王都:ヴォルドス騎士団でした!
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静かな邸宅の一室へと通される。
ふんわりと包み込むかの様に、自分を迎えたソファーに若干驚きながら、そう言えばこんな物もあったな、等と思い始める。
久しぶりに見る、見事な調度品の数々に溜め息をついていると、給仕の女性がほんのりと湯気を立てる紅茶を静かに置く。
軽く一礼し、装飾が施されたティーカップに口をつける。
音をたてず、静かに紅茶を口に含むと、余程良い葉を使っているのか上品な甘さが口いっぱいに広がる。
堪らずホゥッと息を吐き、紅茶の甘さに暫く酔いしれる。
思えば、こんな美味しい紅茶を飲んだのは何時以来だろうか・・・。
騎士であった時の私は毎日こんな贅沢をしていたと、今頃になって思い出す。
贅沢を贅沢だと思っていなかったあの頃、今まで当然だった世界を飛び出し、冒険者となって数日、住んでた世界との差に愕然としたものだ。
自分が質の低い紅茶として飲んでいた物は、どう足掻いても手が出ない代物であり、質の良い物だと雲の上の品だった。
何度も命を懸けて依頼をこなし、漸く買えるかどうかという品であった。
そんな事はまだ序の口だ。
食べ物は口に合わず、当時は味なんてものを殆ど感じることができず、唯腹を満たすだけの命を繋ぐ作業となっていた。
それでも、そんな生活に耐え抜いて、一年も経った頃には慣れた。
味のしなかった料理も、なんとか美味しく食べれるようになり、まともに生活を送れる様になっていた。
慣れるまでは地獄そのものであったけど・・・。
「うーん、ユガもこんな気持ちで食い道楽を続けているのかしら?」
そんなことを考え紅茶に舌鼓を打っていると、廊下へと繋がる扉が無造作に開け放たれ、部屋に一人の人物が入ってくる。
身長は私よりも頭一個分高く、服の上からでもわかる鍛え抜かれた身体、鋭い目付き、口元に綺麗に揃えられた白い髭、堂々たる偉丈夫を晒した初老の男性がそこに立っていた。
「アタライ様、お久しぶりです」
「ふん。レェベン家の者に『様』をつけられると気色悪い。アタライでよい」
そう言い放ったのは、ヴォルドス家家長であり、ヴォルドス騎士爵を持つ王国貴族、『テオドラ・フォルティ・アタライ:ヴォルドス』その人である。
大きく無骨な板金鎧をその身に纏い、長剣を振り翳し、戦場を駆けては敵陣の一端を薙ぎ払い、屍の道を築き上げる様から、対立した国から「人を食い散らかしている」と言われ、ついた名前が『暴れ熊』である。
今は初老を迎え、若かりし頃よりは随分その鳴りを潜めたそうだが、今でも現役として騎士を続けている。
貴族としての権力は持ち合わせてはいないが、国内でも有数の騎士を育て上げる有力な騎士爵である。
「・・・」
「・・・」
アタライは前の椅子に腰掛け、こちらをジッと見つめる。
互いに沈黙を貫き、腹を探り合う。
どういった情報が欲しいのか、自分にとって不利でない情報を相手に伝えるには何をどう話せばいいのか、相手から得たい情報をどうやって引き出すかを考える。
しかし、王国で長年騎士として仕えてきた者に、私のような半端者が腹の探りあいで敵う筈もない。
無理に腹を探って、痛い所を突かれるばかりか印象を下げる様な事をしたくはない。
観念したように口を開き、告げる。
「何が聞きたいですか?ここまで来たのですし、正直に話します」
「ふっ、無理も腹を探ると印象を下げると踏んだか?」
やはり、思考が読まれていた。
どう足掻いてもこの男に口上で勝てる気がしない。
「まぁいい。聞きたい事は特にない。お前が家を飛び出した理由も知っている」
「・・・」
「まぁ、子供だな。癇癪を起こして、唯々(ただただ)我儘を言っている尻の青いガキの様だ。実際お前の剣で何が守れた?何が変えられた?お前は何を変えた?」
反論できない。
騎士とは常に弱者の味方であり、所為英雄の様な存在・・・な訳がない。
