士気をこれでもかと高めている。
もしもの時の最強戦力であり、己が無様を晒すわけにはいかないという見栄が彼等の心中を支配している。でなければ、間違いなく魔物の奔流にパニックを起こしてしまっていただろう。
ダンジョンの中からは異様な静けさと共に、微かな呻き声が冒険者達の耳に届く。
そして、時はやって来る。
「来たか」
開戦の切っ掛けはほんの些細な事だ。
ダンジョンから一体のゴブリンがヒョイと飛び出し、キョロキョロと回りを見渡す。
冒険者達の姿を認めると、その小さな身で防柵に飛び掛かる。無論、その程度の事で魔法によって強化された防柵はびくともしない。
何処からかヒュンッと空気を切り裂く音が、ゴブリンへと飛来する。
トスッという小気味の良い音に、ゴブリンの醜い|叫び声(雑音)が混じる。
冒険者達は一斉に剣を抜き放ち、槍を構え、斧を携え、弓に矢を番え始める。
ギチギチと弦が引き絞られ、レンジャー達の鷹の瞳がダンジョンの入り口の微かな動きを捉える。
OOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAA!!!!
PUGYAAAAAAAAAAAAA!!!
OOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNnnnnnnnn!!!!!
ダンジョンは自らの内に溜まった膿を吐き出す。
入り口から続々と魔物が這い出して来る・・・ゴブリンの群れ、コボルドの群れ、グリーンキャタピラーの群れ、それが地獄絵図と化して、波の様に僕達へと襲い掛かったのだ。
「各員陣形を崩すな、弓を射掛けよ!!」
「魔法師団、一斉射撃!!」
「俺らも続くぜ! 弓を放て!!」
魔物の奔流が防柵へと押し寄せ、そして衝突する。
いくら魔法で強化されているとはいえ、何十何百の魔物が突進すれば何れは決壊する。そして、何より大型の魔物が出現してしまえば防柵など一溜まりもない。
防柵に乗し掛かるようにして突破しようとする魔物達の上空を、矢の暴雨が襲い掛かる。
幾度も幾度も訓練された騎士隊の弓は狙い違わず魔物達へと降り注ぎ、レンジャーとして幾度となく死線を潜り抜けた冒険者達の矢もまた魔物の身体を貫いて屍の山を築き上げる。
それに構わず、仲間の死体を足蹴にして尚も突進を繰りそうとする魔物達に、悲劇はまたもやって来る。
突如として一匹が勢いよく燃え上がり、周囲の魔物を巻き込みながら爆散する。
上空を見上げれば、赤い火の玉が何重にもなって落ちてくるのが見える。
これはたまらないと、魔物達も急いで後退に移るが、時既に遅い。
地面に落ちた火の玉が爆発すれば、岩の礫が周囲に飛散し魔物達の命を奪っていく。
「今ので百匹は死んだな」
「情報ではまだまだいるはずです。レッドオーガやサイクロプス・・・地龍がまだ姿を現していません。それに、氾濫で溢れかえった魔物は、恐らく二千は越えている筈です」
氾濫によって出る魔物は優に数千を越える。有史では一万を越える魔物が一斉に出たこともあるのだとか・・・。
流石のスラムンジャーも掴みきれなかったのか、魔物の数までは情報として上がってきていない。
それでも今までの氾濫から見るに、恐らく二千は越えているだろう。
そうこうしている内に、ダンジョンからは続々と魔物が溢れ出でる。
奴等は一心不乱に此方へと突撃を繰り返し、無為な屍を築き上げる。
上空から降り注ぐ矢の暴雨をその身に受け、倒れ込んだ魔物を後続の魔物が踏み潰す。
魔法は、魔物の第二陣が出てくるその時まで温存させる。
「おかしい・・・」
順調に魔物が倒せていると思われた直後、そうアタライ様が告げる。
現状は何の異常もなく順調に進んでいる。防柵に突撃をかける魔物も亡骸だけを残し死に絶えており、先程から全く進歩していない。
アタライ様の言葉に首を傾げていると、アタライ様は防柵の向こう側・・・魔物達が蔓延る地面へと鋭い眼光を向ける。
そこには矢によって穿たれ、後続の仲間達によって踏み潰された、無惨な亡骸がゴロゴロと転がっている。
アタライ様が何を見ているのかと、ふとダンジョンの周りを見渡してみると・・・成る程、これはおかしい。
ダンジョンから続々と出てくる魔物は、皆一様にこちらに向かってきているのだ。
これだけでは何もおかしくはない・・・様に見えるが、何故分散しない?
