現状:森林騒乱③でした!
次話終章!! になるように頑張ります。
次話投稿は一週間以内です。
ユガの森・・・言い伝えでは1000年前に大精霊「ユガ」の奇跡によって形成された大森林だと言われている。
人魔大戦を経験したエルフ様方は己の使命を全うし、その苦難の生涯に幕を閉じた。
当時あったと言われるエルフの国は滅亡し、涙を飲んで必死に生き足掻いた先祖様が長い旅路の末に辿り着いたのが荒廃した森であったそう。
この老いぼれがこの森に生まれ落ちたのが・・・400年位前じゃったかの?もう覚えとらんな。
その頃には、その先祖様方はいなかったが、それの子達はいた。その子達より産まれたのがこの老いぼれじゃが、いつもいつもエルフの生き方を耳にタコが出来るくらいに言い聞かされたのを今でも覚えておる。
今となってはそれが如何に重要なことであったかを思い知らされるばかりじゃが、当時の儂はそんなことは露知らず聞くふりだけしていたものだ。
如何に人間が醜いのか、如何に魔族が冷酷なのか、如何に魔物が脅威なのか。
先祖様が残した歌と詩には、その恐ろしさがまざまざと記されている。
記録を残すための書物なぞ国から逃げ出した時に消え、そんなものを持つくらいなら食料を持って追手から逃げる日々を送っていたそうだ。そして、後世に語り継ぐ方法として残されたのが歌や詩だったというわけだ。
国から逃げている最中に降り懸かる脅威は人や魔族だけじゃない。昼夜問わず魔物達から襲われ何人もの同胞達が無残にもやられていったという。
人や魔族よりも脅威となるのは魔物。その恐ろしさを胸に生きて来たつもりであったのだが・・・それは本当につもりだったようだ。
今になってその恐ろしさが分からされたのだ。
目の前に忍び寄る明確な脅威・・・「オーク」という魔物の標的がエルフに定まった事に儂は狼狽した。
それでもまだどうにかできると思っていた儂は本当に馬鹿だった。
いざ戦場へ駆り出さんと老骨に鞭打って出たはいいものの、儂の考えは戦を知らない童であった。
奴らの突撃に手を拱く事しかできなかった。
先祖様が残した歌にもあったのだ・・・「犠牲の上で生かされた、生き恥を晒してまで私達は西へ西へ」と。
歳は離れど長年儂を支えた親友アレデュルクという犠牲を払い、儂は生き残らんとした。生き恥を晒してまで、大を生かそうとした。
間違ってなどいないのだろう。それこそが最良の選択だったのだろう。しかし、そんなもの己の心を欺くただの詭弁でしかない。
儂はアレデュルクと数名の同胞達に死ねと命じた。
そして、仲間の屍がわしの目に焼き付く・・・筈だった。
未だに儂の目の前を流れる光景に思考が追いつかない。
仲間の赤で地が染まるかと思われた瞬間儂らエルフを覆ったのは青い光の奔流。
押し流されたオーク、地を流れる激流の音さえ掻き消さんとする怒号、横を通り過ぎる数多くの魔物達、繰り広げられる虐殺の舞台。
ユガよ・・・我らエルフに伝わる彼の大精霊ユガよ。儂が今見ているのは現実なのか? それとも耄碌した儂が見ている夢なのか?