大を生かし、小を殺す。王国の守護の為に全力を尽くし、王に忠誠を誓うべき存在。
今の自分は、青い夢を抱き信じていた頃の自分とは違う。
それでも・・・一度刻み込まれた信念を覆す事は自分にはできなかった。
「返す言葉もございません」
「・・・」
「それでも、私はその信念を折る事はできません。この二年、狭い檻から抜け出し、この目で様々なモノを見てきました」
一度は沈んだ信念に火を灯す。
瞳に浮かぶ憧憬に、いつか自分はなって見せると。
「多く民が苦しんでいました。全部は救えない・・・目の前で散っていた者もいました。無力である自分に嫌気がさした事もあります。それでも、私は憧れの騎士で居続けたいのです」
あの時、ここに来る前にユガは言った。
『貴族は見栄を張り、権力を引き入れる。どんな綺麗事を言っても、貴族はそんな生き方しかできない』
『でも、俺はそんな生き方よりも、サテラが誇りに思った騎士の方が好きだよ』と。
まさかスライムに諭されるとは思っていなかったけれど、それは私の心に届いた。
「・・・それがお前の答えか?」
「はい」
アタライは目を閉じ、顎を撫でる。
そして目を開き、こちらの瞳をじっと覗いてくる。私の内の全てを見透かそうとするその瞳に、嘘はないと信念をぶつける。
「ふっ」
アタライの口がわずかに開かれ、息が漏れ出る。
「ハハハハハハハハハ!!」
豪快に笑い始める。
大きな手を打ち鳴らし、愉快に痛快に笑い始める。
面白いものを見るような目で、私の顔を覗き込み、大声をあげて笑う。
しかし、嘲嗤っているのではない。
心の底から、素晴らしいものを見たと言わんばかりの笑い声、強い眼差しに射抜かれる。
とは言っても、自分の信念を笑われるなんて、良い気はしない。
「な、何が可笑しいのですか!?」
「フハハハ!いやいや、すまんな、若かった頃を思い出しておったのよ、まさかここまで愚直だとはなぁ、いけ好かないレェベン家の者がなぁ・・・ゥフワハハハ!!!」
最後には腹を抱えて笑いだしたアタライに、思わず胸元にしまっていたナイフを引き抜き、斬り掛かろうとした所で、すまんすまんと笑いを止める。
私は真っ赤になった顔で、ウゥーと唸っていたが、真面目な顔に戻ったアタライに毒気を抜かれてしまった。
「これだから騎士というモノは良いな。昨日までは雛だった者が、一度死線を潜り抜ければ羽ばたいていく。これが老兵の楽しみというものだ」
慈愛の笑みを顔に浮かべ、此方へと歩み寄ったアタライは無造作に頭を撫で擦る。
凹凸の激しいゴツゴツとした手に、頭をかき乱され、一瞬目眩を覚えるが、不思議と嫌でない。
「だが、けじめだけはつけろ。いいな?」
「わかってます。しかし、今暫く待って欲しい・・・ちょっと野暮用が」
ふむ、とアタライは顎を擦る。どうやら癖のようだ。
何かを思案したような表情を浮かべ、こちらをジッと見つめてくる。
「それは一緒に居た奴等に関係する事か?」
「・・・まぁ、そうですね」
今はユガを捜索しているのだ。
変な事には巻き込まれていないと思うが、万が一という事もある。
恐らくダンジョンに潜っているとは思うのだけれど、今日は見つからなかった。もっと下層に行った可能性が高い。
「実は人探しをしていまして・・・背が私と同じくらいで、黒っぽい髪に瞳を持った人を知りませんか?」
「ふむ・・・何時頃いなくなったのだ?」
「つい先日です」
「・・・特にスラムも動いていないな。それに黒い髪に瞳を持っているなら、直ぐに見つかるのではないか?」
「それなのですが」
ダンジョンに潜った可能性をアタライに告げる。
何処の国の騎士でも鍛錬にはダンジョンを使う。常日頃戦争をしているわけでなく、地上で出来る訓練の過程をある程度収めると、次はダンジョンに潜る事になる。
ダンジョンの中で魔物と戦い、命を失う危険と隣り合わせになる事で、心身共に鍛える事ができる。
中には死んでしまう騎士も勿論いる・・・ヴォルドス家も先ほどのダンジョンの戦闘で何名か命を落としている。