防柵の回りには冒険者や騎士がいる。それなら魔物達は、他の防柵の張られている場所へ向かってもいいだろう。
それに、魔物の中にはゴブリンやコボルドもいる。ゴブリンやコボルトは頭はよくないが非常に臆病であり、密集していて矢の一斉掃射を食らえば、例えダンジョンの魔物であっても、バラバラになっても良い筈だ。
各々が防柵へと突き進んだ方が生存の確率が上がり、それを倒すのに苦労する冒険者や騎士をよそ目に、ダンジョンから増援が駆けつける・・・。
普通であれば、こうなっているはずなのだが、皆が皆真っ直ぐに突き進むとはどう言うことなのか。
「これは・・・まさか足場!?」
「魔物の癖に相当統率が取れるものがおるようだな」
魔物達の亡骸は刻一刻と増え、それが段々と不自然に地面の上に積み重なっていく。
魔物達はそれを乗り越えて防柵へと押し寄せているのだ。
そして、それに気づいたときにはもう遅かった。
「・・・ッ!? 敵の第二陣来ます!!」
ダンジョンの中から巨体が姿を現した。額から覗く禍々しい角、筋肉に包まれた体には飛来する矢が上手く刺さらず、掠り傷を付ける程度に終わる。
オーガ、ビッグキャタピラー等の、大型の魔物が姿を現した。
そして、ブルーゴブリン、イエローバット、グリーンスライムが姿を現した。
オーガは魔物の亡骸が、堆く敷き詰められた前方を見据え、駆け出した。
何とか猛進を止めようと集中的に矢を射掛けるが、分厚い筋肉の壁を前にして、全てが擦り傷同然のものとなる。
冒険者と騎士達の奮闘虚しく、オーガは積み上がった死体を足場に、防柵を乗り越える。
「防柵突破されました!」
その報告を機に、ダンジョンから続々とオーガが出現する。ビッグキャタピラーの群れは矢を受けて絶命するが、オーガにとっては良い足場だ。
やはりあれらには裏で操っている何かがいる。でなければ、あれ程の統率はできない筈だ。
「魔法放て! 死体を焼いて、オーガを殲滅しろ!!」
後方から魔法が一斉に放たれ、魔物を紅蓮へと染め上げる。
それには頑強な身体を持つオーガでさえ、身を焼かれる痛みにのたうち回り、やがて絶命する。
命令した魔法は『ファイア』、先程のファイアボールのように炸裂すらしないが、今ではこれが一番の手であるだろう。
地面に敷き詰められた魔物達の亡骸が燃え上がり、その上に立っていた魔物達も一緒くたに燃え上がらせる。
視界いっぱいに火の海が広がり、一回目の攻防は終わりを迎える・・・そう思われた。
「ッッッ!? 火の中に何かいます」
急いで声のした方に目を向けると、激しく燃え盛る火の中に、黒い影の様なものが見えた。
それは、どんどんと大きさを増し、やがて火の中からそれが姿を現した。
「まさか!? レッドオーガか!!」
先程のオーガよりも大きく、体表が赤いオーガが炎の中より何体も出現する。
そして、驚愕する僕達を他所に、レッドオーガ達は未だ燃え盛る海の上を疾走する。
魔法の準備をしても今更遅い。
魔法で強化されていたはずの防柵は直ぐ様破壊され、尚もレッドオーガ達の疾走は止まらない。
五重に張り巡らされた防柵の一つを破壊し、二つ目の防柵へと飛び掛かる。
そこで漸く、二発目の魔法の準備が整う。
赤々と輝く火炎の球が、レッドオーガへと降り注ぐ・・・しかし、レッドオーガ達はそれを煩わしいと手で払い除け、あるいは握り潰してしまう。
「くっ・・・やはり、低位の魔法では歯が立たないか」
すると一本の矢が放たれる。
それは、普通の矢ではない・・・矢は赤いオーラを纏い、物凄いスピードで真っ直ぐにレッドオーガへと突き進んだ。
