第7話 悪役豚貴族は図書室を訪れる
「ここだな」
俺は古くさい扉の前に立っていた。
広い屋敷の奥の方にあり、昼間にもかかわらず光があまり届いていないので薄暗い。
まるで幽霊が出そうな雰囲気のため、子供はあまり近づきたくないと思うだろう。
「入るか」
(ギイッ)
ゆっくりと扉を開く。
薄暗い雰囲気ではあるが、しっかりと手入れはされているようだ。
思ったよりもスムーズに開いた。
中に入ると、部屋中に設置されている棚が目に入った。。
棚には様々な本が並んでいる。
いわゆる図書室である。
インターネットなどない世界で知識を得るのなら、やはり本だろう。
「おや、珍しい方がいらっしゃいますな」
「っ⁉」
いきなり近くで話しかけられ、思わず飛び退いてしまう。
そこには腰が曲がった老人がいた。
白く長い髭と薄く寂しい頭、古くさいローブを着ているのは何とも雰囲気があった。
彼の情報もポールの記憶の中にあった。
この図書室の管理人リブラである。
「本を大事に扱わない悪童が何のようですかな?」
質問をしてくるが、その言葉には悪意が充満していた。
それも当然だろう。
かつてのポールは勉強がとても大嫌いだった。
勉強にとって大事な本を投げたり、破いたり──乱雑に扱っていたのだ。
その結果、図書室に出入りを禁止されていた。
本来、この部屋に来ることすら許されていないのだ。
「魔法について学びに来た」
俺は目的を嘘偽りなく伝えた。
この世界には魔法が存在するが、日本で生きてきた俺にはまったく知識がない。
そのため、この世界の書物から知識を得ようとしたのだ。
残念ながら、勉強をしてこなかったポールの記憶には魔法の知識はなく、自力で手に入れる必要があったのだ。
「勉強から逃げていたのに、今更ですかな?」
「ああ、そうだ。今更だが、魔法を学ぶことがいかに大事かわかったんだ」
敵意を隠さないリブラの質問に真っ向から答える。
この世界で生きていくためには魔法が必要である。
しかも、ただ扱えるだけではない。
自分の思い通りに──自由自在に扱えるようにならないといけない。
そうしないと、第1章の最弱ボスであるポールが生き残れるわけがないのだ。
「儂はあなたを出禁にしたと思いますが?」
「ええ、その通りです」
「出禁という言葉の意味すらわからないのですかな?」
「言葉の意味も承知の上です」
やはり相当嫌われているようだ。
彼の視線はどんどん鋭くなっていく。
腰の曲がった老人のはずなのに、その敵意に身震いしてしまう。
だが、俺も引くわけにはいかないのだ。
「では、早く出て行ってもらえますかな? あなたにお渡しできる本はここにはありませので」
彼は部屋の奥に戻ろうとする。
これ以上、俺と話したくないと思ったのだろう。
このままではまずいと思った俺は咄嗟に行動した。
(ガバッ)
「申し訳ありませんでした」
「なっ⁉」
突然の俺の行動にリブラは驚愕の表情を浮かべる。
まさか土下座をされるとは思わなかったのだろう。
ポールは非常にプライドが高い、まさに貴族らしい性格だった。
そのため、自分から謝ることなどまずないと思われていた。
そんな彼(中身は俺)が土下座をしたのだから、驚かれて当然なのだ。
「何をしていらっしゃるのですか」
「今までのことは申し訳なかった。あなたにとって、本がどれほど大事なのか理解できていなかった」
慌てているリブラをよそに、しっかりと謝罪の言葉を告げる。
リブラは長年、この図書室を管理してきていた。
薄暗い空気とは裏腹にきっちり手入れをされている部屋。
彼が管理人として働いていることを示しているのだ。
だからこそ、彼にとってこの部屋の本はかけがえのない存在なのだ。
そんな存在をかつてのポールは乱雑に扱っていた。
とても許される行為ではない。
「すぐに信じてくれとは言わない。だが、俺は今までの行いを反省し、改心しようと思っているんだ」
さらに謝罪の言葉を続ける。
すでに俺の意識が乗っ取っているので、改心は終わっているかもしれない。
だが、今までの行いの反省──贖罪はまだ終わっていない。
意識の主導権が俺に変わっても、続けていかないといけない。
その思いを嘘偽りなく伝えたのだ。
「出て行ってもらえませんかな」
「ですが・・・・・・」
「出て行け、と言っておるのがわからぬかっ!」
「っ⁉」
いきなり怒鳴られ、俺は身体を震わせる。
腰の曲がった老人とは思えない怒声だった。
だが、それほどまでに彼はポールを嫌っているようだ。
現状、俺が本を借りることはできないだろう。
残念ではあるが、今はこの場から立ち去るしかなかった。
「・・・・・・」
目的を達成できなかった俺はとぼとぼと図書室を後にする。
そんな様子をリブラはじっと見ていたが、俺はそれに気づかなかった。
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