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王都:モンスターハウスでした!

改稿しました!!


次話投稿は一週間以内です!


「豊穣のダンジョンが出現したらしい。僕らも行ってみようと思うんだけどどうかな?」


 宿屋の一室でそんな言葉が紡がれる。

 一見すればまだ幼いその顔立ちに、無謀に聞こえるその言葉。

 しかし、胸に輝くギルドカードには、Dランクを示す文字が刻まれており、その者が一般的な冒険者としての経験を積んだ者だということがわかる。


 言葉を発した少年の言葉に耳を傾けるのは三人。

 何れも青年と変わらぬ歳の者ばかりである。

 自分よりも大きな杖を持った大人しそうな少女、脇に盾と剣を置いた活発そうな少年、槍を研いでいる気の強そうな少女と、バランスのとれたチームである。


 全員は少年の言葉に頷き、不安そうな顔、期待に満ちた顔、どうでもよさそうな顔と、三者三様の表情を見せる。


「今まで頑張ってきましたし、大丈夫だとは思います」


 不安そうな顔をしていた杖を持った少女・・・亜麻色の短髪を揺らし、この中の誰よりも華奢である少女は、不安でありながらも決意のこもった表情を見せ、少年の言葉にそう返した。


「俺らなら大丈夫だぜ! 今までだってちゃんとやれたんだ、きっと出来るさ!!」

「貴方は楽観的すぎる。何度カレルと私に助けられた? アレンにも頼りっぱなしで成長が伺えないわ」

「うぐっ・・・テムッチの癖n、アダダダダダダダ!!」

「その名前はやめろと何度も言った筈よねグレイ?」


 頭を締め付けられている少年・・・グレイと呼ばれた少年は、自信たっぷりに行けると豪語したが、傍らで槍を研いでいた少女テムッチ?に諌められ、仲の良い光景を晒している。


 彼らはギルドに登録して二年のパーティー『英雄の始まり』である。メンバーは、リーダーであり中衛で盗賊のジョブをつけた「アレン」、後衛でヒーラーを担当する「カレル」、前衛で剣士と槍士を担当する「グレイ」と「テムチ」である。