レッドオーガが防柵へと幾度目かの攻撃をしようとしたその時、レッドオーガの眼球に矢が突き立った。
レッドオーガは耳障りな悲鳴をあげ、後ろへ何歩か後退る。
普通の魔物であればそこで戦闘不能に陥るのだが、B-ランクの魔物はそれだけの攻撃では倒れない。
今しがた矢を打ったのはBランク冒険者のレンジャーだ。
恐らくスキル『剛矢』を使ったのだろう・・・そして固い筋肉によって守られた身体でなく、急所である目を狙ったのだ。
それに続いて一斉に矢が放たれるが、普通に放たれた矢は、レッドオーガに傷一つ付ける事なく地に落ちる。
そしてまた、赤いオーラを纏った矢が放たれた・・・が、警戒していたレッドオーガはそれを避ける。
やはりダメか、先程は隙をついて一撃を食らわせたが、警戒されれば難しい。
普通の矢は眼中になく、スキルによって放たれた矢だけに集中している。
そしてスキルを扱える者は少ない。レンジャーの中に数人しかおらず、騎士も同様だ・・・スキルの連発は不可能であり、レッドオーガの進撃を止める事はできない。
「クッソ! このままじゃ突破されちまうぞ!!」
レッドオーガ達はレンジャー達が放ったスキルによって、傷さえ付いているもののそのどれもがほとんどダメージになっていない。
・・・突破されて乱戦に持ち込むのもいいが、戦闘開始から五の刻程しか経っていない。
それにしてもやはりおかしい・・・氾濫は魔物の出現が周期毎にやって来る。
つまり常時魔物を排出するわけではなく、一つの群れとして何回かに分けて出現するはずなのだ・・・。
そして、最悪な考えが頭の中に過る。まさか、休む暇もなくダンジョンから魔物がやって来るとしたら・・・。
幸い今は防柵も破られておらず、ダンジョンの中からは新たな魔物の出現もない。
レッドオーガが二つ目の防柵へと手を掛ける、その巨体から繰り出される凄まじい破壊力は、武器さえ手にしていないものの、人を造作もなく握りつぶせし、岩を砕く事も容易に行えるだろう。
その場にいた全員が突破されると想定して剣を抜き放ち、レッドオーガへと集中する。
三つ目、四つ目・・・そして、最後の防柵が突破される。
アタライ様もブロードソードを引き抜き、目の前に接近するレッドオーガを見据える。
自分も片手に携えられたロングソードを強く握り、戦闘の準備を整える。
「突撃!!」
その声と同時に隊列を組んだ騎士達が駆ける。
現在レッドオーガに最も接近しているのは、最前線に立っていた自分とアタライ様だ。
レッドオーガの数は十体。
レッドオーガ達は散々となり、冒険者・騎士に襲い掛かった。
赤い巨体が眼前へと迫り、人を軽く覆い隠す巨腕が唸りを上げ、大きな拳が物凄い速度でこちらを捉える。
隣を並走していたアタライ様が前に出る。
勢いに乗ったレッドオーガの初撃を止める役目は、アタライ様が有している。
瞬間、金属がぶつかったとは思えない音を上げ、アタライ様のブロードソードがレッドオーガの拳と衝突した。
レッドオーガはブロードソードを止めきれず、後ろへと仰け反る。
しかし、さすがBランクの魔物・・・あれだけ勢いよく刃とぶつかったというのに拳に傷がついただけだ。
アタライ様も無論、レッドオーガの拳打に平気でいられる筈もなく、大きくよろめき踏鞴を踏んだ。
しかし、すかさず自分が前に出る。
ロングソードを持って、レッドオーガの足を斬り付ける。
体勢を建て直しきれていなかったレッドオーガはそのまま片膝を突き、大きな隙を晒す。
そこに騎士達がすかさず剣を叩き込んだ・・・しかし、渾身の力で振るった剣もレッドオーガの前では掠り傷でしかないだろう。
これを何度も叩き込まなければいけな
ドゴン!!
