閑話1 当主と継母は今後の侯爵家の未来を話す
「・・・・・・」
「エデル様、どうされました?」
手を前に組んだ状態のエデルにエリーゼが話しかける。
ポールから衝撃の秘密を告げられた後、談話室には2人だけが残っていた。
そんな中、エデルは考え込んでいた。
「まさかポールがあんなことを考えていたなんてな」
ポールが自分から廃嫡を提案してくるとは思わなかった。
彼は自分がヴァイス侯爵家の者であることに固執していた。
だからこそ、エリーゼやシオンのことを拒絶し、シャトンに危害を加えようとしたのだ。
褒められた行動ではないとはいえ、自分の居場所を守ろうとしたという意味では理解できないこともなかった。
「以前のポール君ならありえない話ですね。でも、それだけ怖い夢だったんでしょう」
「まあ、それもどこまで本当の話なのかはわからないがな」
「あら、信じていらっしゃらないの?」
エデルの言葉にエリーゼは大げさに驚いた反応をする。
そんな彼女にエデルは呆れたような視線を向ける。
「それはリーゼもだろう。流石にあの話を全て信じるほど素直じゃないはずだ」
「あら、そんな風に言うなんて・・・・・・性格が悪いみたいじゃないですか」
「事実だろう? ただただ素直な女性が兄さんと平民として結婚生活を送れるはずはなかったはずだ」
困ったような表情を浮かべる彼女にエデルははっきりと告げた。
嘘をつけないとわかったのか、エリーゼは笑みを浮かべる。
「まあ、そうですね。ヴァイス侯爵家を出たばかりのあの人は平民の生活なんて一切できていませんでしたね。私が色々と頑張らないと、1週間も生きられなかったでしょう」
「・・・・・・そこまでか。苦労を掛けたな」
想像以上のやばさにエデルは思わず引いてしまう。
1週間も生き残れないなど、生活が下手すぎるだろう。
「まあ、あの人が学ぶ意思があったので、色々と指導しましたよ。最初は苦労した生活も、数ヶ月もすれば安定しましたからね」
「よっぽどリーゼのことを愛していたんだろうな。兄さんらしいな」
兄のことを思い出し、エデルは懐かしむような表情を浮かべる。
性格は真逆ではあったが、決して悪い間柄ではなかった。
むしろ、かなり仲が良かった。
「そういう意味ではエデル様も似ていますね」
「は?」
「だって、前の奥様のことをずっと愛していますよね? 一途なところがそっくりです」
「・・・・・・」
からかわれているような言葉にエデルは目線を逸らす。
真っ向から一途と言われ、思わず照れてしまったのだ。
政略結婚だったので、本人としては愛情など二の次だと思っていた。
それなのに、実は愛していたなんて自分でも信じられていない。
「元々、あの人の婚約者だったんですよね。だから、初めての恋心を諦めるしかなかった」
「・・・・・・兄さんから聞いたのか?」
自分しか知らないはずの気持ちを告げられ、思わず睨んでしまう。
もちろん、話の出所は一つだけだった。
「ええ、そうですよ。あの人は酔ったとき、いつもエデル様の話をしていましたよ。自分より優秀なのに後から生まれたせいでスペアとして過ごすしかなかった、ってね」
「・・・・・・そんなことを思っていたのか」
知らなかった真実を伝えられ、素直に驚いていた。
自由に生きてきた人だと思っていたが、まさか自分のことを気にかけてくれているとは思っていなかった。
「もしかして、リーゼと結婚するために平民になったのも?」
「半分はエデル様のためですね。もう半分は自分のためですけど」
「まったく何を考えているんだ、兄さんは・・・・・・」
兄の突拍子もない行動に思わず呆れた声を漏らしてしまう。
だが、怒りの感情はまったくない。
むしろ、あの人らしいと納得していた。
「というわけで、私たちはそれぞれの忘れ形見を立派に育てあげないといけませんね。それが亡くなった方々への弔いになるはずです」
「そうだな。色々と迷惑を掛けると思うが、これからもよろしく頼む」
「ええ、よろしくお願いします」
2人は改めて子供達を立派に育て上げることを誓い合った。
以前は難しいと思っていたことも、今日の出来事で良い方に進んでいるように感じた。
これからも様々な問題が起こるかもしれないが、乗り越えていけるはずだと2人は期待できた。
「これからのヴァイス侯爵家の幸せを願って、乾杯」
「乾杯」
今日の決意を祝うため、2人は乾杯をする。
談話室は和やかな空気で満ちていた。
・裏話
2人のグラスにはアルコールが入っていません。
以前に間違いを起こして以来、禁酒をしています。
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