 歳は平均して17歳、何れも親を亡くした孤児であった。運良くスラムに流れ着く事なく、教会に引き取られた者達である。


 今は教会にいる、自分と同じ境遇も子供達の為に冒険者となって資金を調達し、教会の運営を支えている。


 一月ほど前にDランクとなり、晴れて一般冒険者として数えられるようになった少年達は、今回初めてのダンジョンへと挑戦しようとしている。


 Dランクに成り立てでは、経験も浅くダンジョンの攻略にはリスクが大きい。

 しかし、彼らもしっかりと研鑽を積んできた冒険者なのである。入念な準備と下調べ、鍛練も怠る事なく今まで励んできたのである。


 そこいらの同ランクの冒険者と比べてみても、彼らの強さは抜きん出ていると言ってもいい。

 常に自己の研鑽を積み、運に任せずしっかりと計画を練って行動する稀なパーティーなのだ。


「うん。わかった。それじゃ、明後日に明朝にでも出発しよう」

「昼に行ったほうがよくないか?」

「それは・・・ほら、カレルがね」


 杖を持った少女カレルは、申し訳なさそうに頭を下げる。

 彼女は魔法使いである。魔法使いは知っての通り数が少なく、習得するには才能と金が必要であり、殆どの場合貴族や商家の者でしか習得できないのだ。


 しかし、彼女はそんな魔法使いの中でも特に才能に恵まれ、そして運にも恵まれたのだ。

 偶々魔法使いとしての才能があり、偶々引き取られた教会に魔法を扱える者がいたのである。

 何年もの修行の末、攻撃魔法をこそ習得できなかったものの、この歳にして低級の回復魔法を全て使える程になった。


 それに喜んだアレン達だったが、そんな彼女の存在を他の冒険者達も見逃す筈がない。

 どうにかして自らのパーティーに引き込もうとする者、自分達のパーティーの恩恵に縋ろうと擦り寄ってくる者、酷いものでは脅迫紛いの勧誘をして来た者だっているのだ。


 当時右も左もわからなかった彼らは、そんな冒険者の荒波に揉まれ流されるままとなっていたが、ある日一つの冒険者パーティーに助けられた。

 日々押し寄せてくる冒険者の荒波から、彼らを守ったのだ。


「あの人達がいなかったら今頃どうなっていただろうね?」

「あぁ・・・『風の導き』の方々の事ね。私達の目標であり、越えるべき人達ね」


『風の導き』・・・今やその名前は冒険者にとっては知らない者がいないパーティーである。

 普通なら何年も掛かる道のりを、僅か数ヶ月で越えていったという冒険者パーティーなのだ。


 彼らが王都に訪れた時、冒険者の悪意に翻弄されていたアレン達パーティーに割って入り何度か行動を共にする内に、『風の導き』と関わりがあり、手を出すとどうなるかわからないと噂が出回った。

 すると、冒険者達の悪意が降りかからなくなった。普通好き好んで、実力のある冒険者を敵に回そうとは考えないだろう。


 噂によるとつい最近Bランクの冒険者へと上がり、最年少でBランクへと上り詰めたパーティーとして、酒場では専らこの噂で持ち切りなのだ。


「でもよ、あの人達も『上には上が居る・・・自らに驕らず油断はするな』って毎回言ってたよな? あの人達を越えるパーティーなんて見たことないぜ」

「私達に戒めを与えてくれていたんだろう。感謝しないとね」


 そう言って、うんうんと頷いていると論点がズレていることに気づく。

 アレン達は苦笑し、出発は明後日の明朝となった。



 -------------------------------------------------・・・



 薄暗いダンジョンの中、剣を振る音が僕らの耳朶を打つ。

 横の通路から現れた、数匹のゴブリンに剣を叩き込んだのは右手に剣を携え、左手に盾を構えたグレイだった。

 盾でゴブリンを受け止め、押し返すと同時に剣を振り下ろす。それだけで、ゴブリンは真っ二つに引き裂かれ地面に崩れ落ちる。


 すると、二匹のゴブリンがグレイの横合いから迫る。

 しかし、一匹のゴブリンは死角から突き出された槍に反応することが出来ず、そのまま貫かれ無様な死に体を晒す。

 もう一匹のゴブリンは仲間がやられた事に蹈鞴たたらを踏み、盗賊である僕がそれを見逃すはずもなく短剣を突き入れる。

 ゴブリンは耳障りな絶叫を上げて、地面へと沈んでいった。


 それでも尚、ゴブリン達は錆びた剣と粗末な防具を身に纏った状態で果敢に僕らに襲い掛かる。

 勿論ゴブリンの行動パターンを入念に調べた僕らにとっては、相手の攻撃が当たる筈もなく、ゴブリン達は敢え無く全滅する。


 全滅さした後、周りに敵の気配がないことを確認した僕らは、ふぅと息を吐いてゴブリン達のドロップアイテムを選別してカバンの中へと入れていく。


「ははは!! ダンジョンっつっても、簡単なもんだな」

「はぁ・・・また貴方はそうやって油断する。馬鹿だから仕方ないのかもね」

「う、うるせぇ!!」


 二人はいつも通り、仲良く言い合いをしている。

 ・・・二人が両思いなのはわかっているんだけどなぁ。いつになったら二人はくっつくのだろうか?