左方から破砕音が鳴り響く、そちらに目を見やれば、レッドオーガの攻撃を受け止め損ねた騎士達が、まるで石ころの様に宙を舞っていた。
こちらの攻撃は碌に通じないと言うのに、あっちの攻撃が当たれば即戦闘不能だ。
加えてあの体格、一撃を貰えば囲んでいる騎士達数名も吹き飛ばされる。
騎士達の奮闘も虚しく、レッドオーガは体勢を建て直す。
ギラッと光る目付きがこちらを見据え、大きな咆哮を上げる。
まぁ、当たらなければ良い話なのだけど。
ロングソードをヒュンヒュンと回し、地面にあった石を蹴り上げレッドオーガへと直撃させる。
自分とレッドオーガの視線が合い、片手を突き出して手招きする。
すると、レッドオーガは怒り狂い、その巨腕を全力で振りかぶり連続して攻撃を放つ。
一撃一撃が人間を軽く押し潰すであろうその攻撃を、身体を捻って躱して行く。
当たらなければいい。
オーガは大振りで、攻撃を読みやすい。
ダンジョンボス・・・あの時、三十階層で倒したゴーレムよりかは早いが、攻撃の仕方や動きはほぼ一緒だ。
あとは常に自分にヘイトが向くように立ち回り、挑発すればいいのだ。
その間にも、隙あらば攻撃を叩き込もうと動いているのだけど・・・レッドオーガは深くこちらに踏み込もうとはしない。
それでも相手は所詮魔物・・・痺れを切らしたレッドオーガは雄叫びを上げ、自分へと突撃を敢行する。
巨体が物凄い勢いで迫ってくる様は、並みの者であるならば足が竦み恐怖から動けなくなるだろう。
しかし、自分は・・・いや、自分達はそれを待っていたのだ。
自分に完全にヘイトが向き、レッドオーガが突進を仕掛けたその時、背後へと回っていたアタライ様は、ブロードソードを振りかぶり、身体に赤いオーラを纏う。
これは
「スキル:『魁心』」
アタライ様の気配にレッドオーガも勘づき、足を止め後ろへ振り返ろうとする・・・しかし、時は既に遅い。
アタライ様の渾身の一閃がレッドオーガの胴体を捉える。
風を切り裂く音と肉が裂ける音が混じり合い、オーガの赤い血液がバシャバシャと地面に溢れていく。
ブロードソードは胴体を深々と斬りつけ、レッドオーガに重症を負わせたのだ。
耳を劈く叫び声を上げ、後方へと振り返ろうと、隙を晒したレッドオーガの脇腹にこちらも負けじと気迫を込める。
「スキル:裂体斬!!」
アタライ様が切り裂いた胴体に、もう一度スキルを叩き込む。
流石のレッドオーガもスキルの連撃には耐えきれず、胴体を真っ二つに切断され事切れる。
直後スキル使用による倦怠が体を襲うが、腰に下げたポーチからマナポーションを取り出し、一気に飲み干す。
レッドオーガは完全に息絶え、亡骸だけが戦場に残る・・・しかし、安心してなどいられない。
Bランク冒険者のパーティー達が、他の冒険者達を指揮し、レッドオーガへと挑んでいる。
冒険者達は四体のレッドオーガを分断させ、各個撃破の形を取っている。
流石に無傷とは言えず、何度か攻撃を食らい、戦闘不能になるものも続出している。
自分も、回避しきれず掠った部分は所狭しと有り、場所によっては鎧が凹んでいる部分さえある。
ポーションの備蓄は心許なく、回復魔法を行使できる者も、今は手一杯であり人手が足りていない。
騎士にも既に十数名の戦闘不能者と、三十名の負傷者が出ている。
自分やアタライ様は運が良かった。相手が自分達の力量を読む前に畳み掛けることができ、レッドオーガを倒せたのだ。
そしてどこからか、ズシンと重い何かが地に伏す低い音が響く。
Bランク冒険者が率先してレッドオーガへと攻撃を繰り返し、漸く満身創痍となって勝てていた。
僕とアタライ様も援護へと向かう。
ズシン、ズシンとレッドオーガが倒れ始める・・・しかし、それと同時に何人もの冒険者と騎士が戦闘不能となり、ダンジョンから離れた場所にある仮設の治療所へと運ばれる。
残るは最後の一匹となり、僕は直ぐ様レッドオーガと対峙し、戦闘を開始する。
しかし長い戦闘で疲れ、動きに切れがなく当然無傷とはいかず、レッドオーガの拳を捌ききれず、フックの要領で繰り出された拳打を一撃食らってしまった。
