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現状:森林騒乱①でした!

ミリエラさんとサテラさん一体どうなってしまうんでしょうか!?

次話投稿は一週間以内です

 オークの影は静かに忍び寄る。

 オークの子供は母胎から生まれ出るのに三日を有しない。そして成体になるまでに五日と恐ろしいまでの繁殖力、成長力をを持つ。

 そんなオークの数は二百もの数に及んだ。


 そんな彼らを率いる十五体のハイオーク。オークの上位個体たる彼等の手に光る鈍色の武器はこれから起きるであろう惨劇に心を躍らせている。

 鈍色の武器を赤に染める血を求め、彼等は自らの殺意を滾らせる。


 力、繁殖、縄張り、それが彼等の求める全て。

 漲る欲を糧に、昂ぶる精を持って限界を超え、迸る殺意を従えて彼等は歩みを進める。


 オークは理性など持たない。欲を溜め込むことに限界が来てしまえば、彼等は本能の赴くままに蹂躙を開始する。

 それはハイオークも同じこと。しかし、彼らを抑える要因は唯一つ。


 最後尾に控え、他と比べ異様なまでに巨大化したオーク。コボルドから剥ぎ取り繋ぎ合わせた毛皮を纏い、腰には二刀・・のマチェットが静かに時を待っている。

 それこそがハイオークを統括し、全てのオークを恐れさせるジェネラルオーク。


 彼らの暴走が収まっているのはこの一匹のオークによるもの。他のオークとは比べ物にならないまでの強さを持った上位個体。

 このオークの統率によりこの群れは成り立っている。それでも暴走する愚か者は出る。

 それに下されるのはオーク一匹を軽々と断つことができるマチェットによる一刀。脳天より真っ二つへと切り裂かれるのである。


 オーク全てが束になろうと、ハイオークが全員で襲い掛かろうともこのオークには傷一つ付けることは叶わないであろう。

 間違いなくこの森での最強はこのジェネラルオークであろう。


 北の覇者であり、オークの統率者を称号として闊歩するジェネラルオークを止められる者がこの森にいるはずもない。


 そして極めつけにこのオーク、普通のジェネラルオークではない。ジェネラルオークの発展個体「ジェネラルハイオーク」へと強化されている。

 つい先日、西部の主を殺したことにより、凶悪なオークへと発展してしまった。

 人族の言葉を借りるなら、限りなくBに近いC+である。


 このジェネラルオークが望むのは強さ、縄張り、そしてより強い子孫である。この性欲豚は全てを得るために存在する。

 強さと縄張りは手中に納めた。後は自分達オークをより高みへと至らしめるための子である。

 それを得るためには森の魔物など相応しくない。このオークを受け入れることができ、尚且つ強さと素質を兼ね備えた存在こそがこのオークを満たす事のできる条件。

 それこそが南部に存在する「エルフ」である。


 このオークは全てを己の手中へと納めるためにエルフの元へと一歩一歩を踏みしめる。

 彼が望むエルフはもう決めてある。


 ここを通る最中に通った泉からした匂いの主。

 精霊の魔法に才を持ち、他のエルフとは違う一際異彩を放った匂いの持ち主であるエルフ。その者が放つ匂いにこのオークは目を血走らせた。

 まだ見ぬそれに思いを馳せ、己の欲を高めその巨大な手を握り締める。


 目当ての者以外などに興味はない。邪魔をすれば捻り潰し、それ以外は配下の好きにさせる。

 二刀のマチェットはこのオークの欲深さに順従の意を示す。


 そしてジェネラルハイオークの目に多くのエルフの姿が映し出される。

 マチェットを抜き放ち、大きく息を吸い込む。


 オークとハイオークは剣を無造作に握り締め、目をより一層血走らせる。


 BUUUUURAAAAAA!!!!!!!!!

 GUUUUURAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!


