エピローグ 悪役豚貴族は獣人メイドから信頼されている
「まさかあんな秘密があるなんて思いもしませんでしたよ」
自室に戻ると、フィエラが口を開いた。
その声音はどこか寂しさを感じてしまう。
この世界に転生してから一番長く共に過ごしているのが彼女なのだ。
秘密にされたことが悲しいのかもしれない。
「俺のことが信用できないなら、離れても構わないぞ」
彼女に提案してみる。
正直、頭がおかしいことを言った自覚はある。
ヴァイス侯爵家の者達は受け入れてくれたが、信じないのが普通である。
彼女が俺から離れようと思っているのなら、拒否するつもりもない。
「それ、本気で言っています?」
「え?」
だが、フィエラから返ってきたのは予想外の反応だった。
思わず驚きの声を漏らしてしまう。
「私がポール様から離れるなんて、万に一つもありえませんよ」
「俺の言ったことが信じられないんじゃないのか?」
「そんなことを言ったつもりはないですよ。おそらくポール様はほとんど嘘はついていないでしょう」
「ほとんど?」
どこか含みのある言い方に反応してしまう。
信じてもらえるのはありがたいが、まさか本当のことがバレているのだろうか?
「あくまで直感ですが、まだ言っていないことがあるのでは?」
「っ⁉」
まさかの指摘に身体を震わせてしまう。
それだけで図星であることがバレてまっただろう。
まさかフィエラにバレるとは思ってもいなかった。
彼女はこういう心理戦などは苦手だと思っていた。
「もちろん、聞くつもりはないですよ」
「良いのか?」
だが、彼女はこれ以上問い詰める気はないようだ。
ありがたい話だが、どうしてわざわざこんな話をしたのだろうか?
純粋な疑問が俺の中に残る。
「今は話さない方が良いと思ったんでしょう? 学はないですが、私でもそれぐらいはわかりますよ」
「さっきよりもおかしな話かもしれないぞ」
「そうでしょうね。聞くことになったら、それなりの覚悟が必要ですね」
彼女は肩をすくめて苦笑する。
学はないのかもしれないが、頭が悪いわけではないだろう。
いや、勘が鋭いと言った方が良いか?
そんな彼女だからこそ、俺にまだ秘密があるとバレたわけだ。
「とりあえず、ポール様に秘密を話してもらえるぐらい信頼されるよう頑張っていきますね」
「今も十分に信頼しているつもりだけどな」
「でも、ヴァイス侯爵家から出て行くとき、私を連れて行くつもりはなかったでしょう?」
「・・・・・・」
フィエラの指摘に何も言えなかった。
たしかに、俺が廃嫡されるとき、彼女を連れて行くことを考えていなかった。
廃嫡されるということは、貴族の生活を全て投げ出すということだ。
冒険者になって収入を得る予定とはいえ、今までのような生活はできるわけがない。
だからこそ、ヴァイス侯爵家のメイドという立場を彼女から奪おうとは思わなかったのだ。
もしかすると、彼女はそれが嫌だったのかもしれない。
「たとえポール様にどんな秘密があろうと、私は最後までついていくつもりです。覚悟してくださいね」
「・・・・・・わかったよ」
フィエラにつきまとうことを宣言され、俺は諦めたように受け入れた。
彼女の真剣な表情から本気で言っていることがわかった。
まさかそこまで信頼されているとは思っていなかった。
だが、彼女のような存在がいれば、ポールの悪落ちのシナリオは回避できるかもしれない。
その可能性を信じ、彼女と過ごすのも悪くないだろう。
いつか完全に信用できたとき、俺の秘密の全てを彼女に伝えられるはずだ。
まあ、それがいつになるかわからないけどな。
第2章本編はここで終了です。
次回から閑話です。
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