どうにか、反射的に防御を取ったが、何メートルも吹き飛ばされる。
身体中の血液が一気に沸騰するかの様な痛みが、熱となって体を蝕む・・・どうにか踏ん張って剣を携えるが呼吸が荒くなり、痛みから剣を強く握ることができない。
レッドオーガはこちらへゆっくりと歩み寄るが、冒険者が投擲した剣がレッドオーガの不意を突いて、脇腹を抉り取る。
絶叫を上げるレッドオーガに、ここぞとばかりに冒険者と騎士が殺到する。
そして・・・
ズシン
漸く最後のレッドオーガを下すことに成功したのだ。
戦闘開始から八の刻、入れ替わり立ち替わりで漸くすべてのレッドオーガを倒すことに成功した。
満身創痍となった騎士と冒険者・・・戻ってきたアタライ様も、鎧は所々凹み、剣は鞘に収まらなくなるまでに曲がってしまっていた。
「やっとですか・・・被害は?」
「戦闘不能者百余名、負傷者二百名といったところか・・・。予想以上に暴れまわられたな」
「確かに・・・」
レッドオーガとの戦闘で、かなりの被害を被ってしまった。
ここから本隊が来るまで何もなければいいのだが・・・。
そう思ったときだ。
「・・・ッ!?」
ダンジョンから再びレッドオーガが現れる。数は・・・三十体を越えていた。レッドオーガの足元にはブルーゴブリン等の小型の魔物も多数視認でき、剣を持つ手に力が籠る。
しかし、最悪なことには最悪なことが重なるものだ。
ダンジョンの中から一つ目の怪物が三匹姿を現した。
そして、自分は思い違いをしている事に気づいたのだ・・・ダンジョンの氾濫は自然に発生するものであり、普通であれば一回の戦闘でここまで出てくるはずは決していない筈だ。
有史で合った物はダンジョンが人の住んでいる都から離れた場所に有り、長い年月法られた大規模ダンジョンであったからこそ起き得た物だ。
しかし、ここは豊穣のダンジョン・・・人は絶えず行き来を繰り返し、魔物もいないはずだ。
それなのにここまで断続的に出現するのはおかしい。
それは当たり前だ・・・これは「人為的」に起こされたものであり、尚且つ「氾濫」が起こっているのだから。
つまり
「断続的に出てきているのは、人為的なもので・・・氾濫もそれに重なって起きている? だから止まることがないのか」
気づけば冒険者も・・・そして騎士も、唖然とし顔が真っ青になっている。
あたりまえだ。あそこまで苦労してやっと倒したレッドオーガが三倍の数になって出現、しかもサイクロプスまでもが出現したのだから。
勝てる筈がない、その場にいた全員の心が折れようとした。
その時
「えっと、道を開けてください!」
後方からそんな声が響く、自然と道が開かれ、声の主が姿を見せる。
戦場とは無縁な美しい存在、その身には一切の傷は無く・・・真っ白で、優し気な緑瞳には凛々しさが宿っている。
彼女は冒険者と騎士にぺこりと頭を下げると、ゆっくりとボクとアタライ様の下へと歩み寄る。
『金色』が動いたのだ。
「あ、後はお願いするね」
彼女はボソッと何かを呟いた様だが、僕達には聞こえなかった。
僕とアタライ様の横をぎこちない足取りで通り過ぎ、迫り来るレッドオーガとサイクロプスを真正面から見据える。
猛り狂い防柵へと突進するレッドオーガ、鈍重ながらもレッドオーガを越す巨体を揺らし、地響きを起こし走り寄るサイクロプスに、彼女はゆっくりと掌を掲げる。
彼女の周りから濃密な魔力が溢れ出す。彼女の前に魔法陣が現れ、やがて安定性の無かった魔力は、一つの指向性を持って彼女の掌へと集約する。
彼女の掌には一見すれば何もないように見えるが、そこには膨大な魔力が渦巻いているのが感覚的にわかる。彼女の髪がはためき、衣服が激しく踊り始める。
彼女はゆっくりと深呼吸を繰り返し、意を決したと小さく口を開いた。
「皆を守れるだけの力を貸して・・・『風塵の支柱』」
彼女の掌から暴力的な魔力が放たれ、辺り一面を砂塵が舞い踊る。
咄嗟的に目を覆い隠し、吹き荒れる暴風になんとか踏ん張るが、何人かは暴風に押され倒れてしまっている。彼女から離れている場所にまでそれの影響は及び、多くの者達がよろめいている。