 女性を含んだ冒険者パーティーは面倒が多いと聞いたが、小さい頃から一緒に育ってきた僕らにとっては全く問題ない。

 僕にはカレルがいるし、グレイにはテムがいるしね。


 初めてのダンジョン攻略で、不安な点も多少はあったが今はまだ大丈夫だ。

 欲を張らずに長く低層で魔物を倒し、階をまたぐ時は準備に怠りはないか魔物との戦闘に余裕はあるかをメンバーで話し合いながら進んでいる。


 そして、今一番手応えがある階層がこの七階層だった。

 敵の強さや数、罠の対処等も丁度今の自分達のレベルと釣り合っている場所で、それでいて緩すぎず適度な緊張感を得れる場所だ。


 ダンジョンではいついかなる時でも油断してはいけない。自分達が「頑張ればいける」階層には行ってはいけない。

 もし、普段では起こりえない不測の事態に直面した時に対処ができないからだ。

 とは言っても、レベルの低い階層に甘んじていても、自分達のレベルも上がらない。


 だから、不測の事態に備えて階層を跨ぐ通路の近くで探索を行っている。

 ここに来るまでに宝箱こそ無かったものの、普段ではお目にかかれないレアドロップの品も手に入れることができた。

 自分達が一日中働いてやっと手に入れる事ができるお金が、ここではたった一回の戦闘で得ることが出来る。しかし、先にも言ったが、気を抜いてはいけないのがダンジョンだ。


 グレイもああ言っておどけてはいるけれど、しっかりと周辺の警戒や武器の手入れなどは怠っていない。

 まぁ、周辺の警戒は『盗賊』のジョブである僕の仕事だけどね。


 先頭を歩いていた僕は歩みを止めて地面を見下ろす。

 それにつられてグレイ達も足を止める。どうして前衛職でない自分が先頭を歩くのか・・・それがこれだ。


「罠だね」


 不自然に凹んだ地面をじっと眺めた後、周りに何か不自然なものがないかを調べる。

 幸い周囲にはこれといって罠の類はなかった・・・とするならば、この罠は「落とし穴」である可能性が高い。

 一階層~十階層までは普通の落とし穴だけど、それ以降になってくると針や熱湯・・・もっと下になると剣や槍、毒沼等が落とし穴の底に仕込まれていることがある。


 僕は全員に下がる様に伝えて、恐らく落とし穴であるだろう罠から距離を取る。

 キョロキョロと辺りを見回し、手頃なサイズの石を手に取って罠へと放り投げた。


 放られた石は綺麗な放物線を描き、凹んだ地面へと落ちる。

 すると突如として、その場所に大きな穴が出現する。深さは三メートル程で、落ちたら鈍痛が体をさいなむことだろう。打ち所が悪ければ骨折もありうるだろう深さだ。


 一連の罠の発動を確認して、もう一度周囲を見回して異常がないことを確認し、落とし穴を迂回して先に進むことに決めた。

 ダンジョンにはこのような仕掛けがいくつも存在する。他愛のない仕掛けから、命を奪う凶悪な仕掛けまで多種多様だ。


 もし罠に引っ掛かっても、ヒーラーのカレルがいる僕らにとってはまだましではあるが、他の冒険者パーティーにとっては生死を分ける事態になりかねない。

 僕らも「まだまし」というだけであって、完全に大丈夫なわけではない。この階層であるならば、罠に掛かっただけでは万に一つも死ぬような事はないけれど、それに不測の事態が重なれば別である。