「お祖父様・・・これが私達の希望です」
「・・・ミリエラ・・・儂が今見ているのは現実なのか?」
「はい。『西へ』これが・・・私達が求めたものです」
「そう・・・か」
戦争などとは到底呼び得ない。それは虐殺。先程までオークに追い詰められていた事が夢のように思えてしまえる程にオークの屍が地に築き上げられていく。
突如として現れた魔物の大群に押し流され蹂躙の限りを尽くされるオークに目を向ける。
その全てが主クラスなのではと思える程の異様な出で立ち。
西部と東部に潜む魔物として先代から伝えられたのはコボルドとゴブリン。故にエルフ達は南部からは出ないことが暗黙の了解であった。条約が締結されていない不可侵の領域。
今までその領域に足を踏み入れなかった事が間違っていなかったのだと思い知らされた。
先代から伝えられたよりも一回り大きい彼らの目には知性の色が伺える。ただ何かに盲信し突き進むが如く、彼らの表情からは一欠片の恐怖も見当たらない。
彼らは死を恐れていない? いや、死など有り得ないという笑みが浮かんでいる。
そんな彼らにオークなどが適うはずもなく、また一匹また一匹と息絶えていく。
その中でも燦然たる輝きを放ち、一際戦場に屍を築き上げる魔物達の姿が伺える。
その体に似つかない俊敏な動きで戦場を踊るように駆け、オークを刈り取っていくミリエラ曰く、主のウルフ四体。
他のコボルド達とは違い、異彩を放つ武器を掲げるコボルドが四体。彼らは右側の最前線にて、その武器の特徴を最大限に活かした動きでオークを斬り伏せ、後続のコボルド達は彼らが捌ききれなかったオークを狩り尽くしている。
そして、左側の最前線に立つゴブリンの上位種であろうホブゴブリン達は集団にて、一度の交戦において多くのオークを殲滅している。彼らの繰り出す一撃はオーク一体に留まらず複数体のオークを一気に飲み込み、更に多くの屍を築き上げる。
争いに触れず、森でひっそりと生きてきたエルフなぞ眼中にないであろう彼らの姿を呆然と見つめる。
これが魔物の棲む領域。これが人の世から外れた理の世界。こんな惨劇が繰り広げられる中をご先祖様は生き抜いてきたというのか・・・。今のエルフでは到底成し得ないのはわかりきっている。
『キタヨ! キタヨ!! イルヨ! イルヨ!!』
『アレガキボウ! ボクラノキボウ!!』
『ガンバレー!!』
『エルフノミンナモガンバッテー!!』
精霊たちが燥ぎ始める。
今確信を持って言えるのは彼らが儂等エルフに害を齎す存在ではないということだけだ。
「ハハッ・・・これが俺達の望んでいた希望か!! 面白い・・・俺たちも続くぞ!」
「ま、待て、ここは様子を」
「俺は戦士の家系に生まれしエルフ! ここまで心が躍るとは思ってもいなかった!! なに、心配する事などないさ。俺は戻ってくる!」
そう言ってアレデュルクは一人魔物の繰り広げる戦場へとその剣を持って突撃する。
先程とは打って変わり、目の前に立つオークを斬り払っていく。
それに続き、また一人また一人と加わっていく。
近接戦ができないエルフは魔法を放ち、コボルドとゴブリン、ウルフの進路を開いていく。
アレデュルクは刀を携えたコボルドの隣で競い合うようにオークを斬り伏せている。両者共に意地を張り合うようにオークを屠り続け、それに続いて後方から躍り出るウルフにオークの数は残り少なくなっていく。
大量にいたオークも今や50体を切っている。
「上位種が出たぞ!!」
「一人で戦おうとするな! こいつらと共に戦え!!」
数が減ったオークの中から上位種と思われるハイオークが現れる。
そして一番奥にて繰り広げられる戦いが一瞬だけ目に入る・・・。ハイオークよりも巨大なオークと一匹のスライムが目にも止まらぬ速さでの死闘。それはオークの壁によって遮られる。
「私はスライムちゃんの所に行く」
「そんな!? 危ないよ!! 私だってミリエラを守りきれないかもしれない!!」
「サテラ・・・私にもよくはわからないの。だけれど行かないといけない様な気がする」
「・・・わかった私もついて行く」
なんと、儂の孫ですらあの中に行こうというのか。サテラ様も付いて行くとは言え、それは余りにも危険すぎる!!