まぁ、そんなわけでダンジョンに潜っていたのなら、ユガの姿を見たのではないかと思ったのだけど。
「すまないな。今回のダンジョン遠征は未熟者達を鍛える為に出たものでな、深い階層には行っておらん」
「そうですか・・・」
そんなうまい話はないという事だ。
もしかしたらという望みに掛けてみたが、やはり見ていないらしい。
ほんとに一体何処へ行ったのやら。
「それにしてもだ。お前の仲間達は一体何者だ?あの嬢ちゃんはポーション並みの回復魔法を扱える。通路を見張っていた奴等は化物じみた強さだ」
「・・・」
「そして、お探している人物というのは、話を聞いている限り一人でダンジョンに潜ったのだろう?だというのに、お前もその仲間も全く動揺していない」
どうしよう・・・アタライの追求を逃れられる気がしない。
ミリエラはエルフで、あの四人は実は「四匹」で魔族で、探している人物は巷では「金色」と呼ばれているベヒーモスをたった一人で屠った魔族なんです・・・なんて言えるわけがない。
力量で言えば、Bランクの冒険者を簡単に捩じ伏せる事から、間違いなくAランクには到達しているはずだ。
しかも、ミリエラの正体が実はエルフだなんて知れてしまえば、大事になる可能性だってある。長い年月人との交流を断ち、存在さえが危ぶまれているエルフがこんなところにいるだなんて。
しかし、こちらの瞳をジッと見つめ続けるアタライを回避する術を私は持ち合わせていない。
どうすれば・・・。
と、考えると。
「・・・!!」
「・・・・・・!!」
「・・・・・・・・・!!」
何やら、外が騒がしい。
騎士爵の家は王都の中には殆どない。唯一の例外はレェベン家であり、王国騎士を纏める存在として王城の直ぐ近くに邸宅が構えられている。
他の騎士爵を持った貴族達は、王都周辺に居を構え領地を持っている。
ヴォルドス家もその例に漏れず、偶々豊穣のダンジョンの近くに合ったのだ。
その領地は、騎士達の宿舎として利用され、馬の育成や農業等も行われている。
騎士達はその周辺の平野で訓練を行い、訓練と共に治安維持も行っている。
そして今も、その訓練に励んでいるはずであり、訓練の活気等が伝わって来ることはあると思うが・・・窓から漏れ聞こえる声はどこか騒がしさを感じるのだ。
アタライはすまない、と私に了承を取ってから、傍に置いてあった鈴を小さく鳴らす。
すると、扉が三度ノックされ部屋に妙齢の侍女が入ってくる。
「お呼びでしょうか?」
「外が騒がしいようだが、何があった?」
「えぇっと、お連れの方々が・・・」
次女の女性が私の方を申し訳なさそうな目を向ける。
嫌な汗が背中を伝い、口元が引き攣る。
アタライも何となく事情を察した様で、腰掛けていた椅子からゆっくりと立ち上がる。
それに私も応じて、ゆっくりと腰をあげる。
一縷の望みにすがりながら、廊下へと出る。
生きた心地がしないまま、アタライの後ろをついていく。
大きな広間を抜け、外へと続く扉を潜る。
まだ陽は高く昇っており、部屋の灯りに慣れていた目を日光が貫く。
丘の上に建てられた邸宅からは、ヴォルドス家が管理する小さな街を眺めることができる。
そして、その邸宅の横には騎士達の訓練場があり、その直ぐ近くには騎士達の宿舎がある。
訓練場へ目をやれば、何やら人だかりができており、どう見ても騎士達が訓練をしている様には見えない。
気合いの入った訓練の声でなく、中心からは大きな歓声が上がっている。
アタライは額に青筋を浮かべ、ゆっくりと訓練場へと足を進める。
その姿を早期に発見した騎士は、さも自分は関係ないですよと言いたげにそそくさとその場を離れようとするが、アタライに視線で射ぬかれ、その場から去ることができない。
しかし、さすが騎士。
中にはそのアタライの姿を認めても、関係ないと言わんばかりの傲慢な態度で、中心へと視線を戻す者もいる。
それには流石にアタライも動揺を隠せず、眉間に皺を寄せ、顎を擦る。
騎士達の数は大凡300人。