 そんなことにならない様、しっかりと警戒することが重要だ。


「そういえば、皆あの噂知ってるか?」


 罠についてを自分に言い聞かせながら歩いていると、グレイがそんな事を口にする。

 足を止めて、グレイの方を振り返ると、何かを考え込む様にして眉を寄せている。


「何の噂なんだ?」

「噂なんて下らない事を言い出さないで、周囲の警戒を最優先にして」

「あ、えっと、私は気になるかな?」


 テムの冷たい言葉に項垂れたグレイに、すかさずフォローを入れるカレル、カレルの言葉に気を取り直したグレイが口を開いてその噂の内容を告げる。


「なんでも、カナンって街で黒翼って組織がなくなったらしいんだ」

「街の兵士か冒険者がやったのか?」

「それが違うみたいなんだ。結構大きな組織だったらしいけど、一夜にして壊滅したんだと。しかも、街の住民に被害はなかったらしい」

「はぁ・・・所詮根も葉もない噂でしょ?」


 またまたテムの冷たい言葉にまた項垂れるかと思ったが、グレイは得意げな顔をしてテムを見下ろした。

 そして続く言葉に、テムも言い返せなくなってしまったのだ。


「その噂の出処がどうも『風の導き』なんだよ」

「む・・・」

「だけどなぁ・・・その次が信じられないんだよ。たった数人の冒険者がそれを成し遂げ、街の上空に突如として現れた謎の魔物に『金色』って二つ名を持った人が一撃で倒した・・・なんてのがあるんだよ」

「流石にありえない。でも・・・噂の出処は確かに風の導きの方々なの?」

「結構筋のある所から仕入れたから間違いないと思うぞ」


 グレイは腕っ節の良さから、小さい時から街のあちこちで働いていた。

 その時にできた交友関係から、色々な役に立つ情報から色物の情報まで仕入れることができ、僕らもその情報のおかげで助かった場面も数多くある。

 それにグレイがいった「筋のある所」であるならば、情報は「真」である可能性が高い。


「風の導きのメンバーは、その『金色』って人と会ったことがあるってのも聞いたな」

「・・・『金色』って人の噂は他にないの?」

「うーん・・・それがあんまりなくてなぁ。噂が噂なだけに真偽がわかんないらしい」


 グレイはそれを考え込んでいたわけだ。

 でも、それが本当であるならば、その人はAランク以上の冒険者だろう。

 そんな芸当ができるのは英雄の領域にいる人達で間違いない。


「俺もその人みたいに強くなりてぇよ」

「頭が足りないから無理よ」

「・・・ひでぇ」


 泣き始めたグレイを何とか慰めていると、カレルが何かを見つけたようで僕らを呼んだ。


「ねぇ皆! 壁に扉があるよ!!」


 カレルの元に駆け寄ると、そこにはダンジョンには不自然な扉があった。

 ボス部屋に繋がる通路には扉があるものが存在するらしいが、明らかにその類いの物ではない。ボス部屋に通じる部屋はもっと重厚な扉であるからだ。


 とするならば、これはダンジョンの中に稀に存在する宝の部屋で間違いない。

 宝の部屋にある宝箱には、魔物が落とすレアドロップよりも、ダンジョンに素のままで置かれている宝箱よりも良い品であることが多い。


 グレイは喜び勇んで扉の方に駆け寄ろうとするが、テムに足を掛けられてスッ転んでいる。

 無用心に近づくのは勿論危ないし、賢明な判断ではあるけれどもっと穏やかに止めてあげればいいのに・・・。


「落ち着いた方がいい、ボアタウロス」

「誰がボアタウロスだ!!」

「猪突猛進で脳筋って貴方にそっくりだと思うの」


 また仲良くやってる二人を尻目に、扉を調べ始める。

 扉に仕掛けられている罠には、かなりの種類の罠が存在する。例えば大雑把に分ければ、扉の前に立つと発動する罠、ドアノブを回すと発動する罠、中に入ってから発動する罠の三種類である。