「ミリエラそれはダメだ!! お前が死んでしまったら儂は・・・」
「絶対に死にません。なんとなくですけど、ここに私達を連れてきたのはあのスライムちゃんだと思うのです。そして、私とサテラを助けるために来ていると思うのです」
「ミリエラ・・・」
その目には確固たる意思が浮かんでいる。
昔は我が儘で頑固な娘だったけれど、歳を重ねるにつれてなくなっていったと思ったのだが・・・甘かったようだ。
こうなってしまっては言っても聞かないであろうな・・・。
「わかった。好きにすればよい。だが・・・死んでくれるなよ。」
「お祖父様こそ、お年ですので気をつけてくださいね」
「・・・言うようになったじゃないか」
ミリエラはそう言い残すと、戦場へと駆け出した。サテラ様もこちらに一礼した後戦場へと駆けていく。
・・・この何百年も争いなど一度もなかったエルフ達が今目の前でオークを相手取り魔物と結託し争っている。
平和だったはずの森に訪れた脅威。それを森の防人として守る本来のエルフの姿が目の前に映し出される。
森の変容に合わせて、我等エルフもこれから変わっていくのかもしれんな。
願わくば、幸多い未来を望む。
さて、年甲斐もなく魔法を放ち燥いでいる長老共は後で説教するとして、儂も・・・加わるとするかの。
スライムちゃんの所に行く、と勢いよく飛び出したのはいいのだけど、オークとスライムちゃん率いる魔物達の剣戟の中に入り込めず尻込みしている
早く向かいたいという思いとは裏腹に足が進まない。サテラは私の前で剣を構えているけど刻々とその様を変容させる戦場に手を付けれないでいる。
そうしているとオークの一匹がこちらへと気づき、手に持った棍棒を振り上げ、その巨体を激しく揺らしながらやって来る。
その姿は他のオークよりも大きく、持つ棍棒も長大で唯のオークとは違うというのが分かる。
私は手を前にかざし風の刃を生成する。
私だっていつも守られてばかりなんて許せない。サテラにばかり任せてなんていられない。
「私だってやれるの!! ウィンドカッター!!」
私の手から離れた力を精霊が受け取る。それが更に大きな力となって風の刃を形成する。
それに構わず突撃してくるオークに、狙いを定めて放つ。
ウィンドカッターはオークの腕を切り飛ばすに終わる。飛ばされたのは棍棒を持っていない左の腕。左腕を犠牲にしてまでもオークの進撃は止まらない。
前に立つサテラの持つ剣に赤いオーラが迸り、鋭い視線をオークに向けながら剣を構え駆けていく。
サテラとオークが目の前に迫った瞬間、両者は互いの武器を振り払う。サテラの斬撃を食らった棍棒からは激しい破砕音が響き、半ばまで剣が食い込んでいる。
サテラは最後と言わんばかりに歯を食いしばり、気迫に満ちた声を上げる。半ばまで食い込んだ剣はその気迫に答えるかの様に棍棒を切断する。振り抜いた勢いそのままに体を一回転させ、遠心力を持ってオークにもう一撃横薙ぎからの一閃を加える。
それには流石の上位種であろうオークも耐え切れず、体を二つに切断され地に落ちた。
それを周囲で見ていた上位種でないオークはサテラを脅威とみなした。そしてその中の一匹が猛然とサテラに襲い掛かる。サテラは肩で息を切らしながらも、再度剣を構える。でも魔力が尽きかけているサテラではオークの一撃を受けきることはできない。
だけど、そんなことさせない。私が許させはしない。
再度唱えていたウィンドカッターを放ち、後続のオーク諸共薙ぎ払う。
「サテラ大丈夫!?」
「ありがとう! 助かったわ!!」
そういうサテラであったけど、私の目は誤魔化されない。棍棒と剣が衝突した時に飛び散った木の破片がサテラの腕に突き刺さり血が出ている。
精霊魔法でサテラの傷を癒すと、サテラは苦笑しながらお礼を述べる。
「ありがとう、助かったわ」
「いつも助けてもらってばかりじゃいられないもの」
「頼りにしてる。一緒に行こう」
紅い髪を振り乱し、後ろに振り返りながらサテラは告げる。
でもこうしていてもスライムちゃんの下に行けない。また次のオークが来てそれに時間を取られるだけ・・・なんとかしないと。
BUUUUROOOOOOAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!