それが取り巻くようにして、中心へと視線を注いでいるのだ。
そして、やっとアタライの姿に気づいた騎士達は、そっと道を開ける。
自然と人混みは割れて行き、その中心の全貌が明らかとなる。
中心にいたのは、三人の騎士と一匹の人間。
両者は互いに相対しており、一寸の隙も伺えない。
騎士達は板金鎧に身を包み、刃を潰した訓練用のロングソードとヴォルドスの紋章が入った盾を構えている。
刃を潰しているとはいえ、鎧がない場所を斬られれば大怪我を負うのは間違いない。
それに騎士達が纏う雰囲気は、戦場で敵と対峙している時の気配そのものであり、騎士達が本気で目の前の一匹を倒そうとしているのがわかる。
だというのに、そんな殺気だった騎士達を前にして立っているのは、私よりも小柄な体躯、短い手足に小さな顔、クリクリな瞳は騎士達を見据え、揺るがない。
纏う気配も飄々としたもので、三人の騎士を、それも殺気だった騎士達を相手取っているとはまるで思えない。
そして、それは女。
いや、女の子だ。
後ろには大きな体躯の男が控えているが、興味がないのか、明後日の方を向き、欠伸なんかを漏らしている。
両者は動こうとしない。
互いに膠着状態が続き、その空気に呑まれたのか、周りの騎士もアタライでさえも戦いの熱気に黙り込んでしまう。
やがて、膠着から脱し、攻撃の口火を切ったのはヴォルドスの騎士達だった。
三人は唐突に駆け出した。
その姿はまるで空中に溶けたかの様に掻き消え、次の瞬間には小さな少女の前に躍り出ていた。
ロングソードを振りかぶり、少女に降り下ろさんと力を込める。
しかし、そのロングソードは宙を斬ることもなく、唯、ヒシッと手首を掴まれるに終わる・・・。
と思われたが、手首を掴まれた騎士は、何かの冗談の様に上空へと投げ飛ばされる。
だが、残りの二人はそれを知っていたのか、左右それぞれから剣撃を叩き込む。
これは避けられない。
そこにいた誰しもがそう思った。
時が止まる。
鉄が空気を切り裂く音を発しない。
ピッタリとと制止した剣は、少女の細く小さな手で掴まれている。
「な・・・!?」
誰が発した声だろうと考える暇もなく、二人の騎士がくの字に折れ曲がり吹き飛んでいく。
仲間の騎士に抱き止められ、即座に後ろに運ばれていく。
そちらをみやれば・・・数十名の騎士が横たわっていた。
そして、少女は右腕を高らかに上空へと振り上げる。
その瞬間
おおおおおぉぉぉぉぉ!!
おおおおおぉぉぉぉぉ!!
おおおおおぉぉぉぉぉ!!
大歓声が上がる。
騎士達の拍手喝采と称賛の声が止まらない。
ある者は指笛を吹き、ある者は喜んで仲間と抱き合い、ある者は少女に近付いて頭を撫で擦っている。
張り詰めた糸が急に切れたことで、騎士達の溢れだす感情は際限無くこの場に広がり続ける。
「嬢ちゃんすごいぞ!さすがだ!」
「ほんと強いなぁ、ほんとに子供か?エルフなんじゃないか?」
「あいつらをよくぞぶっ飛ばしてくれた!嬢ちゃんはシルヴェルキア有数の騎士になれるぞ!!俺がアタライ様に推薦しよう。だから是非ヴォルドス騎士団に来てくれ」
「可愛い嬢ちゃんだな!飴をやろう!!」
「ほんと可愛いわ。私も子供が欲しいわねぇ」
「ゴリラテスみたいのが生まれ・・・オオフッ!!!」
「その武術はどこで師事されたんだ!教えてくれ!!」
「騎士が少女に負けるとは・・・世も末か」
「あうあうあう、モゴモゴ」
少女は多くの騎士達に囲まれ、揉みくちゃにされ、質問攻めにあい、動揺している最中に口の中に飴玉を突っ込まれ。
もはや収拾がつかなくなってしまっている。
後ろにいた二匹もどうしていいのやらと、手が出せないでいるらしい。
すると、アタライはスゥゥゥと息を吸い込み、目を閉じる。
何だか嫌な予感がして、後ろを向いて耳を塞ぐ。
「喝ーーーーーーーーーーー!!!!!」
ゴウッと空気が脈動し、おとが物質的な質量をもって迫る。
耳を塞いでいるというのに、身体の芯から震え上がり、手と足が言うことを聞かず、動く気配がない。