 他にも宝箱を空けると発動する罠もあるらしいが、それは十五層付近から出現するらしい


 宝の部屋に通じるだけあって、低層でも中層付近の罠が仕掛けられている場合がある。

 一攫千金を狙って不用意に扉を潜ろうとすれば、一瞬にして死んでしまうと言ったこともあり得る。


 普通の冒険綾であれば、罠に掛かるリスクを背負い、扉を潜る事になる。

 しかし、僕らパーティーはそのリスクがかなり軽減される。


「盗賊」のジョブを習得している僕にとっては、罠を見破ることや解除する事は専門分野である。

 それに、もしも解除しきれなかったとしても、ヒーラーであるカレルがいれば怪我をしても治して貰える。


 扉の前には罠の類いはなかった。

 ドアノブにも変な細工はなく、恐らく罠は仕掛けられていない。


 わからないのは部屋に入った時に発動するものだけど、その点も僕がまず先行して入ればリスクは減る。

 もしもの時はスキル「扉渡り」を発動すれば、逃げる事くらいは出来る。


「それじゃあ僕が先に入る。皆は僕が合図したら入ってきてくれ」

「おう、わかった」


 ドアノブに手を掛けゆっくりと回し始める。

 然したる抵抗もなくすんなりと回っていたドアノブは、規定の位置に達したのかカチリという小気味の良い音を立てて、ドアの抵抗が緩くなる。


 グレイ達の息を飲む音が聞こえる。

 僕はドアを潜り部屋の中へと足を踏み入れる。


 今まで歩いていたダンジョンの通路とは違って、硬い岩盤に覆われたその部屋は広く、そして綺麗に整地されていた。

 ヒンヤリとした部屋の中は不気味なまでに静まり返っており、一見すれば何もないタダの部屋のように見える。

 しかし、その部屋の奥・・・中央には装飾が施された宝箱が鎮座している。


 辺りを観察してみるが、特にこれといって変わった場所はない。

 いつもなら大丈夫だと歩みを進めていたところだろうけど、ここは宝の部屋・・・つまり罠のレベルも今ままでのよりも格段に高くなっているはずである。


「スキル:『感知』」


 身体から少々力が抜けるのを感じながら発動したスキルは、自分の視界に映る周囲とは違った部分を感知するといったスキルだ。

 全部を感知できるわけではないが、自分のレベルと並行して少々レベルの高い罠なども感知できる優れものだ。背の高い草に隠れたり、擬態している魔物なども感知できる。

 これには何度助けられたかわからない。


 すると、視界に映る宝箱よりも少し手前の地面に何かを感じる。

 近くにそっと寄ってみると、薄くではあるが何かが地面に刻まれているのが分かる・・・間違いなく罠である。


 それも魔法陣を媒介にする厄介な類の罠だ。

 魔法陣を使用する罠はかなり危険なものが多く、盗賊の上位職業か付与魔法を扱える一部の魔法使いでなければ解除することができない。

 後は発動すれば消えるが・・・魔法陣の罠を発動させるのは非常にまずい。


 幸い罠は狭い範囲であるので、中央を通らずに迂回していけば宝箱を開けることは出来る。

 一旦部屋を後にしてグレイたちに部屋の状況を伝える。

 結構広い部屋に中央より少し奥に宝箱が一つ、しかしその手前に魔法陣を使用する罠があるということを伝え、全員で扉を潜る。


 一応他の罠がある可能性を考えて、なるべく僕の踏んだ位置を歩くように言ってある。

 魔法陣の罠を大きく迂回して進み、宝箱の前で僕らは歩みを止めた。


 宝箱に罠が仕掛けられていないことを確認してから、僕らは息を呑んで宝箱に手を伸ばす。


 そして


 僕らは突如背後から降り注いだ光に、反応が遅れてしまった。


「え?」


 カレルがそんな声を上げて、後ろを振り返る。


 可憐の背後に赤々とした光・・・メラメラと燃え盛る業火がカレルの眼前へと迫っていた。

 カレルはそれを避けようとするが、既に遅い。


 咄嗟にカレルを突き飛ばした自分の体に業火が直撃する。

 一瞬目の前が真っ赤に染まり、次いで体中を激痛と熱気が駆け巡る。


「アアアアアァァァァァ!!」

「あ、え」


 激痛にのたうち回る僕に、グレイ達は一体何が起こったのかと呆然としている。

 しかし、全員が後ろを振返っているその視界の中に、それは現れた。


 襤褸切ぼろきれを纏い、杖を持った、醜悪な顔を持ったゴブリンがそこにはいたのだ。

 どこから現れたのか、どうして一瞬にして攻撃されたのか、罠が発動したのか・・・そう言った考えが頭を支配する中、口から悲鳴に近い声を上げながらグレイ達に告げた。


「でぎだッッッ!!!!!!!」


「敵だ」と叫んだつもりだったけれど、喉から漏れたのは掠れに掠れ潰れた声だった。

 けれど、グレイ達には運良く届いたようで、グレイは即座に剣と盾を構え、テムは槍を構える、カレルは半ば呆然としていたがハッと意識を取り戻すと、目尻に涙を溜めながら僕に回復魔法を掛け始めた。