奇声を上げながら三匹のオークが走り寄る。
サテラは再び剣を構え、私もウィンドカッターの準備をする。
だけどオークが私達の下へ来ることはなかった。
黒い毛並みに紫のメッシュが光るウルフ、そして赤のメッシュが入ったウルフ二匹がその背後から現れる。
三匹ともこちらに視線を向けてジッと私達を見つめる。
それはまるで私達の心の中を見透かすように、見定めるように唯見つめ続ける。
すると私達の後ろからまたウルフが現れる。
この子は・・・ここまで送ってくれた主ウルフに間違いない。
何事かを喋っているように口を動かし、目の前に立つ三匹のウルフに視線を向ける。
三匹のウルフは私達に興味が無くなったのか、後ろに振り返りオークとその他の魔物が犇めき合う戦場へと戻っていく。だけれど、それは私達へ道を作っているようで進路上に現れるオークをなぎ払っていく。
「えっ!? キャア!!」
「うわっと、何を!?」
私達は突然後ろに立っていたウルフさんに、首元を咥えられと後ろに放り投げられ強引に背中に乗せられる。
私達は猫かなにかだと思われているのでしょうか?
しっかり私達が掴まったかを確認すると、三匹のウルフに続いて戦場の中を駆け抜ける。
そのスピードは私達を乗せていた時とは比べ物にならないくらいに速い。
移りゆく景色の中で、その目に止まったのは私達が先ほど戦ったと思われるオークと戦う魔物達。
ゴブリン達はオークの上位種四体を相手取り、集団での連携を確認するかのように戦闘を行う。
上位種のオークはそれに翻弄され、振り回す棍棒や剣は虚しく宙を斬るだけに留まる。
そしてその隙を見逃さず、的確にオークの急所を捉える。ゴブリン達が繰り広げる連携は相手の挙動すべてを読み取り、それを全員がしっかりと把握しているかのように完璧なもの。
短剣が心臓に刺さる。石で作られた剣に叩き潰される。斧で叩き斬る。
上位種のオークは為す術もなくその命を散らしていく。
それを見つめているとそれに気づいたのか、剣を振りかざしていたゴブリンが手を振ってくる。ほ、本当に魔物・・・なのかしら?
その傍らでは、コボルドが覇を競うように一匹で上位種のオークを相手取っている。
槍?に刃をつけたような武器を持つコボルド、変わった小さな剣を二刀持つコボルド、手に鉄の防具をつけているコボルド、反りがある剣を持つコボルド。
それぞれが上位種のオークを圧倒し、何かを確認、確かめるかの様に上位種のオークの攻撃をいなし、弾き返す。
そして確かめ終わったと目を見開くと同時に、一気に反撃に出る。
まるで上位種を相手にしているとは思えないかのようにあっさりとオーク達は命を散らす。
けれど、反りがある刀を持ったコボルドの下に居たオークは決着がつかない。
よく見れば他の上位種のオークよりも装備が違う、恐らく上位種のオークを纏めるオークだろう。
メイスを二つ振り回しコボルドを追い詰め、コボルドの持つ武器を弾き返す。
面倒くさそうに、武器を巧みに操るコボルドの攻撃はオークに傷を作っていく。けれど、それも決定的な攻撃とはならない。
「あれは・・・刀?」
「知ってるの?」
「東の方にある何処かの国で主流とされる武器ね。その剣は私達が普段使っている物よりも数段上とされている武器よ」
サテラはあの剣を知っているようで「刀」というらしい。その斬れ味は凄まじく、名刀に至っては貴族が大金を叩いても買えない物になるらしい
あのコボルドは相当な使い手だそうだけれど、相手が悪かったそう。オークの類稀なる生命力の前にその斬れ味を活かしきれていない。
相手のオークも相当に腕が立ち、致命的な一撃になり得る攻撃は全てメイスで受け止めている。
「そこのコボルドよ!! 助太刀致すぞ!!」
「ア、アレデュルク様!?」
突如横合いからオークへ斬り掛かったのはエルフ・・・アレデュルク様だった。
エルフ族に似つかわしくな筋肉を振り回す白髪のおじさん。小さかった頃は、怖くて近づけなかったけど、怖がれば怖がるほど追いかけられたのはトラウマになって私の心に残っている。