 全てのオークの雄叫びが木霊する。


 ここに森林騒乱の幕が切って落とされた。






 ウルフの遠吠え・・・それが私達を救った。

 剣の手入れを余念なく行い、それを終えた直後に鳴り響いた遠吠え。

 私とミリエラは直ぐ様行動を開始した。


 非常事態を告げたその遠吠えの警笛を私達は聞き逃さなかった。

 あのウルフに言葉が伝わっているのかわからなかったけど、何かあった時は合図を送ってくれと頼んだ。今思えばやはり言葉が伝わっていたと確信してもいい。


 ミリエラは族長様・・・お爺さんと里の長老の方々に、私は里のエルフの人達に事態を伝えに向かった。やはりさっきの遠吠えにエルフの人達は動揺していた。

 争いに備え身構えていたといっても、不意に訪れたそれに対処できる程訓練されていない。


 ミリエラから教えてもらった里の警備を総括していた隊長を探す。

 呆然とするエルフの人達の中心で声を張り上げている一際ガタイのいい白い髪と顎鬚をタップリと蓄えた壮年の男性エルフが居た。

 あれがミリエラの言っていた隊長だろう。

 ミリエラから聞いたのは・・・白くてモジャモジャしてる筋肉の人。うん、間違いないあの人だ。


「えっと・・・隊長さんで間違いないでしょうか?」

「おぉ、これはサテラさん! 俺が警備を担当・・・今は指揮を担当しているアレデュルクですぞ!! 先程の咆声いよいよ奴らが来るようですな」

「アレデュルク様、その遠吠えなのですがオークではないんです。あの遠吠えは私達の言っていたウルフによるものです」

「ほう・・・。して、あの遠吠えの真意は?」

「何か不測の事態が起こった場合、合図を出すように言っていたので恐らく・・・」


 アレデュルク様は顎に手を置いて何かを考える素振りを見せる。

 すると肩口から精霊がピョコっと姿を見せる。それを横目で見るアレデュルク様の口元が上がる。


「わかった。では俺達はどこに向かえばいいのだ?」

「・・・このまま西部を警戒していても仕方ありません。西部は罠だとして、違う場所へ逃げたとしても何れ追いつかれます・・・。それなら起死回生のチャンスがある西部へと向かうべきだと思います。」

「・・・・・・了解した。西部に向かいましょう」


 アレデュルク様との話がつき、エルフの人達に事情を話しているとミリエラがお爺様方を連れてやってくる。どうやらあっちでも話がついたらしい。


「族長殿。話は付いたようですな」

「ああ。これから西部へと向かう。ミリエラ・・・お前たちを救った主様ウルフを呼んでくれるか?」

「はい、お祖父様!!」


 族長様と長老の方々も西部へと向かうことを決めたらしい。

 ミリエラはお爺さんがウルフを呼ぶことを認めたのが嬉しいようで、微笑みながらミルトを奏で始める。


 BUUUUURAAAAAA!!!!!!!!!

 GUUUUURAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!


 そして聞こえてきたのは、オークの怒号。

 特有の耳をつんざく咆哮が私達の戦慄を呼び覚ます。顔を青くして武器を持つ手が震えている。

 ミリエラもミルトを弾くのをやめ、森の方に視線を向けている


「西部へと移動を開始する! 精霊達の力を借り、敵の進軍を妨げるぞ!!」

「うむ。全員矢筒を抱え、弓を手に持て! 奴らがいつこちらに来るかわからんぞ!!」


 エルフの人達は一箇所に集められた弓と矢筒を持ち、精霊達に何かを告げると地面が一度発光する。すると、地面が泥濘ぬかるみに変わり、その中に尖った石が散乱する。

 どうやら水の精霊と土の精霊とで作り上げた罠の様なものらしい。


「ウルフさん・・・」


 ミリエラがもう一度ミルトに手をかけ奏で始める。私が持っていたパルラは里に向かう途中に現れたオークに壊されてしまった。

 ミリエラは私達が通った道に顔を向け、心配そうに森の奥を見つめ続ける。


「私達でも苦戦するオークを簡単に屠れるような魔物だから、きっと大丈夫よ」


 出発するまでの少しの時間ミリエラは弾き続けていたけれど、ウルフが現れることはなかった。

 もうオークから逃げてしまったのか、気配すらも感じない。


「今は移動しようか、ミリエラ」

「・・・うん」


 出発の準備が整ったエルフの人達に続いて川の上流、西部へと急ぐ。

 ミリエラは移動しながらも時折ミルトに風を送り、魔力だけを周囲に流し出している。

 それでもウルフは姿を見せない。


 移動しながらも、後ろを警戒しながら罠を張り続ける。

 エルフの大半は水の精霊との相性がいい。しかし、土の精霊との相性がいいエルフはあまりいない。故に、罠を張れるエルフは限られてくる。

 土の精霊魔法が使えないエルフは、次に風の精霊の力を使う。風の精霊との相性がいいエルフは周りの索敵を行っている。風を飛ばし、何かに触れると精霊が伝えてくれるそう。


 そうして西部へと歩いていると、風の精霊が騒ぎ出す。それと同時に他の精霊達の落ち着きがなくなる。キョロキョロと周りを見渡し、目を大きく見開く。


「イルヨ。イルヨ。チカクニイルヨ!!」

「コワイノコワイノチカクニイルヨ!!」


 精霊達が一点を見つめる。私達が先ほど通った森の奥ただ一点を・・・。

 エルフも精霊達と同じ場所をジッと見つめる。その森の奥から漂う異様な空気に気づいたのは精霊達だけではなかった。


 そして耳に届いたのは多くの足音。何かを蹴り砕き、踏み潰し、へし折る音がその森の奥から響き始める。

 間違いない、この気配は・・・


「来たな」

「精霊魔法展開!! 全員陣形を組み、西部へと後退しながら迎撃を開始!!」

「ッッッ!?」


 BUUUUURAAAAAA!!!!!!