 そして、僕らに降り掛かった悪夢は不意打ちだけでは終わらなかった。

 ゴブリンの・・・ゴブリンメイジ?が立っている場所は、僕らがわざわざ迂回するハメとなった原因の魔法陣の上だった。


 魔法陣は突如として赤い光を帯び始めると、地面から何十体もの魔物が浮かび上がってくる。

 そしてグレイ達の顔から一気に血の気が失せる・・・低層最悪の罠である『モンスターコール』を引き当ててしまったのだ。


 モンスターコール・・・それが発動すると何十体もの魔物が一気に押し寄せ、その圧倒的な量によって冒険者を押し潰す。

 モンスターコールによって呼び出される魔物は何層か上の魔物ではあるが、それでも脅威であることに変わりはない。


 現れたのは何も装備していないコボルドとゴブリンの群れ、それが一斉にグレイ達に襲い掛かった。


 グレイは迫り来るコボルド三体を一刀で薙ぎ払ったが、流石に三体ものコボルドを吹き飛ばせば返す刃に威力が篭らない。切り返した刃は続いて迫ったコボルドに当たって止まり、横合いから襲い掛かったコボルドに一撃を貰ってしまう。

 いつもなら、テムの援護があるはずなのだが・・・テムの方にも大量の魔物が押し寄せているのだ。


 グレイは痛みに顔を歪めながらも、もう一撃と剣を振りかざすが何かに気づいたのか咄嗟に盾を構えて身を縮ませる。

 すると、魔物の間を飛来した業火がグレイの盾に直撃する。盾を回り込んでくる熱風にチリチリと身を焼かれ、呻き声を上げるグレイだが、ポーチからポーションを取り出して迷わず飲み干した。


 回復は今、僕に向いている。

 普通なら前衛のグレイとテムに回復を当てなければいけないが、自分がこの有様であり回復が止まれば・・・死ぬ。

 だけど・・・だけど


「も、もういい、僕はいいからグレイとテムを・・・」

「そんな事できない!!」


 カレルは僕に回復することをやめようとしない・・・普段なら嬉しいけれど、今この状況でそれをしてしまえば、全員死んでしまうかもしれない。

 それならグレイとテムを回復しなければ、何れ力尽きてやられてしまう。


 敵には恐らく稀少種のゴブリンメイジもいる。魔法が飛んでくる中で大量の魔物と戦える程、僕らは強くない。

 非常用のポーションもグレイは飲んでしまったし、テムの方もそろそろ体にガタが来はじめている。ポーションが無くなってしまった二人に、あの魔物達をどうにかする術はない。