そんな怒鳴り声を真正面から受けた騎士達はたまったものじゃない。
失神して倒れ、その場から離れようともがき始め、慣れている者は盾で受けている。
後で知ったのだが、あれは「スキル:壊音」というものだそうで、魔物が使う咆哮の簡易版であるらしい。
「ーーーッッッ。ふぅ、で、何をやっとる?」
「はっ!訓練生にお灸を据えた所であります」
怒鳴り声が止むと、アタライは立ってる者を捕まえ事情を聴く。
立っていたのは盾を構えていた騎士の一人、屈強な体つきで身長はほぼアタライと変わりない。
訓練生は、簡単に言えば他の騎士爵領から派遣された見習いの事だ。
他の家の騎士達と足並みを揃え、いざという時の連携を強固なものにする・・・のが目的のはずなんだけど。
訓練生の騎士爵としての位が、訓練先の家の位を上回ると、途端に態度が横柄になったり、見下したり、酷い時には自分の領に吸収しようとする者さえいるのだ。
逆であれば下手に出て気に入られようとしたり、おこぼれを預かろうと必死になる・・・。
つまり・・・もはや連携の為の訓練ではなく、外交の場となってしまっている。
つまり、今回の訓練生もその例に漏れず、そういった態度をとったのだろう。
それも、周りの騎士達の様子を見るに相手の方が位が高かったのだろう。
「き、貴様らあああぁぁぁ!!」
すると、唐突に甲高い声が周囲に響き渡る。
耳に嫌に残るその声に、周囲にいた騎士達がうんざりとした顔を浮かべる。
何事かと声がする方向を覗き込もうとしたが、それをアタライの屈強な身体が遮る。
私の体は完全にアタライの陰に隠れ、あっち側からは見えなくなってしまう。
「我々は『レェベン騎士爵:訓練科生』なのだぞ!!こ、こんな事を」
背筋が凍る。
レェベン・・・確かにそう聞こえたのだ。
レェベン家の騎士がここにいるのだ。
アタライは目の前の騎士から私を隠す為に立ちはだかったのだ。
「レェベンの訓練生か・・・これは何の騒ぎだ?」
「うぐっ・・・」
アタライの凍てつく視線で見据えられ、訓練生は言葉を無くしてしまう。
陰からこそっと見てみれば、先程吹っ飛ばされていた騎士も・・・後ろに無造作に転がっている他の騎士にも、胸元にレェベンの紋章が輝いている。
少女・・・モミジちゃんと戦っていた三人は、こちらに背を向けていたからレェベンだと気づかなかったのだ。
「ふ、ふん。礼儀のなっていない者がいてな。それを叱責しただけだ・・・」
アタライは鋭い視線を訓練生に向け、次いで自分の側に立っていた壮年の騎士に視線を向ける。
壮年の騎士はアタライに事情を説明し始める。
それを話している最中にも、訓練生が血気盛んに口を挟んでいるが、アタライは聞く耳を持っていない。
聞く所によれば、訓練における指示を無視し、共に訓練を行っていたヴォルドス家の騎士を怪我させたらしい。
さすがの、ヴォルドス家も腹に据えかねたらしく、抗議したそうだ。
そしてそれをあの喚き立てている男が一蹴、決闘を申し込んだ。
これが問題なのだ・・・正式な決闘であれば全く問題ないのだが、そうでない場合の非公式な決闘になってしまうと問題が発生する。
もしも、相手方に勝ってしまえば恥を塗ってしまい、相手の家に遺恨を残してしまう。逆にこちらが負ければ、侮られ今の状況をより悪くしてしまう・・・受けなくても同様だ。
騎士の中では非公式の決闘を行ってはいけないというのが暗黙の了解であるのだが、意図してなのか、訓練生であるから知らないのか・・・決闘を宣言されたヴォルドスの騎士はそれを受けた。
そんな中で、行われた決闘である。
事情を知っているヴォルドスの騎士達は防戦一方で、徐々に疲弊していった。
そして遂にヴォルドスの騎士が倒れたのだが、それに不服を唱えたのが『ハルウ達』であった。
「どうしてあんな弱い人に負けてあげたの?」
「よく、攻撃を縛っていたのか?そうだとすれば、彼奴らの力量は拙いな」
「俺なら一撃で吹き飛ばせるがな?」