荒れ狂う暴風は止まる所を知らず、周囲一体を消し飛ばさんばかりに勢いを増す。
中位・・・いや、上位クラスの魔法の行使は、規格外を越えていた。
風は轟々とすべてを巻き込もうと吹き荒れ、その唸りは天の嗚咽にも似た何かへと変わり果てる
そして段々と風の猛威が衰えていく。砂塵を吹き散らしていた風は、やがて微風となり、辺り一体を吹き抜ける。
天の悲しみが引いていったのだ。
目を覆い隠していた手を下げ、風が静まった辺りを見渡すと、呆然とする冒険者や呆然とする冒険者や騎士達の姿が見てとれる。
ふと見上げれば、隣に立つアタライ様までが、驚いた表情をしているのだ。
想像はつくが・・・恐らく先程のレッドオーガが細切れとなっているのだろう。
目を前に向ける。
すると、そこには
「サイクロプス・・・?」
「これ程か・・・あの小娘」
アタライ様が隣で何かを呟くが、そんなことは耳に入らない。
風は治まった・・・そう勘違いしていた。
違う。風は『完全な制御下』に置かれたのだ。
荒れ狂う暴風・・・いや、そんな生半可な言葉じゃ通じない。『天の憤怒』がレッドオーガとサイクロプスを、焼き尽くしていたのだ。
初撃に放ったファイアによって未だ燃え燻っていた炎を巻き込み、風は燃え上がる竜巻を生成する。それは天高くへと伸び、一本の極大の柱と化しているのだ。
その火柱はレッドオーガを跡形もなく燃やし尽くし、サイクロプスを炭化させ、その戦場に合ったもの全てを燃やし尽くしている。
天が魔物に悲しみに暮れ、悲しみを越えた先に憤怒の鉄槌を下す・・・そしてダンジョンの前からはすべてが燃え尽きたのだ。
火が治まり
風が鳴り止む
そして後には、光輝く地面が姿を見せ、地面はゆらゆらと揺れているかの様に見える。
英雄と呼ばれる伝説の冒険者・・・『金色』はAランクに登り詰めていると言うのか。
ベヒーモスを一撃の下に撃破し、カナンを救った本物の英雄が、揺らめく大地の前に立っていた。
「ありがとう。後はゆっくり眠っててね」
金色は何かを呟いて、此方へと振り替える。
胸の前に手を上げ、ヒラヒラとするその仕草に、その場にいた全員が現実へと引き戻される。
そして誰が最初に上げたのだろうか、一斉に歓声が戦場に鳴り響いた。
うううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
閧の声は大地を震わせ、勝利の風が騎士に、そして冒険者に訪れる。
騎士達は一斉に剣を掲げ、冒険者達は達は金色を取り囲む。
ここで男であったならば胴上げの一つでも行われたのだろうが、彼女に触れる事は・・・暗黙の了解で禁止となったらしい。
「え、あ、えっと、あえぇぇ・・・」
金色は涙目となり、チラチラとアタライ様と僕の方に視線を向けているが、ごめん・・・助けることはできそうにないよ。
GOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!
突如大地が震撼する。
耳を通して、脳内に恐怖が焼き付けられる・・・完全に体の動きが止まり、ガチガチと歯を打ち鳴らす。
「ッ!? 精霊さん!!!」
金色が一つのパーティーを飲み込んでしまいそうな程、大きなを水弾をダンジョンに向けて放つ。
瞬間、とてつもない爆発が起こる。
冒険者と騎士を衝撃波が襲い、金色をどうにかして守ろうと動いたBランクの冒険者達も、熱風と爆風に巻き込まれ吹き飛ばされる。
暗闇を覗かせるダンジョンから放たれたのは、煌々と光り輝く、燃え盛る火炎の玉・・・一般的に言われているのは「龍砲」だ。
ダンジョンから伸びる道を抉り取り、たった一発の龍砲によって、騎士も冒険者もすべてが吹き飛ばされたのだ。
寸前で回避した自分とアタライ様も爆風に吹き散らされ、地面を数回転したところで止まった。
そして・・・龍砲の主が姿を見せる。
「地龍・・・か」
ランクA-・・・英雄を凌ぐ伝説の存在、龍がその姿を現したのだ。
次回
地龍VS冒険者・騎士・『金色?』
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!