横合いから不意に突き出された剣にオークは反応できずその剣の半ばまでを胴体に侵入させる。それを強引に突き入れるアレデュルク様はオークに振り払われ、地に投げ出される。
「コボルド殿!!」
言葉など通じるはずもない。それなのに、コボルドは何かを感じ取ったのか、刀を突き刺すようにしてオークの心臓を狙う。それを間一髪振り払うオークだったけれど、そのあとの行動は誰も予想できなかった。
刀から手を離したコボルドは横腹に突き刺さった剣に蹴りを放ち、その剣を深くまで突き入れる。
耐えかねたオークは絶叫を上げ、メイスを取り落とす。
だけどまだ息絶えてはいない。コボルドもアレデュルク様も武器を持っておらず、決定打をたたき出せない。
すると、後ろに現れたゴブリンが振りかざした剣を頭部に突き刺す。
一瞬の出来事に何が起こったかもわからぬままにオークは絶命した。
アレデュルク様、コボルド、ゴブリンは互いに向かい合い、一礼した後に戦線に戻っていった。
「戦士の挨拶・・・」
サテラが妙に目をキラキラさせているような気がするけれど、見なかったことにしよう。
オークの数は見る見るうちに減り、オークの殲滅は時間の問題になっていた。
けれど、未だに激戦を繰り広げている魔物がいた。
ウルフ達の足はピタリと止まり、川辺で繰り広げられる両者の戦いに目を向ける。
長大なマチェットを二刀持ったオーク、赤い体表の南部最弱種であるはずのスライム。
私達を守ってくれたウルフを送ってくれたスライム
自分の仲間達なのか大量の魔物を率いて、私達を助けにここまで来てくれたであろうスライム。
あの時、私達の演奏を聞いて拍手を飛ばしたスライム。
私達のために命を賭してまで戦うスライム。
そのスライムは目にも止まらぬ速さで死闘を繰り広げていた。
おいおい、聞いてないぞ。どうしてこうなった・・・。
毎度お馴染みの「どうしてこうなった」なんだが、本当にやばい。
また俺は調子に乗ってしまったようで、相手の力量を見誤ってしまった。その原因は・・・
「進化してやがる・・・」
オークキング(LV3)
称号
統べし者
オークの王
破壊之加護
HP:670
MP:10
STR:240
VIT:230
AGL:70
MGI:10
LUC:5
位階:C
か、勝てる気がしねぇ・・・。幸い足が遅いおかげでなんとか翻弄できてるけれど、これは酷すぎる。
出会った瞬間に死鎌でさようならって思ったら、それを一瞬で斬られたんだもん・・・。
んで、呆気に取られていたら、マチェットを二刀振りかざして突撃してくる様を見た時はこの世の終わりを見たような気がした。
HPが670? 俺の六倍じゃないか!! 攻撃力も二倍あるし・・・。
こんな圧倒的なステータス差をどうやって覆したらいいって言うんだよ・・・。
あぁ、もう本当に学習しないな俺は。
油断していないつもりだったんだけど、こりゃまずい。ハルウ達もコボルドもゴブリンも、こいつを止められそうにはないよなぁ。
ステータスが一番高いのは俺だし、俺が倒れるってことは全員が死ぬってことだな。
うん。逃げよう。間違いない・・・勝てやしない。
隙を突いてエルフ共々一時撤退したいところだな・・・。
しっかし、これは隙なんて作れそうにない。
さっきから15本の触手でオークキングに攻撃しているんだけど、まともに当たらない。当たったとしても腕や肩、足とかだ。
重要な部分には全く掠りもしなくて、マチェットで弾かれ、体を素早く動かして避けたり、非常に面倒臭い・・・。
ディーレさんの魔法を使おうとも思ったんだけど・・・精霊魔法の欠点のせいで使えないんだよなぁ。
放つまでに時間が掛かってしまうのが非常に痛い。十分に集中しなければ精霊魔法は使えず、俺はまだまだ慣れていないらしく魔力の練りが遅いことから余計に時間が掛かる。
一回試してみたんだけど、迫ってくるオークに集中力を乱されて、挙句の果てには目の前に振り下ろされたマチェットに逃げ出して魔法すら放てず失敗した。
それからはもう触手をブンブンさせる事しかしていない。
普通の魔法も試したけどマチェットで弾かれるし意味がない。
ズドン!!
ヒェッ!? マチェット投げてきやがった!!