 森の木々を薙ぎ払いながらオークが姿を現す。

 折れた木々は踏み潰され、森の悲鳴として辺りに響き渡る。棍棒を振りかざし、私達に襲い掛からんとするそれは、狂気が彼らを動かしているとしか思えない。


 オークへと意識を向けながらも西部へと移動し、精霊魔法の練り上げに入ったエルフの体の周りに精霊達が現れる。

 そして精霊達の体から漏れ出た光はエルフの手の中へと収束する。

 やがて、精霊魔法の準備が整ったエルフ達に族長から号令が下される。


「放て!!」


 族長の号令が下された直後、エルフによって収束された光は手から離れ、空中を幾重もの光線がオークへと駆ける。

 オークに直撃した光線からは風の衝撃波が迸る。オークは風の刃に身を引き裂かれ、その屍を大地に晒す。

 直撃を免れたとしても地面に突き刺さったそれからオークは足を刻まれその巨体を前へと倒す。そうなったら最後、後続のオークに踏み潰され原型を止めない程に踏み潰される。


 オークの進軍は止まらない。しかし、前を進んでいたオークの死体と、地面に炸裂したことによって変わった地形がオーク達の進行を若干ながら阻む。

 その際にも私達は川の上流へと歩みを進める。


 エルフの長老達が出した作戦は撤退戦。上流へと移動しながらエルフの優位に立てる距離を保ち、オークの数を減らしつつ被害を最小限に抑える。

 そして、西部で私達を待っている何者かに勝敗を賭ける。

 これが今私たちの出来る精一杯の戦い。


 追いつかれれば私達は蹂躙される。

 精霊魔法に優れたエルフであっても、あの数に押されてしまえばやがて瓦解する。乱戦になってしまえば味方に被弾してしまう恐れがあるため魔法は使えない。

 そうなればエルフにとって一番不利な戦い、近接戦闘となってしまう。


「精霊魔法準備! 後続は弓矢を放て!!」


 精霊魔法が得意なエルフとあっても、誰も彼もが攻撃として使用できる魔法を持つエルフは限られている。特に女性のエルフなんかは精霊魔法よりも弓の扱いに長けている。


 次にオークに襲い掛かったのは頭上から降り注ぐ矢の雨。精霊魔法のように単発での威力は望めない。しかし、連射速度で言えば精霊魔法よりも効率がいい。

 更に攻撃に使用できる精霊魔法が使えないとは言え、彼らはエルフ。精霊魔法を付与した弓から放たれる矢はオークを貫通し、奴らに多大な被害を齎した。


 精霊魔法の付与に用いられたのは、包丁などの切れ味をよくする風に属する精霊魔法、穴を掘るなどの用途に使用される土に属する精霊魔法の二つ。何れも数多くのオーク達を屠った。


 正直に言えば精霊魔法よりもこちらのほうがダメージは大きい。しかし、矢の数が少ないため、ここぞという時にしか使えない。


「精霊魔法第二射放て!!」


 続いて二射目の魔法が炸裂する。しかし、極小数のオークは迫り来る魔法を棍棒で叩き潰す。棍棒も使い物にならなくなるが、魔法を相殺させることに成功している。

 知能が低いオークは自分の考えだけでこのような行動に移れるはずがない。ということは・・・


「上位種の存在があるやも知れぬな・・・。オークに上位個体の存在の影がある! 充分に警戒せい!!」


 いま前線を突っ切っているオーク達に上位種の姿は見受けられない。しかし、上位種の存在が前に出てきたとなると、それを迎撃するのは難しい。

 オークの上位個体であるハイオーク一匹であるならば私と数人のエルフのサポートがあれば勝つこともできる。しかし、それが複数体いるとなると・・・絶望的となってしまう。


「エルフ程の魔法は使えないけど・・・風刃!!」


 精霊魔法と違って威力は小さいけれど、この魔法だけは冒険者を始める前から習得し、磨き上げたもの。

 風の魔法を剣に纏わせ、横薙ぎの斬撃として遠方にいる敵に攻撃を加えることができる魔法剣士としては基本的な連携技。遠方に飛ばさず纏ったまま攻撃を加えることにより、通常時より破壊力の増した攻撃を放つこともできる。