 なら、カレルが二人を回復しないといけないのだけど・・・まさかこんな所でパーティーの穴を見つけてしまうなんてね。


「皆・・・死んでしまう」

「でも・・・でも!!」

「うわッッッ!?」

「うッッッ!?」


 グレイが剣を弾き飛ばされ、業火によって脆くなっていた盾が砕かれる。

 テムの槍が何匹ものコボルドに掴まれ、身動きができなくなってしまう。


 そして、まだ多く後ろに控えていた魔物がこれ幸いと一斉に襲い掛かり、ゴブリンメイジの手元に赤い炎が揺らめいていた。


 死ぬ


 そう思った時だった。


 目の前にいた魔物達が突如として視界から消え失せる。いや・・・上へと舞い上がった。


「な・・・に?」

「もう大丈夫だからね」


 僕らの目の前に立ったのは、金色の髪を揺らし、その顔に微笑を讚える天使だった。

 絶世の美女・・・目を奪われ、一切の思考ができなくなる程に、美しい人がそこに立っていたのだ。


「遅れてごめんね。直ぐに助けてあげるから」

「え・・・あ・・・え?」

「あ・・・?」


 天使がゆっくりとした足取りで、こちらへと歩みを進める。

 焼け爛れた僕の体に手を翳すと、身体が光に覆われて痛みがどんどんなくなっていく。爛れた皮膚が治癒していき、喉の痛みも引いていく、暗くなっていた視界に光が戻ってくる。


 そして気づくと、痛みは既になくなっていた。


 天使はニッコリと微笑むと、背後の魔物達へと振り返る。


「て、天使さん!!」


 僕は反射的に出たその言葉を目の前に立つ人物へと叫んだ・・・。

 光が戻った視界に映ったゴブリンメイジの杖から、業火が吹き出したのだ。それはまっすぐと天使に向かって、天使に当たるかと思われた瞬間に消え去る。


 天使は僕の方に振り返ることもせず、ゆっくりと手を挙げて目を瞑る。

 腰を低く落として、何かを小さく呟くと・・・突き出したてのひらに巨大な水弾が出来上がった。


 天使の掌から、裁きの魔法が放たれた。


 ドンッッッ!!


 という轟音と共に、ゴブリンメイジに直撃した水弾は、ゴブリンメイジを一撃の元にバラバラに粉砕し、反対側の壁へと直撃する。

 空中へと舞い上がっていたコボルドやゴブリン達は・・・気づかないうちにバラバラになり地面へと鮮血を降り注がせていた。


「はぁ・・・ミリエラあまり無茶しないの」

「ご、ごめんなさい」


 天使の横から、別の人の声が聞こえた。

 長い赤色の髪に、切れ長の目に鳶色の瞳を宿した女性が、何者かの血で赤く染まった剣を片手に持って佇んでいた。


 やってきたほうを見ると、そこには呆然とするグレイとテムがいた・・・どうやら、天使に気を取られて気付かなかったけれど、グレイとテムを助けてくれたのはこの女性らしい。