後ろに|飛んで(転がって)なければ今頃串刺しだな。
魔法も駄目、攻撃も駄目、逃げるのも駄目。
か、勝てる道理がない。俺とハルウ達で一緒に戦えば・・・無理だな。余計に犠牲が増えるかも知れない。俺の目の前で配下が散っていくのだけは・・・我慢ならない。
さぁて、どうするかな・・・。
ん?
横目にチラリとハルウ、ユキ、モミジが映る。
あぁ、もうハイオークを倒してきてくれたのかな? 視線でこちらには来るなという意思表示を送ってみる。すると、三匹は左右に分かれる。
ハルウ達が分かれた場所の先には、オークの屍が無残に転がっていて道のようなものができている。
そしてそのさらに先からはナーヴィがこちらに向かって走り寄ってくる。
なんで遅れてきたのかと疑問に思ったのも束の間、その理由は背中を見た瞬間に理解した。
キタアアアアアアァァァァァァ!!!!!!
エルフっ娘に、騎士娘!!
見てください!! あの尖った耳、色白の肌、金髪、碧眼、そして・・・エルフ巨乳。
最っ高ではありませんか!!
紅い髪に鳶色の目をしたちょっと気の強そうな女騎士・・・コスプレなんかじゃない本当の女騎士ですよ・・・
これだけを・・・これだけを支えに異世界に甘んじていたのですよ!!
前の世界では味わえない超絶美人な二人を前に鼻の下を伸ばしそうになる。
「いふぁい」
「私は?」
「もひろん、でぃーえさんもかぁいいですよ」
「そうよね」
ディーレさんに頬を引っ張られた痛さになんとか正気に戻ってこれた。
あの二人は美人ではない可愛いのだ。ディーレさんは美人なのだ。
でも感じて欲しい。リアル女騎士とエルフっ娘に会ったらどれだけ舞い上がるかを・・・。
その二人はハルウの背中から降り、こちらへと駆け寄ってくる。
あまり近づいたら危ないので、ハルウ達に視線で指示を送る。
戦闘範囲ギリギリの場所まで駆け寄ってくると、ハルウ達が進路を塞ぎ首をフリフリと振る。
エルフっ娘も女騎士も心配そうにこちらをみやり、エルフっ娘は両手を前に組み、何かに祈るようにしている。
すると女騎士・・・サテラだったっけな?
サテラが何やらエルフっ娘に耳打ちをしている。
エルフっ娘・・・ミリエラ?はビックリしたような顔をしてこちらにその蒼色の瞳を向けてくる。
すると彼女は脇に立つ精霊に魔力を捧げ、精霊魔法をこちらに向けて放つ。
精霊魔法は付与魔法や攻撃魔法で光の色が変わり、付与なら緑、攻撃なら白や赤といった具合になる。攻撃精霊魔法だけは定まりがないらしく使う人によっては青や黄色といったものもあるらしい。
今回こちらに向かって飛んで来たのは緑色だった。
それが体に降り掛かった。しかし、別段HPが増えたわけでもないし、ステータスが向上したようにも感じない。
すると、エルフっ娘と女騎士はハァっと息を吸い込み・・・
「スライムちゃん!! が、頑張って!!」
「え・・・と・・・が、頑張ってくれ!!」
ふぇ?え?
エルフっ娘と女騎士が俺にエール?
そんな・・・聞き間違い・・・なわけないな。
応援してくれているのかぁ・・・そうかぁ。
・・・こりゃぁ情けない姿を見せられないな・・・スライムの体自体情けないけど。
でも、女の子に応援させられたとあれば、それもエルフと女騎士にやられたとあればやるしかないな。
やってやるよ。
“死闘を確認。第一フィルター解除。称号の自動入れ替えを施行”
1:■炎の■→紫炎の徒
2:
3:
4:
5:
“これよりフェイズ2に移行を開始。以後システムの干渉からの逸脱を開始。幸多き未来と安寧をその手に”
その瞬間、体中を駆け巡る何かに俺は目を見開いた。
次回は終章の予定です。
女の子の応援は心に響きますよね!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になり、筆が踊りますので気軽にどうぞ!!