 持続時間は3秒間、その間なら何回でも風刃を放つことができる。


 オークの巨体を風刃が切り刻む、その防御力を一撃で突破することはできないけど何度も当てることによってオークは息絶えていく。

 無論風刃を放つとMPは減る。しかし、エルフ達が水、風、土の精霊と共に創り出した薬、エルフの涙は飲むと減ったMPを大幅に回復することができる。

 族長様から三本支給されたそれを飲み干す。今朝オーク二体に使った分のMPも回復した。


 その間にもオークの進軍はとどまることを知らない。

 ミリエラも必死で魔法を練り上げオークに向けて放つ。他のエルフと比べてみると、やはり見劣りするミリエラの精霊魔法。

 だけど、その理由は知っている。族長様・・・つまり、ミリエラのお爺さんから里を離れる前に聞かされた。それを聞かされた私は驚きに目を見開いたものだった・・・。


 ミリエラはお爺さんの今まで見てきたエルフの中でも特別素養のある精霊魔法の使い手らしい。

 例を挙げると、通常ならエルフが練り上げた魔力が1であるならば、精霊が練り上げる魔力も1として返ってくる。しかし、ミリエラが練った魔力が1であった場合、精霊から送り出される魔力は2として戻ってくるらしい。

 一見すればすごくいいように見える。けれど、それは余りにも危険だということを知らされた。


 例として挙げたものにはミリエラに戻ってくる魔力は「2」としているけど、実際はそれ以上にもなり得てしまう。

 そうして戻ってきた魔力を使いこなせればいい。けれど、使いこなせなければ暴発を起こし最悪死に至る。


 それは里の人達も知っている。

 始め魔法というものは魔力の練り上げの練習が基本。けれど、ミリエラはそれを全くしていない。人族の子供でもできるような極微量の練り上げさえできていない。

 初めは私も教えて貰おうとしたのだけれど、お爺さんから止められた。当時は何故だかわからず首を傾げたものだけど、今となってはその意味がわかる。


 今でも全く練り上げは出来ていない。それなのに・・・私以上の魔法を使うことができる時点でその話に信憑性があるのがわかる。


 オークに飛来するミリエラの放った魔法は、精霊から与えられた力によって膨らまされた風の弾丸となって直撃する。風穴が開くまでに至らないまでも、その身をくの字に曲げ、後続のオークを巻き込みながら吹き飛ばされていく。


 私達は上へ上へと登っていく、未だに特に変わったこともない。

 西部に何が待ち受けているのかも全くわからない。「西へ」・・・その言葉を信じて私達は一進一退の攻防を繰り広げている。


 あのウルフが何を伝えたかったのはまるでわからない。

 何かに飼われていて、その主人に私たちを西部へと招くように言われた。主人はエルフ? それとも魔族、人族? 謎が多すぎて分からない。

 一番有力なのは精霊文字を扱えていることからエルフなのだろうけれど、何百年前の大戦以来、他のエルフの行方は分からないそうだしエルフじゃないのかもしれない


 罠なのか・・・それだけが頭の中を反芻していく。

 敵に唆され、私達は魔物の術中に陥っているのではないだろうか?

 オークはジワジワと距離を詰めてきている。後一歩で私達は接近戦へと移行しなくてはならない・・・そんな状況まで逼迫ひっぱくしている。


「まずいの・・・このままでは・・・」

「足止めもここまで来てしまったのならもはや・・・」

「俺達で前のオークを請け負う。援護しつつ、後退すればまだ・・・」

「ダメじゃ、最後まで諦めるでない。目の前で仲間が散っていく姿を見たくはない・・・」

「・・・族長さんよ、俺達を心配してくれるのは嬉しいんだがな、それで守れたはずのもんを守れない時もあるんだぞ」

「・・・・・・・・・」


 族長様は眉根を寄せ、苦渋の決断を迫られている。守れたはずのものを守れなかった時、その一言に揺れる。

 長い年月を共に過ごしてきた仲間をむざむざと死なせてしまう。それも囮としてなんて決断できるはずもない。それでもオークが迫り来る中、若い者を生きながらえさせるために苦渋の決断をせねばならないのか、それとも最後まで皆と一緒に交代を続けるのか、その二つを天秤に掛け一刻も早く決断をせねばならない。

