第8話 悪役豚貴族は虐めの現場に遭遇する
「さて、どうしたものか・・・・・・」
俺は歩きながら顎に手を当てる。
まさかここまでポールが嫌われているとは・・・・・・
コッホは受け入れてくれたので、頼めば図書室も利用できると思っていた。
まあ、以前のポールの行動を考えれば、仕方がない反応かもしれないが・・・・・・
「──っ⁉」
「ん?」
遠くから何かが聞こえてきた。
大きな声だったが、誰かが怒鳴っているのだろうか?
気になった俺は声のした方へ向かっていった。
「うざいのよっ!」
少ししたところにメイド服を着た女性たちがいた。
おそらくこの屋敷に仕えているメイドなのだろう。
4人が1人を囲んでいる様子だった。
一際気の強そうな表情のメイドが率先して虐めているようだ。
あれが集団のリーダーなんだろう。
「あんたみたいな亜人風情がヴァイス侯爵家で働くなんて、私たちの評判も悪くなるのよ」
強気メイドは本気でそんなことを言っている様子だった。
たしかに侯爵家で働くことは名誉なことだと思うが、この状況を見ると評判を下げるとしたら彼女の言動だろう。
正直、俺の中では彼女の評価がかなり下がっている。
というか、先程【亜人】と言っていたが・・・・・・
「うぅ・・・・・・」
「っ⁉」
囲まれていたのはフィエラだった。
既に痛めつけられているのか、彼女の身体に生傷があった。
一体、何が起きているんだろうか?
「まったくあの豚も面倒なことをしてくれたわね。亜人を辞めさせるならまだしも、私たちと同じ立場に戻すなんて」
「・・・・・・」
強気メイドの言葉にこの状況の一端が俺の行動だとわかった。
フィエラを専属から外し、通常のメイドとして仕事するようセバスに頼んだ。
それが他のメイドたちからは気に食わなかったのだろう。
おそらく俺の専属になることはこの屋敷の中では底辺の仕事なのだろう。
それなのに、彼女は普通のメイドの仕事に戻ることができた。
獣人であることも理由の一端のようだ。
他種族との交流が増えたとはいえ、人族至上主義の考えはまだまだ根深い。
だからこそ、見下している相手が自分たちと同じ仕事をすることへの嫌悪感があるのだろう。
別に誰がどんな考えを持とうが構わないけど、差別的な考え方はあまり好ましくない。
自分が関わっているのでどうにかしたいと思ったが、おそらく俺が乱入しても事態は好転しないだろう。
先程も強気メイドは俺のことを「あの豚」扱いしていた。
いくら本人がいないと思っているとはいえ、屋敷の中で雇い主の家族を豚扱いは駄目だろう。
まあ、そんなことをさせるほど、ポールが軽蔑されているのだろうが・・・・・・
「それにしても、あの豚もとっととくたばればいいのにね。出来損ないがいなくなるだけで、この屋敷の雰囲気も良くなるわ」
「・・・・・・」
本気で酷いことを言われている。
今までのポールを考えれば仕方がないと思っていたが、流石に言い過ぎではないだろうか?
被害者であれば文句を言う権利があるだろうが、偉そうな彼女の様子からポールと直接関係があるようには見えない。
おそらく後妻側で働いているのだろう。
「・・・・・・訂正してください」
「あ?」
突然、フィエラが口を開いた。
周囲のメイドたちも予想外だったのだろう、怪訝そうな反応をする。
そんな彼女たちをフィエラはまっすぐ睨み付ける。
「ポール様は素晴らしい人です。出来損ないではありません」
「っ⁉」
フィエラの言葉に俺は驚いてしまった。
正直、俺から見てもポールは出来損ないである。
これに関してはメイドたちの方が正しいはずだ。
それなのに、フィエラはポールの味方をしていた。
「あんた、馬鹿なの? あの豚は出来損ないだから、侯爵家の人間としても認められてないんでしょ?」
どうやらポールは侯爵家の人間として認められていないのか。
予想外の事実にショックを隠せない。
なかなかハードな人生になりそうだ。
「そんなことは関係ありません。ポール様は人のことを気にかける優しい方です」
「はぁ? そんなわけないでしょ? あの豚が過去に何をしようとしたか、知っているの?」
フィエラの反論を強気メイドは否定する。
おそらくポールが家族からつまはじきされた事件のことを言っているのだろう。
あの一件を知っていれば、彼女の考えも理解できる。
だが、フィエラは首を横に振る。
「たしかに、ポール様には悪いことをした過去はあるでしょう。ですが、今のあの方はその過去を反省し、まともになろうとしているのです」
「・・・・・・」
フィエラの言葉に心が温かくなるのを感じた。
初めて敵意を向けることない味方に出会えた気がした。
「ああ、こいつはもう駄目だわ。いや、殴ったら元に戻るか?」
強気メイドが呆れたような反応をする。
右腕を大きく振りかぶり、フィエラに殴りかかった。
(バキッ)
「「「「「っ⁉」」」」」
殴られた鈍い音が聞こえてくる。
だが、その場にいた全員が驚いていた。
「・・・・・・痛い」
「ポール様っ⁉」
強気メイドが殴ったのは俺の左頬だった。
贅肉で衝撃を吸収しても、流石に殴られるのは痛かった。
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