 大きく溜息を吐いた赤い髪の女性は、チラッと僕達を見ると、口を開いて告げた。


「秘密にしてもらえるかしら?」


 その一言に僕らはコクコクと頷き、未だに現実に戻ってこれない頭の中で二人の女性を見つめる。

 そして、一つ頭の中に文字が浮かんだのだ・・・。


『金色』


 天使の髪の色はまさに『金色』・・・まさか、これが噂の金色。

 そう思った時には、二人の女性は扉を潜って消えていったのだ。


 後には手つかずの宝箱と、呆然とする僕ら、大量の魔物の死体だけがその場に残っていた。



  -------------------------------------------------・・・



 あれから、僕達はダンジョンから直ぐに脱出し、借りていた宿屋へと戻っていた。

 大量の魔物に襲われ、剰え魔物が放った魔法の直撃を食らってしまった僕のせいで、皆を危険に晒してしまった。


 そして、いよいよ魔物の牙が自分の喉元へと突き立つ・・・そう思った時に、目の前に天使が舞い降りたのだ。


 薄暗いダンジョンを眩く照らし出す金色の髪、すらっとした手足、此方を見つめる蒼い瞳は僕の心を全て見透かすような、お伽噺から出てきたような人物(・・)であった。


 治療院で傷を治すまでもなく、大火傷を負っていた身体には、健康的な肌が見えており、皆も裂傷を負っていた筈の身体には傷一つ無かった。

 ダンジョンに入る前・・・どころか、冒険者になる前よりも綺麗になっている。


 部屋の中に入ってからというもの、僕らは一度も会話を交わしていない。

 皆、夢の中から醒めない様に、一様にボーッとしている。


 そんな状況が続く中、最初に口火を切ったのは、やはりグレイであった。


「なぁ、夢じゃないよな?」


 その言葉に、全員がグレイに視線を向け、これまたやはりと言っていいのか、テムが容赦なく頬をつねる。


 悶絶するグレイを他所に、テムもカレルも思う所は同じなのか考え込んだ表情を見せる。


 あの人達は僕らを助けた後、宝箱の中身を持って行くこともなかった。お礼を受けとることもせず、颯爽とその場から姿を消してしまった。


「『金色』はきっと彼女なんだと思う」


 そう言った僕に、皆は頷き返す。

 カナンに現れた英雄・・・カナンに巣食っていた組織を一夜の内に潰し、巨大な魔物を一撃で屠った謎の人物。


 それに思いを馳せていると、テムが大きく溜め息を吐いて、己の槍をじっと見つめる。


「どうしたんだ? お前らしくもねぇな」

「・・・あの赤い髪の人、物凄く強かった。何十匹押し寄せても、剣に触れさせることなく、間合いの内に入らせることなく全部切り伏せていた。身体の軸もぶれず、太刀筋も完璧だった」


 テムは昔から英雄と呼ばれる者達に強い憧れを抱いている。

 武勇を誇る英雄達に憧れたテムは、小さい頃から教会の庭で教本片手に武術を磨いていた。

 その結果、グレイは一度もテムに勝てたことがなく、腕前はかなりのものだ。


 そして、ゆくゆくは帝都で開かれている「武闘会」に出場し、優勝するのが夢だと語っていた。

 その夢に向かい、日々研鑽を積み重ね、弱音を吐くことなど一度もなかったのだが・・・。


「あんな風になれるのが想像できないわ」

「そんなことわ・・・」


 皆、あの時の自分の姿を思い浮かべる。

 魔物に圧倒され、何も出来なかった自分達。それを瞬く間に一掃した彼女達の姿を瞼に写す。


 笑いながら背を向け、英雄の後ろ姿を僕達に焼き付けたあの姿・・・辿り着くには自分達にはまだ遠すぎる。


 でも


「いつか越える。『風の導き』も『金色』も」


 そう告げる。

 皆は驚いた顔を見せながらも、苦笑を漏らしながらも頷く。

 テムも自信を取り戻したのか、グレイの頬をつねる力を一層に強める。


「イダダダダ!!!!」

「あの・・・そろそろ」

「あぁ、忘れてたわ」


 (ようや)くテムから解放されたグレイは、少しばかり悪態を吐いてから、何かに気付いたのか、グレイは袋からある物を取り出す。


 それは僅かに魔力を帯びて、仄かな輝きを発する石。

 掌から少しはみ出すくらいの石は、何に使うのかも良くわからず、それに助けられ手にいれたものをどうこうするというのも気が引けた。


「これどうするよ?」

「・・・あの人達に返そうにも、居場所も分からないし」

「だよなぁ・・・あん?」


 トントン


 皆でどうしようかと話し合っていると、部屋の扉が叩かれた。

 誰だろうかと全員で顔を見合わせ、リーダーである僕が見に行くこととなった。


 宿の主人が来たのか・・・でも、夕食もとってないし、お湯も頼んでいない。


「はい?」

「・・・」


 扉を開くと、そこには一人の子供がいた。

 自分よりも背が小さく、長い髪は顔を隠し、その相貌はわからなう。


 ゆっくりと、子供が上を向く。


 眼が合った。闇色に輝いたその瞳に、僕の瞳が合わさった。


 そして・・・その瞬間、僕の意識はそこで途切れた。

不穏な空気が漂ってきましたね・・・。


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!


※活動報告がどうやったら見れるのかわからなかったと読者様から聞き及びました。

方法は一番上にある?「作者:砂漠谷」の名前を押していただくと、私は左上に出てきました。


わからないことがございましたら、どんな些細なことでも構いませんので質問送ってください!!

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