 その二つを天秤にかけたとしたら、選択されるのはただ一つ。


「・・・未来在る者の為に死んでくれるか?」

「断る!! 最後まで奴らを倒し尽くして俺達は帰ってくる」

「そうか・・・待っておるぞ」

「おうよ」


 アレデュルク様が肩口から覗く土精霊に向かって何事かを呟く。すると、体を茶色のオーラが纏う。アレデュルク様は唯一剣を携えている。

 それを抜き放ち、自分と同じくらいの年齢のエルフを集める。

 そのエルフ達の顔に恐怖や悲愴といったものは浮かんでいない。むしろ彼らの顔に浮かび上がるのは笑顔だった。そこにいたのは・・・私が望んでいた戦士の姿だった。


「アレデュルクさん!! でも・・・でも・・・!?」

「ミリティエ・・・お前にはわからんかもしれんが、男っていうもんにはやらねばダメな時がある。それが今なだけだ。なぁに、心配してくれるな、ちょっとばかし奴らをとっちめてくるだけだ」


 そう言って豪快に笑い飛ばすアレデュルク様、その目には慈愛の心が見て取れる。ミリエラを小さい頃から気にかけて、我が儘放題だったミリエラに振り回されながら遊んでいたそうだ。

 男にはやらなければならない時がある。そう言ったアレデュルク様の手は微かに震えていた。


 アレデュルク様は私達に背を向け、こちらへと猛然と突撃を仕掛けるオークの下へと歩いていく。微かに震える手に、剣を持つ力を込めて震えを止める。

 そして一度だけこちらを振り返り告げる。


「もう一度、ミリティエとサテラさんが弾く曲聴きたかったかな・・・まぁ帰ったら聴かせてくれ」


 もう一度前に向き直り、オーク達が来るのを待ち構える。数十人しかいないエルフの内、アレデュルク様を含めた8人が足止めに加わる。


 ミリエラは涙を流しながら、ミルトを強く握り締める。そこから今尚流れ続ける魔力の波に、音を載せる。

 戦場には場違いであろう穏やかな曲。オークへと刃を向けるエルフに、届いたのかはわからない。だけど、アレデュルク様の耳がほんの一瞬動いたのを私は見逃さなかった。


 人族に囲まれて平和に生きてきた私にとって、こんな場面は不釣り合いだといえる。命とのやり取りなら冒険者をやる上でいつもしてきた。

 だけど、魔物が跋扈する森の中を日々生き続けているエルフ達の姿を、私の目は焼き付けた。


「アレデュルク爺様・・・」


 嗚咽を漏らすミリエラに、涙をこらえる族長様・・・仲間の死を噛み締めるエルフ達の姿を私はただ見ているだけしか出来ない。

 自分は関係ない部外者に過ぎない。けれど、ミリエラと出会い彼らエルフの暖かさに包まれた日を忘れることなどできるわけもない。

 自然と目から溢れ出る涙を、私は堪えることなどできなかった。


 神様なんてものはいない、命は乞う物でなく掴み取るモノ。それがギルドの言葉。それが今やっと理解できたような気がする。

 神様なんていない。いたとしたら何故私達を助けてくれないのか・・・。


 この森を作り上げたユガとやらも、これだけ必死に生きて涙を流す人達に何も思わないのか。わかってる・・・自分勝手なのは分かっている。

 ただそれでも、私は・・・私は・・・


 オークとアレデュルク様と数人が交戦状態へと移行する。


 その直後、私達の願いは神へと届いた。


 その日の出来事を私は忘れることはないだろう。未来永劫、子々孫々に至るまで、この物語を忘れることはないだろう。


 神はいた。そう思わざるを得なかった。


 UUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNN・・・

 UUUUUOOOOOOOOONNNNNN・・・

 UUUUUOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNN・・・

 UUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNN・・・


 四つの遠吠えが鳴り響く。

 オークの進軍が止まる。

 大地を青が彩る。


 そして私達が向かっていた方角にそれは姿を現した。


 私達を軽く上回る、魔物達。ゴブリンとコボルドの大群。


 それが私達に向けて視線を向けている。静まり返った戦場に響く、場違いな音。


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


「「「「「・・・・・・・・・」」」」」


 フニョフニョフニョフニョフニョフニョフニョフニョフニョフニョフニョフニョ


 大群の前方に四体のウルフ、そして・・・一匹の赤いスライム。そうして彼は告げた。



「エルフ×オークなんて展開許さないぞ!! 王道はスライムだろうが!! 全軍突撃!!」



 そのスライムからはアルテリアの言葉が紡がれた。

無双爆誕!?


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になり、筆が踊りますので気軽にどうぞ!!

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