ハルウ達にそう言われた、訓練生は激昂。
そして今に至るのだそうだ。
途中までは、ハルウとナーヴィが戦っていたそうなのだが、終盤には卑怯にもモミジちゃんを指名したらしい。
小さな女の子ならいけるだろうと踏んだようだが・・・結果は惨敗である。
そして今に至る。
「あぁ、そうか。礼儀がなってないのはあんたらだったってわけだな?」
「何を馬鹿な!我々は!!」
「貴殿らは訓練生。ここの指導は部隊長に一任してある。」
「レェベンに逆らうのか!!」
・・・・・・・・・なんだ、腹立たしくなってきた。
私のいた頃の訓練生という者はこうでなかった。皆正義感に溢れ、将来は王国に仕え、立派な騎士となることを志していたはずなのだ。
それがこれだ。
騎士としての在り方はこんなものではない。
誇り高く、気高く、それでいて正義感に溢れた者でなければならない。
だというのに、この目の前のレェベンを名乗る者は、レェベンの家を盾に、ただ自分の私欲を突き通しているだけにしか見えない。
私は堪らなくなった。
腹の底からこみ上げる熱い物が出来ない。
このレェベンを名乗る・・・いや、騎士を名乗ろうとしている不届き者に不快感を覚える。
「ねぇ、鎧の予備はある?」
アタライの陰からスッと騎士達が犇めく中に入り込む。
「は?一応は予備がございますが・・・」
「私でも着用できる?」
「はい・・・あ・・・。承りました」
騎士は人の悪い笑みを浮かべ、静かにその場を後にする。
鎧の予備がないかを聞いただけなんだけど・・・まぁ、私の意図を汲み取ってくれたのだし、別にいいか。
アタライが冷静に状況を見定め、相手がこれ以上恥を掛かかない様に話をしているのだが、その意図を汲み取らない訓練生との言い争いはまだ続いている。
「お待たせ致しました。こちらなら、女性でも大丈夫だと思われます。剣は一般的なロングソードですがよろしいですか?」
「えぇ、大丈夫。ごめんなさいね」
鎧を持ってきてくれた騎士はにっこりと微笑んで、親指を立てる。
その顔からは、一発やってきてくださいと言わんばかりの、期待が込められている。
「我々はレェベンの!!」
「そこまでにして頂けないか?」
「ぬ?」
その場にいた全員の視線が、アタライの背後から響いた声の方へと集まる。
長く使われたのだろう、所々汚れている銀色の鎧。胸元には正式な騎士の証である王都の紋章はないが、ヴォルドスの紋章が輝いている。
一般的な騎士が装備している鎧よりは多少軽い鎧に身を包み、顔も兜に覆われ完全に見えない。
しかし、兜の隙間から覗く鳶色の瞳は、一直線にアタライの前へと佇む一人の人物へと注がれている。
アタライの様に威圧が含まれる目ではないものの、対面した者の心臓を貫くような澄んだ瞳がそこにはあった。
陽は雲に隠れ、辺りに影が落ちる。
「な、何の用だ!今はこいつと話を!!」
「騎士であるならば、剣で語れ」
男ではない高い声、耳に心地が良い澄んだ声が、騎士達の心を鷲掴みにする。
シャリンッという音共にゆっくりと剣が抜き放たれ、陽が雲に隠れてできた影を、鈍色の光が照らし出す。
見る者が思わずホゥと簡単の息を吐きそうな、美しく綺麗な構えを取る。
重さを感じさせず、水が流れるようにして剣が持ち上がる。
兜の口から、スゥッと息を吸う音が響き、ポツリと告げる。
「私を倒してみろ。見習い」
女は微かな笑いと共にそう告げた。
裏話
吹っ飛ばされた騎士達は、騎士に回収されて、鼻の下を伸ばしながらミリエラの元に運んでいます。回収する騎士は異世界ジャンケンで決まっております。
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!
※活動報告がどうやったら見れるのかわからなかったと読者様から聞き及びました。
方法は一番上にある?「作者:砂漠谷」の名前を押していただくと、私は左上に出てきました。
わからないことがございましたら、どんな些細なことでも構いませんので質問送ってください!!




